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私が叩かれた背中を擦りながら皆に追いつく頃にはなんか汚いおじさんがゆら達にじりじりと迫っていた。


なんだあのおじさん。



「いやぁ···うれしいなぁ〜。こんな若い年で妖怪が好きな女の子がたくさんいるなんて···」
「ううっ···」
「いや···好きじゃないです···」



嫌そうに後ろに下がる皆の前にすっと入ってニコッとおじさんに笑みを向ける。多分、この人が清継くんの言っていた作家にして妖怪研究家の化原あだしばら先生だろう。



『どうも。清継くんから話は聞いてます。なんでも妖怪の研究をしているとか。そんなに凄い先生にこの“梅若丸”について教えていただきたいんですが···』
「「「「神夜!!」」」」



女子(ゆら、カナ、巻、鳥居)からの「神夜〜」「やっときた〜」「助かった〜」という声に苦笑いを浮かべて私たちは化原先生の話を聞くため近くの石に腰を下ろす。


ちなみに私の周りは何故か女子に囲まれている。まあ、石が足りなくて私とリクオとゆらは立っているが。



「うむ···そいつは···この山の妖怪伝説の、主人公だよ」



ざわっと空気が揺らいだ気がした。


“梅若丸”
千年程前にこの山に迷い込んだやんごとなき家の少年の名。生き別れた母を探しに東へと旅をする途中、この山に住まう妖怪に襲われた。



「ほう···妖怪に···」



あれ?どっかで聞いたことあるな。


この地にあった一本杉の前で命を落とす。だが母を救えぬ無念の心がこの山の霊障にあてられたか哀しい存在へと姿を変えた。


梅若丸は“鬼”となり、この山に迷い込む者どもをおそうようになったのだ。



「その梅若丸の暴走をくいとめるためにこの山にはいくつもの供養碑がある。そのうちの一つがこの「梅若丸のほこら」だ」
「ふむ···」
「どうかね?すばらしいだろー?妖怪になっちゃうんだよー」



アホくさ。


楽しそうに笑いながらそう言う化原先生に皆はワイワイと騒ぎ始める。



「よくある···妖怪伝説っぽいですね···?」
「意外にありがちな昔話じゃんか」
「妖怪先生が妖怪修行なんてゆーからさー」



みんながワイワイと騒がしくする中、私とリクオは顔を見合わせて少し考え込んだ。


まさかね···。



「あれ?信じてない?んじゃーもう少し見て廻ろうか〜···」



そんな事を言う化原先生を先頭に私達はまた山を登り始めた。


だんだんと険しくなっていく山道。だがその道端には「入ルベカラズ」と書かれた看板が立っていた。


おいおい、大丈夫なわけ?ここ。



「うふふ···姫様〜リクオ様〜行く前は心配でしたけど旅行って楽し〜ですね〜。梅若丸なんて妖怪知ってます〜?」



うきうき気分で後ろから話しかけてきた氷麗を私とリクオはチラリと横目で見てから眉をひそめて前を見つめた。初めての旅行でうきうきしている氷麗には悪いけどここは少し注意しておいた方がいいかもしれない。



「『つらら。ここ、少し危ないかも知れない』」
「え?」



呆然と立ち尽くす氷麗を置いて私とリクオは先に歩き始めた。リクオも私と同じ事を考えていたのか。



『ねぇ、やっぱりリクオも···』
「うん。少しだけど、嫌な予感がするから」
『リクオの勘当たるからね』
「神夜の勘の方がよく当たると思う」
『私の場合は悪い予感が当たるの』



「それもどうかと思うけど···」そんなことを溢すリクオを置いて皆に置いて行かれないように足を進めようとするとパシッとリクオに手首を掴まれた。


なになに!?



「神夜。ボクから離れちゃダメだよ」
『へ?』
「傍から離れないで」



真剣な顔でそう言うリクオの目を見て私は戸惑いながらも頷いた。一瞬その顔が夜のリクオと重なって見えたのだ。まさか、彼は。


そんな考えが頭を過ったがそんな事あるわけないと首を横に振って追いついてきた氷麗と三人で皆の後を追った。


ーーまさか、本当は夜の出来事の事覚えてるんじゃないか。


そんなわけないよね···。













皆に追いついたときに見えたのは大きな物体でした。


私はリクオと氷麗を連れてその物体の元へと走り寄り、手を伸ばす。



『何これ···』
「それは爪だよ」
『「爪!?」』



私と巻の声が重なった。爪だと聞いた瞬間、嫌そうに顔を歪めて触ろうとした手を引っ込めると両隣にいたリクオと氷麗に苦笑いをされた。


何。顔に出てるとでもいいたいの。


皆が顔を上げて見る先にはたくさんの爪。そこらの木には爪で引っかいたような大きい傷跡があり、ところどころに折れた爪が刺さっているのも見える。


いや、でかすぎでしょ。私の身長の倍はあるぞ、これ。



「ここは妖怪の住まう山だ。もげた爪くらいでおどろいちゃーこまる」
「うそっ···」
「まじで!?」
「いるのォー!?」
「この山に住む妖怪って···!!」



島くん、巻、鳥居が震えあがり、



「山にまよいこんだ、旅人をおそう妖怪···」



ゆら、清継くん、カナも薄っすらと冷や汗をかいている。私達も険しい顔でその爪を見上げた。



「名を“牛鬼”という」



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