三
みんなが進んだ先には大浴場。花開院さんは「失礼を承知でのぞかせてもらうわ···」と言って私達が許可を出す前にガラッと開けた。だが、中は誰もいない。皆岩陰やお湯の中に隠れているのだ。
次に向かったのは仏間。そこには金色に輝く仏像がたくさんある。皆が呆然と仏像を見ている中、花開院さんは一つの仏像に目をつけた。
私とリクオはその仏像を見てハッとした。その仏像の中には納豆小僧やらたくさんの小妖怪が敷き詰められていたのだ。
リクオは花開院さんに「おじいちゃんのだから」と言って離れさせようとするが彼女は「おふだ貼っておく」と言って仏像にお札を貼ってしまった。リクオが私に目配せをして皆を先に廊下に出す。
「姫ぇ〜」
小さく声を上げる小妖怪達。私は襖の近くに寄り、後ろを振り返る。その姿は金狐の姿だ。右手の人差し指を仏像に向けると青い狐火がお札を燃やした。
「あ、ありがとうございます!」
お礼を言う小妖怪達に後ろ手に手を振って急いで皆の後を追った。さすがにこれ以上家の中を歩き回られては困るので皆に追いつくと『ちょっと!』と声を張り上げた。
『人様の家を勝手に歩き回るって言うのは非常識じゃない?』
「けど···」
まだ物足りなさそうな皆の顔を見て私が口の端を引き攣らせるとそれを見たリクオが慌てて皆に声をかけた。
「も、戻ろうよみんな!」
だが、遅い。
『あのねえ、非常識すぎるって言ってんの!!勝手に自分の家を歩き回られたら誰だって嫌でしょ!?それも分かんないわけ!?はっきり言ってこれ以上は迷惑よ!!』
怒鳴りつけると皆はビクッと肩を震わして申し訳なさそうに俯いた。リクオが苦笑いをしながら私の方をチラリと見る。
「神夜···」
言い過ぎだよ。
目でそう訴えてくるリクオを見て私は溜息を吐くと『もういいわよ···』とそっぽを向いた。踵を返して部屋へと戻る私を見てリクオは慌てて皆に「行こう!」と声をかけ後を追ってくる。それにならい皆も後を追ってくるがシン···と静まっている雰囲気は変わらない。
元居た広間へ戻っても変わらない雰囲気。リクオはチラリと私を見て肩を竦める。それを横目で見て私は仕方ないなと溜息を吐いて俯いている皆の顔を見回した。
ま、反省してるならいいかな。
『反省してるならいいわよ。ただしこれからは気を付けてね』
優しく声をかけると皆はパア···と顔を明るくして頷いてくれた。
元に戻った雰囲気で談笑をしているとガラガラガラと襖があいた。
「おぅリクオ、神夜。友達かい」
入ってきたおじいちゃんに思わず私とリクオはその場でひっくり返った。「おじゃましてます」と小さくお辞儀をする皆におじいちゃんは「アメいるかい?」と飴を差し出している。
((
目的の妖怪そのもの来ちゃったー!!!))
そんな私達の心の声など聞こえるはずもなくおじいちゃんはぺかーと笑う。
「どうぞみなさん、これからも孫と神夜のことよろしゅうたのんます」
「あ、ハイ···」
「まかして下さいおじいさん!!しかしこのアメまずいっすねぇ!」
いきなり失礼なやつだな。((ホントに気づかれてない···))
リクオと顔を見合わせて心の中でつぶやいた。
ぬらりひょん───勝手に人の家に入ってもぬらりくらりと気づかれない───そういう妖怪だ。
そして妖怪の話を少しした後みんなを帰らせた。さすがに女の子(花開院さんとカナ)をこんな遅く(と言っても夕暮れ時だが)に二人だけで帰すのは気が引けたが隠れている妖怪達の後始末もしないといけないので二人に謝って早足で帰るよう言った。
カナが渋る様に私の腕に抱き着いてきたがリクオがそれを笑顔で引き剥がしていた。
その時の二人は本当に怖かった。怖い顔でお互いを睨みあってたし。バチバチ火花散らしてたし。清継くんと島くんも引いてたし、花開院さんも困惑してた。
そんなこんなで皆が帰った後。
「まったく···ワシを見習わんかい。たかが陰陽師の小娘一人に大あわてしおって。ワシなんか大昔は陰陽師の本家行ってメシ食って帰って来た事もあったぞ」
いやそれは···。
「さすがにそれは総大将しかできません」広間でぐったりと畳に倒れ込んでいる本家の妖怪達。その様子を見るのは上座に座っているおじいちゃんとその隣に立っている木魚達磨。
「とはいえ···みなも妖気くらい消したり出来なくては“付喪神”なら物にもどるとかいくらでも方法はあるだろうに」
そう溢した木魚達磨に妖怪達はガヤガヤと木魚達磨に問いただす。
「じゃーワシらはどうしたら···」
「人型になれ!」
付喪神でもない者たちには人型を。
「首が切れてる人は···」
「くっつけろ!」
それは無理なんじゃ···。
首無はどうにもならないような気がする。
ワイワイガヤガヤとはしゃぐ妖怪達を遠目で見ながら私とリクオは疲れた体を休ませていた。そんな私達の隣で毛倡妓がうちわを持ってパタパタと仰いでくれている。
なんか、今日だけでもどっと疲れた感じがするのは何でだろうか······。