授業中の侵入者 窓際の席でクラスメートの"時田若葉"が英語をスラスラと呼んでいるのを右から左に流しながらあたしは欠伸を噛み殺した。 窓際の席は日当たりが良く居眠りには絶好の場所なのだが、後ろの席と真横の席が幼なじみ二人な為滅多に眠れることはない。 美雪はあたしが眠らないように常に起こしてくるし、後ろの席のはじめちゃんはあたしにちょっかいを出しては眠りの時間を妨げている。 くっそ、早く次の席替えがしたい。 はじめちゃんが転校してきて席替えをしたのにまた幼なじみが近いってどういう事だ。 小田切先生は英文を読み終えた若葉を褒めると、次はあたしの隣で授業を真面目に聞いていた美雪を当てた。 「はい」と返事をして立ち上がる。 すると後ろの席から酷い匂いがした。 これは···納豆? 美雪がスラスラと英文を読むのを横目に体を後ろに軽く倒して前を向きながら後ろのはじめちゃんに声をかける。 勿論小声で。 『ちょっとはじめちゃん、何やってんの?臭い』 「朝飯って言ったら納豆だろ?」 『家で食べて来なさいよ』 「しょうがねぇだろ、遅刻しそうだったんだから。あ、お前も食うか?」 『いらないわよっ。こんな奴が幼なじみなんて···。涙が出そう···』 「あっそ」 はじめちゃんはそう言いながらも納豆をかき混ぜている。 美雪がチラチラとこっちをみながら英文を読み進めている中、あたしが呆れて前を見ようとした時。 「いい匂いだな、金田一」 あたしの真横には先生が立ってはじめちゃんを見ていた。 「···先生もよかったら、どうぞ!」 そう言って納豆を差し出すはじめちゃんにあたしと美雪はため息を吐いた。 まぁ、勿論はじめちゃんは廊下にバケツを2個持って立たされることになり、そのまま授業は勧められた。 アホめ···。 眠気と闘いながら授業を受けていると、急に教室のドアがガラッと開いてガラの悪いお兄さんたちが入ってきた。 「おらァ!」と言いながら教室の机や椅子を蹴飛ばし、皆が悲鳴を上げてそいつらから距離を取る。 「ゆづちゃん···!」 美雪があたしに近づいてきて、腰巻にしていたカーディガンの袖を握ってきた。 あたしは美雪を庇うように後ろにやって、お兄さんたちを睨みつける お兄さんたちは椅子に座っていた若葉を無理矢理立たせた。 小田切先生が「何ですか、あなたたちは···っ!」と言った後すぐに黒い目出し帽を被った1人の男の人が教室に入ってきた。 「若葉···」 「お父様······」 お父様!? 「お前は今すぐワシと一緒に村に帰って許婚と結婚するんじゃ」 え、若葉っていい所のお嬢様!? 社長令嬢のあたしでさえ、許婚なんていないのに。 「どうして···っ···どうしてよ···」 「誰かがご親切に私に送ってくれたよ」 そう言って出したのは小田切先生と若葉が手を繋いで歩いている写真で。 あたしたちの間にザワメキが起こった。 マジか〜、若葉と先生が? 「お前を1人で東京などに行かせたばかりに。こんなことになって···!」 そう言って若葉のお父さんは写真を投げ捨てた。 「いや!私村になんて帰りたくない!!···許婚なんてお父様たちが勝手に決めたんじゃないの!!」 「式は明日に決まった」 「そんな···」 うわあああ、本当にあるんだ政略結婚なんて。 つうか、ちょっと強引すぎじゃね? あまりにも若葉が可哀相だ。 「待ってください。僕の話を聞いてください!」 そう言って若葉のお父さんに掴みかかった先生をお父さんは突き飛ばした。 先生は黒服の人に捕まる。 おいおい、ちょっとヤバいんじゃないの? 「先生···!」 先生の身を案じた若葉はすぐに黒服の人たちに連れて行かれた。 それを横目に見ながらあたしと真壁君と美雪ははじめちゃんに駆け寄る。 「はじめちゃん、止めて!早くっ、金田一耕助の孫でしょ!」 『頼むわよ、はじめちゃん!』 「そうだよ!行ってこい!!」 あたしたちははじめちゃんの背中を押して若葉のお父さんたちの前に突き出した。 突然割り込んできたはじめちゃんの周りを取り囲むお父さんたち。 はじめちゃんはそれを見回しながら声を出した。 「やい、てめーら。いい加減にしやがれ。どうしても彼女を連れていくって言うなら、この金田一一が···!」 「ふん!」 はじめちゃんは若葉のお父さんの杖で額を叩かれ、呆気なく床に倒れた。 お父さんたちは抵抗をする若葉を連れて去っていく。 あたしたちは急いではじめちゃんに駆け寄った。 『はじめちゃんっ!』 「はじめちゃん!」 「金田一君···!」 「金田一!」 ダメだ、こりゃ。 NEXT TOP |