捩眼山に留まる
ワイワイ騒いでいる皆を一歩離れた場所から見る。
やばいな。ここは牛鬼組の管轄だ。奴良組の中でもそうとうな武闘派と言われる牛鬼組。そんな所にみんなを長く留まらせるわけにはいかない。
「いーやだぁー」
「帰ろーよぉこんな山ー!!」
泣き声を上げる巻と鳥居がじっと皆を見つめたままの私に抱き着いてきた。急なことによろけるがぐっと足に力を入れて二人を抱き留める。
『二人とも···』
頼むから抱き着くのやめて。
後ろからすごい冷気漂ってるから。若干二名(カナとゆら)の後ろに般若見えるから。リクオの機嫌がまた悪くなるから。
そんな私の思考などわかるわけもなく二人は私の腕の中で泣きわめく。巻は泣きながら近くにあった大きな爪を指差した。
にしても近くで泣くから耳が痛い。
「みてよぉこーんなでかい爪ー死ぬって〜」
「ホントに食われちゃうよ〜妖怪に」
「そーだよ。鳥居さんと巻さんの言う通り。今すぐみんな帰った方がいいよ」
そう言うリクオの首に巻が腕を絡めると、
「よーし奴良!!あんたついてきな!!」
「神夜も行くよ!」
鳥居がそう言って私の腕を掴んで颯爽と歩き始めた。
まあ、さすがに牛鬼組の管轄となると危ないから帰らせようかと思ってたところなので丁度よかった。
だが、そんな私達にストップをかけたのは清継くん。
「待ちたまえ!!暗くなった山をおりる方が危険だ!!それにおりてもバスはもうない」
顔を歪ませながら私達は清継くんを振り返る。振り返った私達を見て清継くんはすぐ近くにあった一つの家を指して根も葉もない根拠を言い出した。
「ふふ!!何をビビっているんだ君たち!?ボクの別荘があるじゃーないか!!この山の妖怪研究の最前線!!セキュリティも当然バッグンだ!!」
「セキュリティ?妖怪に?」
『効くの?それ···』
リクオと私がそう問いかけると巻と鳥居も「そーだそーだ」と横から口を出した。だが清継くんが言うには使用人が時々来てるが何か出たなんて話、一回もないらしい。
「君たちは心配しすぎだ!!」
逆に何も心配してないあんたが一番心配だよ。
心の中でそう突っ込んでいると今まで黙って成り行きを見ていた化原先生が「ハッハッハッ···」と笑った。
「まぁ···いうても牛鬼なんて伝説じゃから。あのツメも誰かの作り物かもしれんしの〜」
「いや、それは···」
言葉を噤むリクオは私をチラリと見た。
何言っても無理だね。そう意味を込めて首を横に振った。