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事件のトリック



あたしは有森君が椅子に座ったのを見て立ち上がると、棚の上に置いてある人形の元へと向かった。
そしてその人形の服の下をめくると、そこから出てきたのは矢がセットされていないボーガンで。
あたしはそれを手に取った。



『危ないんで矢は外させてもらったよ』



そう言ってボーガンを軽く振ると、有森君は視線を逸らした。



『今、君が座っている友代の席を狙って···君はこの罠を仕掛けた。7時半に時間をセットしてたんだよ。ついでに第二の殺人のトリックも言ってあげようか?』



あたしは剣持警部の方へとボーガンを持ちながら歩き出す。



『晴美は部屋の中で殺され、外に運び出されたんだ』
「しかし彼女の首に残っていたのはあきらかにワイヤーの人形用だぞ。どこで首を吊ったって言うんだ」



向井刑事の言葉を聞きながらあたしは警部にボーガンを渡した。
警部はあたしから受け取ったそれを本物か確かめて机の上に置く。
向井刑事の言葉に答えたのははじめちゃんだった。



「窓です。桐生の部屋にはちょっとした仕掛けがあったんです」



警部の後ろにいたあたしの隣にはじめちゃんはやってきて、ポケットに入れていた館内地図を取り出して広げた。



「あの夜、有森は桐生の上の部屋。つまり日高の部屋から内線電話をかけ、桐生が窓の下を見るように仕向けた。そして彼女が顔を出したのを見計らって」



あらかじめ窓から垂らしていたワイヤーを顔を出した彼女の首にひっかけて自分は日高さんの部屋からそのワイヤーを引っ張る。
自然と首が仰け反り、締め付けられる形となる晴美。



「そうやってお前は桐生を殺したんだ!」



はじめちゃんは有森君を睨みつけた。
あきらかに目線をそらす有森君を睨み続けてはじめちゃんは言葉を続けた。



「日高の部屋の窓の片隅にはその時のワイヤーの跡がくっきり残ってた。後はワイヤーを使って下まで下り、桐生の靴を履いて死体を吊るした」



有森君は晴美をおぶさって彼女の靴を履くと窓から下りて木の所まで歩いたのだ。



「そうやって跡を残さないように芝生を選んで部屋に戻ったんだ」
「そんな···犯人は海に落ちて死んだんじゃないか。どうして僕が犯人だと決めつけるんだよっ」
「それもお前のトリックだからだよ!」



有森君はわずかに目を見開いた。



『君は用済みのカゲツに全ての罪を着せ、葬ったんだよ』



みんなが有森君を見つめる。



「けど、そのトリックこそがお前が真犯人だって事を証明してんだよ!」
『あの時、あたしとはじめちゃんは逃げるカゲツを追いかけた。だけどはじめちゃんは君とぶつかり、カゲツの足跡はそのまま窓に続いていた。廊下の反対側から来た布施君たちはカゲツには会っていなかった。だから···みんなカゲツはてっきり海に飛び込んでしまったものと考えてしまった』
「だがお前はここで致命的なミスをおかしていた。窓の手すりだよ」



有森君を睨みつけながらそう言うと彼はあたしたちから視線を逸らした。



「あの窓の高さから手すりに手をかけずに外に出るのは難しい。つまり犯人は窓から出たのではなく···そのまま廊下に残ってたんだ」



窓の近くへと逃げて来た犯人は羽織っていたマントとマスクをそのまま窓から海に投げ捨て、あたしとはじめちゃんが来る反対側の廊下の角に潜み、タイミングを見計らって今来たかのようにはじめちゃんとぶつかる。



「犯人は俺たちが廊下の角を曲がって最初に会った人物。有森······お前ってことになるんだよ!」





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