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集められた客



それから数日、あたしと空とはじめちゃんと美雪は私服姿で森の中のバス停に立っていた。
オフショルダーのトップスに短パン姿のあたしの隣ではじめちゃんが荷物を持ちながらキョロキョロと辺りを見回す。



「それにしてもゆづちゃんも来れてよかったわ。空ちゃんも」
「私は柚葉の付き添いだけどね」
『まさか、お父さんに招待状が届いているとは···』



肩からずり落ちそうな斜め掛けのボストンバッグをかけ直す。

そう、あれから美雪とはじめちゃんに「一緒に来てほしい」と何度もお願いされたが、『招待状がないから無理』と言って帰った夜、何とお父さん宛に同じ招待状が届いていたのだ。
きっとリゾート地の開発にお母さんが携わったから、家の主人のお父さん宛に来たのだろう。
だが、お父さんは今出版の方に忙しいし、お母さんも会社の方で忙しく行ける状態ではなかったので代わりにあたしが行くことになったのだ。
しかもすでに責任者の方には娘が代理で行くと伝えてあるらしい。


巻き込むのはやめてくれ···。


と思いながら渡された招待状にはペアと書かれてあったので、あたしは行きたがっていた空を誘ったのだ。


これ、お父さんが来るつもりで送ったんだろうから、お母さんも入れてペアって事にしたんだろうなぁ。



「まさか武内連れてくるとは思わなかったけどな」
「悪かったわね、金田一君。柚葉だけじゃなくて」
「そんな事言ってないだろ!?」



顔を赤くしながら空に言い返すはじめちゃんを空と美雪がニヤニヤと見ている。
美雪、空、あたし、はじめちゃんで横一列に並んでいるのだが、騒ぐなら他所でやって欲しい。と首裏に手を当てながらため息を吐いて視線を地面に落とした。

武内とは空のことだ。
実は空はこの四日間、部活があったのだが、あたしが誘うと「部活なんて関係ないわ!」と言って顧問に適当な理由をつけて休んだらしい。


これ、バレたら絶対こいつ怒られるやつだな。


あたしも行くことになったという周旨を美雪に電話で伝えると彼女は「じゃあ一緒に行きましょう!」と此方が引くぐらいのテンションでそう言ったのだ。
そして当日、はじめちゃんと合流して、あたしたち四人は途中まであたしの家の車でここまで来たというわけだ。



『騒がないで静かに待ってて』



あたしがそう言うと三人は黙り込んだ。
行きたくもない所に連れてこられてあたしの機嫌は最低最悪だ。
まぁ、隣の空は興奮したように鼻歌を歌いながら辺りを見回しているが。
聞けば、あたしと長く一緒にいれるのが嬉しいらしい。


呑気な奴···。


あたしは空を横目に見て、溜息を吐くと目の前へと視線を向けた。
そこには、葉っぱに埋もれながら何かをぎゅっと抱きかかえて此方を見る眼鏡の人。
同じくその人を見ていたらしい美雪とはじめちゃんもその人と視線が合って、あたしたちは気まずげに視線を合わすと横へと視線を逸らした。

美雪より少し遠くに立っているスーツを着ている男の人。
はじめちゃんがニヤニヤとしながら前に向き直ると、美雪が「ねぇ」と言いながら空の肩を叩いた。
そしてあたしたちに聞こえるぐらいの小声で話す。



「あの人たちもさ、わたしたちと同じツアーなのかな?あ、でも集合場所にいるんだからそうだよね?」
「うん」



ニヤニヤとした顔で頷くはじめちゃん。
あたしはその顔を目を細めながら見た。



『なにニヤついてんのよ』



するとはじめちゃんは急に真剣な顔になって。



「めくるめく甘い夜はもうすぐやってくる」



そう言ってフッと笑うはじめちゃんにあたしは呆れたように視線を逸らしてから彼を睨みつけた。



『こないわよ!もう、はじめちゃんちょっとでもやらしい期待してるんだったら大間違いだからね!?』



それでもニヤつくはじめちゃん。
そんな彼を見ながら美雪と空は同時に溜息を吐いた。



(ゆづちゃんがいるから嬉しいんだろうなぁ)
(柚葉がいるから嬉しいんだろうなぁ)



そんな事を考えているふたりに気付くはずもなく、あたしがニヤつくはじめちゃんの肩をバシッと叩くとクラクションの音が聞こえた。
視線を向けるとバスが此方に向かって来た。

ドアが開くとその中から水色の服を着る女性と汗をハンカチで拭く男性が降りて来た。
女性は辺りを見回しながら口を開く。



「これが一大リゾート?あんた騙されたんじゃないの!?」



そして次に降りてきたのはふたりの男性で。
彼らは女性と男性を挟んで両脇に立った。



「確かに間違いないよ。」



バスが目の前から去っていく。


まぁ、女性の言いたいこともわかりますけどね。


すると一人の男性があたしと美雪と空を見て声をかけてきた。



「あれ?七瀬君と鈴蘭君と武内君じゃないの?」
「え?」
「君達もこのツアーに?」



あたしはその顔を見て『あっ!』と声を上げた。



『遠野先輩···!』



美雪と空も「あっ」と声を上げる。
するとはじめちゃんがあたしの方に詰め寄って来た。



「誰」
『あ、遠野英治さん。うちの高校の先輩』



はじめちゃんにそう説明していると、先輩ははじめちゃんを指差しながら言った。



「彼氏?」



その瞬間、はじめちゃんが隣にあるバス停の標識に手をかけてカッコつけるのを視界の端に確認しながらあたしは手を横に振った。



『かれ、し···とんでもない!ただの幼なじみです!!』
「というか、付き人くんです」



にこやかに美雪はそう言うと鞄をはじめちゃんに押し付けた。



「付き人くん!?」



驚きの声をあげるはじめちゃんにあたしと空は思わず苦笑した。
先輩は「そっか!」と笑うと腕時計を見る。



「もうそろそろだな···」



先輩がそう言って辺りを見回したその時、「お待たせしました!」と旗を持った人が来た。



「観月ツーリストの九条です」



そう言って頭を下げる。



「それじゃあ、さっそくですがお名前の確認を。香山三郎様」
「はい」
「香山聖子様」
「はい」



先程の男女二人組が手を挙げて彼の前に並ぶ。



「いつき陽介様」
「はい」



たばこを吸っていた男の人が並ぶ。



「甲田征作様」



あたしたちより先に来ていたスーツの人が無言で手を挙げて並ぶ。



「小林星二様」
「はい」



目の前で立っていた男性が手を挙げて並ぶ。



「遠野英治様」
「はい」



先輩が手を挙げて並ぶ。



「鈴蘭柚葉様とお連れの方」
「はい」



空があたしの代わりに返事をして腕を引っ張って前に出る。



「橘川茂様とお連れの方。」



最初きょろきょろと見回していたはじめちゃんの腕を小突くと、自分だとわかったようではじめちゃんは「は、はい」と言いながら美雪と一緒に手を挙げた。



「皆さんお揃いのようですね。それじゃ、行きましょうか」
「歩いて?」
「ええ。すぐそこですから」
「どれくらいよ?」
「2キロほどです」



そう言ってスニーカーを見せる彼にあたしたちは固まった。


2キロも歩くのかよ···。


あたしたちは一列になって、砂利道を登った。
砂利で滑る場所を一歩後ろを歩く美雪と空の手を握って歩く。
隣の先輩は「大丈夫か?」とあたしを気遣ってくれた。
それに頷き返して、一番最後尾を歩いているはじめちゃんをチラチラと振り返りながら歩みを進める。

美雪の分を持っているはじめちゃんは重そうな足取りだ。
空はテニス部で鍛えられた足なので美雪より軽そうだが、足場が滑るため少しキツそうである。





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