夜の探検に出る
「見ろ!!あれを!!絶壁の妖怪スポットだ···「牛隠れの洞窟」!!」
清継くん、リクオ、私、島くんと並んで崖下にある洞窟を上から見下ろす。ビュウウウ···と崖下から聞こえる風の音に少し肩が揺れた。
そんな私を見てリクオはそっと手を握ってくれた。
君の手暖かいね。
「かつてこの山で妖怪におそわれた法師が逃げ込んで百日間すごしたという洞窟···よし島くんおりよう」
「むりですよ!!」
だろうね。
そんな私達の後ろで氷麗はキョロキョロと周り見ていた。そしてガサッと草木が揺れると、氷麗は。
「神夜様、リクオ様あぶなーい」
ドシーンと私達を押した。当然崖下を覗いていた私達はそのまま崖下に落ちるわけでして。
「ふー。なんだただのたぬきか···」
『「
······」』
いや私達の押された意味は。あんまり高さはなかったから大したケガはなかったが結構痛かった。
それからというもの私とリクオの周りを守る様に歩き回る氷麗。私とリクオが不思議に思って顔を見合わせていると前を歩いていた氷麗が「わひっ」と声を上げた。
今度は何。
「わ···罠ですー!!罠がー!!罠がー!!」
『くもの巣だよ』私が溜息を吐いてそう言うとリクオが氷麗の頭についていたくもの巣を取ってくれた。
そしてしばらく歩くと丸い穴の開いたご神木のような木があった。そこで清継くんは足を止めた。
「おおっ!見たまえ。入れるような木のわれめ···妖怪スポット「一ツ目杉」だ···これはくぐらねば!!」
「危なそうだなぁ···よし、ボクが先に行くよ!神夜はちょっと待ってて」
『はーい』
ちょっと険しい道だったのでリクオと手をつないでいたのだが。手を離したリクオが前に進もうとするとそれより先に氷麗が前に出た。
「だめですリクオ様!!私が先に行きます!!」
『「つらら···?」』
さっきからおかしい氷麗の行動に首を傾げる私達。
まあ、案の定リュックを背負ったまま穴を通ろうとしているので、リュックが引っ掛かっただけなのだがそれさえも気づいていない氷麗は穴に頭だけ突っ込んだ状態でバタバタと暴れた。
「う、うわあ!!先に···先に行けないー!!妖怪です···妖怪の術です、これはー!!」
「リュックリュック!!」
慌てたリクオが急いで氷麗を穴の中から抜き出す。そんな二人に呆れた清継くんは島くんを連れて先に歩みを進めた。それをチラリと横目で見て二人に近づく。
髪の毛ボサボサだよ、氷麗。
『もー···さっきから何してるのよ?』
「姫と若を守るのが私の···役目でございます!!」
胸張ってそう言った氷麗に私とリクオは顔を見合わせた。
『き、気持ちはうれしいけどさ···』
「でもいーから!!ボクらは大丈夫だから」
「いーから?よくないですよ」
手を横に振りながら私達がそう返事をすると氷麗は怪訝そうに顔をしかめて胸に手を当てて何処か焦った面持ちで声を上げた。
「二人は今、人間で···!!私しか側近いないんですもの!!青もいないし···」
私は一応いつでも金狐に変化できるんだけどね。
私ははぁ···と溜息を吐くと先に歩き出している清継くんと島くんをチラリと横目で振り返る。
『私達なんかよりあの二人を守ることを考えなきゃ』
そんな私の言葉にリクオはうんうんと頷くと辺りをぐるりと見回した。夜ということもあり周りは真っ暗で冷たい風が吹くとザワリと木々が揺れる。
「牛鬼の山なんだろ?うちの組の奴だけど···何かあってからじゃ遅いんだ」
そんなリクオに氷麗はショボーンとしながら「そーですけど···」と力なく呟いた。
まあ氷麗の言いたいこともわかるけど私達のことより今はあの二人を守らないと。牛鬼組···何をしでかすかわからないし。捩眼山に行く前におじいちゃんから「気をつけろ」って言われちゃったし。
「うーん、こんなにも妖怪スポットを巡ってるのに···妖怪には巡り逢えないものだなぁ」
「まあ···その方が···」
すると前を歩いていた島くんと清継くんの様子がおかしくなった。
今、私達の前にあるのは二つの別れ道。
「おや···別れ道だ···」
「島くん···どっちに行ったら···会えるかな〜〜?妖怪···」
「左だと······思います·········」
「そうか······ボクは······右···だなぁ·········じゃあ···二手に別れるか···」
「さすが清継くん······いいっすねぇ···」
『「え?」』
突然しゃべり方がおかしくなった二人。何か言い方が途切れ途切れだし、しゃべり方に覇気がなさすぎる。
「ちょ、ちょっと···待って」
リクオが慌てて前の二人を止める。
私はその時木の上から何者かの気配を感じて振り返るが、周りが暗すぎて判らなかった。けど、何かいる。何者かがこの二人を狂わしてるんだ。
「つらら!!島くんを追って!!」
「え!?ま、待って下さい」
「神夜、行くよ!」
『あ、うん!』
後ろを振り返ったまま考え込んでいるとぐいっとリクオに手を引かれた。そのまま私達の名前を呼んでいる氷麗を放置して私達は右の道へと歩き出した清継くんを追いかけた。