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 月夜の逢瀬

『お、今夜も月が綺麗だねえ』



お気に入りの枝垂れ桜の木に登ってお昼寝をしていた。
そうしたらまさかの寝すぎたらしく辺りは暗くなり、月が中天に差し掛かっている頃だった。
本家の広間からはどんちゃんと騒ぐ奴良組の妖怪たちの声が聞こえてくる。


なるほど。誰も起こしにこなかったのはどんちゃん騒ぎをしてるからか。もしくは「また寝てんのか〜」とか思われてるのかな?


ん?少しは起こしてくれてもよくない?我姫ぞ?私抜きで騒ぐって酷くない?


ん〜?と首を傾げていると隣から聞こえた笑い声に私はバッと身を引いた。



『リ、リクオ……きゃあっ!?』
「おっと」



身を引きすぎて枝から落ちてしまいそうになるが間一髪でリクオが支えてくれて助かった。枝の結構高いところにいたので落ちたら危なかった……!とバクバクと鳴る心臓を手で押さえながらリクオを振り返る。



『あ、あんたいつの間にここにきたの?』
「「お、今夜も月が綺麗だねえ」から」
『最初からかよ!!!』



思い切りツッコミながら体勢を直す。下手に落ちたりしたら危ない。私今人間のままなんだから。


ってかリクオ、支えてくれるのは嬉しいけど腰を支える手がやらしい。


バシッと思い切り手を叩いてもひっぺがそうとしても無駄だったのでそうそうに諦める。力で勝てるわけないもんな。知ってたよ!



「あんた本当におもしれねぇな」
『どこが』
「全部顔に出てたぜ?…ほら、持ってきてやったから拗ねんなよ」



そう言って取り出したのはお酒で。だがお猪口がひとつしかない。なるほど。



『注げってか』
「いつもしてんだろ?」



こいつ……!私のために持ってきたんじゃないのかよ!なんて文句を飲み込んで大人しく酌をする。


夜空に浮かぶ月を見上げながらお酒を飲むリクオの横顔がやけに綺麗に見えて、私は彼の肩へと頭をあずけた。



「上手い酒に傍らには『かぐや姫』。悪くねぇな」
『ふふっ。こんな綺麗な月なんだもん。私が月に帰らないように見張っててよね』



ただの冗談で言ったんだけど、リクオは黙ってしまった。いつもみたいにストレートに恥ずかしい言葉をいうと思っていたのに……と顔をあげると、目の前に妖艶に目を細めたリクオの顔があった。


ちっか!!


軽く触れあった唇。ほのかにお酒の香りが漂う。



「やらねぇよ。神夜だけは誰にも渡さねえ。必ずオレが守る」
『私も離れたくない…』



リクオの首に腕を回すと、腰にあった手にぐっと力がこめられた。近づく距離にそのまま目を閉じて彼からのあつい口づけに身をゆだねる。


大好きだよ、リクオ……。


遠くで私とリクオを呼ぶ氷麗の声が聞こえた。



月夜の逢瀬

それからやっと宴へと呼ばれた私は
私抜きでどんちゃんと騒いでいた妖怪たちを
思い切り蹴飛ばした




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