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 君想ふ

月が中天に差し掛かる夜。


盛り上がり続ける広間から出て私は一人、垂れ桜の木に登って酔いを冷ましていた。ちょっと飲みすぎたかなぁ。


月明かりがユラユラと揺れる九つの尻尾の影を照らし出す。私は枝から足をブラブラとさせながら月を見上げた。


広間からはいまだに騒ぐ奴良組のみんなの声が聞こえる。



『まったく…』



私はクスッと笑うと、そっと唇を撫でた。



"オレが全部守ってやるよ。お前の想いもその涙も。───全部オレが守ってやるよ"



リクオのあの言葉。今でも胸に残ってる。母のようになりたくないと、心で悲鳴をあげていた私を救い上げてくれた。


リクオは必ず私を守ってくれた。守られるほど弱くもないけれど、それでも彼は守ってくれた。


私の想いも、私が流した涙も。全部全部守ってくれた。


ねえリクオ───あなたは知ってる?あの時のあなたの言葉がどれほど私の心に響いたか。どれだけ───力の糧になっているか……。


まぁたぶん、知らないだろうな、あいつは。今も可愛い子たちに囲まれて酌をされている頃だろう。ったく、これだからイケメンは……!!


ブツブツとリクオに対して内心で文句を言っているとふわりと後ろから暖かいものに包まれた。かぎなれた匂いと体温に安心感が全体に広まる。



「何考えてたんだい…?」
『なんだと思う?』



ぎゅっと抱き締める強さ。そして首筋に触れるリクオの吐息。くすぐったくて私はクスクスと笑いながら身を捩った。



『くすぐったいよ、リクオ』
「何考えてたか教えてくれたら離れてやるよ」



離れる…ねえ。



『じゃあ、離してほしくないから言わない』
「あんたは…」



はぁ…とため息を吐いてリクオは項垂れるように私の肩に顔を埋めた。ありゃ?飽きられたかな?



「どんだけオレを溺れさせれば気がすむんだよ…」
『いくらでも?』



ずっと私だけを見ていて欲しいから。私だけを想って欲しいから。


顔を見合わせた私たちは、月明かりが照らし出す中そっと唇を合わせた。



君想ふ

いつだって想うのは
あなただけ
おまえだけ



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