襲われた彼女 -はじめside- 浅野先生が見守る中、俺は一生懸命血痕の跡を探していた。 「遅いな、柚葉と美雪のやつ···」 そう言って部室のある上の階を見上げた時、外から女子ふたりの「「きゃああ!」」と言う悲鳴が聞こえた。 先生と顔を見合わせてすぐに声の聞こえた方へと走る。 窓から覗いてみると、床にへたりこんでいる女子とその傍で立って何処かを見ている女子がいた。 その視線を追って木の方へと視線を向けると、高い枝から首を吊られている女子生徒がふたり。 俺はどうにもそのふたりに見覚えがあって、視線を上げていくと頭から血を流した美雪と柚葉だった。 ガシッと窓枠を掴む。 「柚葉···!!美雪···!!」 俺は「誰か!誰かあ!!」と辺りを見回して叫んだあと、呆然とふたりを見上げている先生を置いて、走り出した。 手術中という文字が頭上に光る。 俺は俯きながら手術室の前に立っていた。 美雪の家族が椅子に座って終わるのを待っていた時。 「柚葉は···!?」 一組の男女が此方に駆けてきた。 幼い頃お世話になった、柚葉のお母さんとお父さんだ。 柚葉のお母さんは社長で、お父さんは世界的有名な推理作家。 ふたりとも俺と美雪にとても良くしてくれた覚えがある。 「あなた···もしかしてはじめ君?」 柚葉のお母さん───理恵さんが俺を見て目を丸くする。 隣にいる柚葉のお父さん───優也さんも驚いた顔をしていた。 俺はおばさんたちに頭を下げた。 柚葉は···俺が守ってくれるって信じてた。 俺もあいつを······柚葉を守ってやるって思ってたのに。 「ごめん、おばさん、おじさん。俺が一緒にいたのに···!!」 頭を上げられなかった俺の傍におじさんの靴が見えた。 殴られる覚悟だった。 それぐらいの事をしたのは自覚してた。 だけどおじさんは俺の頭を撫でてくれた。 「お前が···お前が無事で良かったよ」 「どうせあの子······自分から突っ込んでいったんでしょ?はじめ君が謝ることじゃないわ」 「柚葉の奴···どうせ空手が使えるからって油断してたんだろ。お前のせいじゃない」 俺が頭を上げると二人は優しく微笑んでいて。 つい泣きそうになっているとおじさんはガシガシとその力強い手で頭を撫でてくれて、おばさんは俺を抱きしめてくれた。 その時、警部が来た。 「金田一君······わかったろ。捜査は子供の遊びじゃないんだ」 息を切らせながらそう言う警部に俺は視線を落とすと警部は頭をかきながら去って行った。 それを見送って、先生が俺の傍へと近寄って来る。 俺はそれを拒否するように後ろを向いた。 頭の中に、あの時の柚葉の笑顔が浮かぶ。 ───『もしもの事があったら金田一君が守ってくれるもんね』 「俺のせいです。俺があいつらを2人だけで部室に行かせたばっかりに····」 「······でもいったい、誰がこんなことを···」 その時、手術中の光が消えた。 俺たちは手術室へと顔を向ける。 すると、中から先生が出て来た。 「あの···先生!柚葉と美雪は!?」 「手間を尽くしましたが、後頭部の傷が思ったより深く、今はまだなんとも言えません。ま、後は本人の気力の問題です。鈴蘭さんの方はそこまで傷は深くなかったのですが、精神的ショックのためか、まだ目覚める余地はありません。本人の気力次第ですね」 そう言って去っていった先生。 俺が顔を俯かせると、同時に美雪の家族や先生も顔を覆って泣き始めた。 「柚葉···!」 おばさんもおじさんに縋りつく。 美雪と柚葉はそれぞれ頭に包帯を巻き、酸素マスクをつけた状態でそれぞれの病室へと運ばれた。 おばさんたちがそれについて病室へと入っていく中、俺は柚葉の病室の壁へと手をついて額を押しあてる。 横を医者が通った。 「頑張れ···柚葉···」 その後、俺はおじさんたちに病室へ入って来いと言われたが今の柚葉と対面が出来るはずがなく、彼女の病室の前をうろついていた。 でも、どうしてふたりが襲われたんだ···? 頭に浮かぶのは血のついたワープロと、階段で交わした会話。 ───「お前さっきワープロに変な文字が残ってたって言ったよな」 ───「うん」 そうだ、やっぱりあのワープロの文字に手掛かりがあったはずなんだ。 俺はそこまで考えておじさんとおばさんに出掛けて来る周旨を伝えてすぐに学校へと向かった。 部室のドアを開けて、急いでワープロを起動させると美雪が見たという文字を探すが、何処にもなく俺は「ちくしょうっ!」とドンと机を叩いた。 「遅かった···」 その後。 俺は翌朝になって臨時休校の学校へとミス研の皆を呼び出して30年前の事件を調べていた。 結局、放課後の魔術師の正体も的場先生で、今回の事件の犯人も先生だという事が分かり、今回の事件は先生の自殺という形で幕を下ろした。 NEXT TOP |