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皆を案内したのはいつも総会とかで使われる広間だ。隙間風がビュウウウと吹き、襖がガタガタと揺れる。まあ、昔からあるし仕方ない。



「なんか本当に出そう」
「神夜と奴良くん、こんな家に住んでんだね」



私の隣に座っているカナの言葉に私とリクオは顔を見合わせて曖昧な笑みを浮かべた。



「いい雰囲気。それじゃあ始めよう」



清継くんの一言で始まるのは花開院さんからの妖怪レクチャー。だが花開院さんはそんな話をするとは知らされてなくて驚いている。相変わらず自分のペースを崩さないやつよね、清継くんって。


私達がどんだけ迷惑しているか。突然話を振られて困っていた花開院さんは話すことを頭の中で整理したらしく顔を上げた。



「最初にこの前の人形───あれは典型的な“付喪神”の例でしょう」
「つくも神?」
「島くん!!君は何も知らないねぇ!!」



あんたは全部知ってるのか。


「器物百年を経て化して精霊を得て より人の心を誑かす」付喪神は打ち捨てられた器物が変化した妖怪なのだ。


妖怪は色々な種にわけることが出来る。人の姿をしたもの鬼や天狗、河童など超人的な存在。超常現象が具現化したもの、例えばふらり火など。妖怪の1/3は火の妖怪であると言われている。


私の狐火も火の部類に入るため、近い感じである。


そんな妖怪達の目的は人々をおそれさせること。



「なかでも危ないのは獣の妖怪化した存在!!やつらの多くは知性があっても理性がない。非常に危険!」



悪かったわね、危険で。


ムッと顔をしかめるとカナとは逆隣に座っているリクオが皆に気づかれないように私の手を握ってくれた。彼を見ると苦笑いをしていたので顔をしかめるのを我慢して花開院さんへと視線を向ける。



「そして───それら百鬼をたばねるのが、妖怪の総大将───「ぬらりひょん」と···いわれています」



リクオがギクっと肩を震わせる。



「“ぬらりひょん”か───」
「妖怪の主とは言え···小悪党な妖怪だと思っていたよ···」



そうつぶやくカナと清継くん。チラリと横にいるリクオを見ると彼は冷や汗を流しながら私の手を握りしめていた。痛い



「そう───ヤツは人々に多くの恐れを与える───別格中の別格」



リクオが目を見開いた。



「では月の姫はどうなんだい?」



話題に出ると思ったよ。君のことだもんね。絶対私の事も出すと思ったよ。


小さく溜息を吐いた私だが私のことを陰陽師の間ではどう言われているのか興味があるため花開院さんへと視線を向ける。今だに握られている手が痛い。ちょっとリクオ君、力緩めてほしい。痛い痛い!



「月の姫···「かぐや姫」はぬらりひょんを支える妖怪。月のように輝く長い髪に綺麗に整えられた獣耳、それが金狐のかぐや姫。彼の隣に彼女が並んだのなら総大将の証と言っても過言ではないでしょう」



ぬらりひょんを支える妖怪か···。


やはりそう思われているのか。昔から私の家系はそうだ。母も先代と肩を並べていたと聞いている。まあ、総大将の証とかは知らないけどね。



「“かぐや姫”か···」



頬を赤らめているカナは四年前の出来事を思い出していた。


あの優しくかけられた声。


自分達を気遣い助けてくれたあの妖狐。



"よかった···無事で。カナ、怖いから目つぶってなさい"



ボゥ···としているカナに気づくはずもなく清継くんはつぶやいた。



「やはり月の姫はあの方を支える存在か···」
「はい。彼女はその美しい容姿で多くの妖怪達を魅了し畏れを与える───彼と同じ別格中の別格です」



美しい容姿って···。


魅了した覚えもないし。ただ陰陽師の間ではそう呼ばれているのかと思うと何故か嬉しい気持ちがこみ上げ、私は少し俯きゆるりと口角に笑みを浮かべた。



「でも───ヤツらを倒せば私もきっと認めてもらえる…。古の時代より───彼らを封じるのが我々陰陽師。その縁を───この地で必ず···」



すると襖がガラリと開いた。



「お茶入りました〜」



入って来たのは毛倡妓だった。唖然とする私達の前にいそいそとお茶を置いていくと口と目を開けて固まっている私とリクオに見向きもせず「ごゆっくり」と言って襖を閉じた。その瞬間私達は襖にダッシュした。



「何!?誰?」
「おねーさん!?」
「奴良、月影。あんなすごいお姉さんがいるのか!?」



皆のその問いに答えることはなく私達は部屋から出た。そして部屋の前にいた毛倡妓と小妖怪を振り返る。



「たのむよ!!君らが顔出したら妖怪屋敷ってバレるじゃない!!」
「す、すいません。台所にいたので連絡網が回ってこなくって···」



私達はあの中に陰陽師がいる事を毛倡妓と小妖怪に話した。すると冷や汗を流す妖怪達。



「もう行きませんわ。そんなぶっそうな子」



その後ろでこくこくと小妖怪が頷くのを確認にした私とリクオは襖を開けた。



『ごめんね、みんな。お待たせ』



あけた先には誰もいなかった。



『「アレ?」』



私達はまさか···と思い顔を見合わせると向かい側の襖にダッシュした。


部屋を出て皆を探していると縁側を早歩きで歩く皆の後ろ姿を見つけた。私達は急いで駆け寄る。庭にいる妖怪達が急いで隠れているのが横目で確認できた。



「この家って妖怪屋敷なんじゃ···!?」

((すでにほとんどバレてるー!?))



近づくと聞こえてきたその一言。思わず心の中で突っ込んだ私とリクオは顔を見合わせて引き攣った笑みを浮かべながら後ろから声をかける。



「みんな〜もどって妖怪の話しよ〜よ〜」
『あの話の続き聞きたいな〜』



冷や汗混じりに話す私達。リクオはゲームしようと提案するが清継くんに速攻却下されていた。


いや、でもさ。人様の家を勝手に歩き回るのはおかしいでしょ?


イライラしている私に気づいたリクオが皆を止めるが彼らは話を聞かずそのまま歩みを進めていった。



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