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「だから···いるんだよね!妖怪は!」
学校の前で会ったカナと腕を組みながら三人で教室に入ると、中から声が聞こえた。朝から騒がしいのは髪型がワカメに似ている隣のクラスの彼。
「清継くん!?また新しい見解ですか?」
そう、清継君。
ワイワイと騒がしい一角に私たちは首を傾げながら近づいて、近くにいたクラスメートに声をかける。
『何?何のさわぎ?』
「となりのクラスの清継くんの妖怪話よ。昼休み利用して···巡回してるらしーよ」
クスクスと笑いながら答える彼女に私とリクオは顔を引きつらせながら顔を見合わせた。
今だに私の腕に抱き着いているカナは「あの···清継くんが?」と怪訝そうに顔をしかめる。教卓に手をついている彼の周りにはたくさんの生徒達が集まっている。
「なんでそんな言い切れんだよ〜」
「ボクの「研究」によれば······確かに、古来の伝統的妖怪は姿を見えにくくしてるかもしれない。現代の背景にとけこむことができないからだ」
悪いわね。現代の背景に溶け込んでいる妖怪が【ここ】にいるわよ。
カナに気づかれないように小さく苦笑いを浮かべると隣にいるリクオも苦笑いをした。
「しかし!!ボクのサイトに集まった情報や目撃談!!そこから導き出された答え!!それは、妖怪には世代交代があり何時の時代も我々の日常で悪事を働いている!!」
ええ!?と驚き目を見開いているリクオの隣で私は顔を盛大に引き攣らせた。
よく調べたことで···。
カナは飽きれた様に清継くんから顔をそらしてボソリとつぶやく。
「まぁーずいぶん昔と違う意見だこと···」
わいわいと騒ぎ始める皆を遠巻きに見ていると、清継くんの話を聞いていた巻や鳥居、島くんが彼に尊敬の眼差しを向けていた。私がリクオやカナから聞いた話では彼は小学校の頃妖怪を馬鹿にしていた様だが何が彼をここまで変えたのだろうか。
離れた所で見ていた私たちの元に清継くんが笑いながら近寄ってくる。
「奴良君···昔はバカにして悪かったね。ボクは···目覚めたんだよ。ある方々によってね···」
「ある方々?」
何故か嫌な予感がするのは何でだろう。
「そう···そのお方は、闇の世界の住人にして若き支配者···」
恍惚とした表情で語る清継くんと、顔を引き攣らせながら聞くリクオ。
まあ、清継くんの言う【あのお方】は四年前のリクオのことだろうと予測はつく。四年前の被害者である子供の一人はこの清継くんだ。じゃなきゃあの時のリクオの姿は知らないはずだし。
「そして彼に寄り添い、恐ろしい程に美しい青い炎の華を咲かせた···月夜の美姫···」
あ、何か嫌な予感当たった。
四年前のリクオの隣にいたのは私しかいない。しかも青い炎とか言われたら私の金狐の狐火しかないじゃない。
感嘆の溜息を吐いて語る清継くんに私は苦い顔をしながら微妙に彼から顔をそらした。
嫌な予感程よく当たるというが今回だけは当たって欲しくなかった。【月夜の美姫】って何。そんな大層な者じゃないし、清継くんにそう言われると鳥肌が立つ。
「ほれたんだよ!!彼らの悪の魅力に取りつかれたのさ!!もう一度会いたい···だから彼らに繋がりそうな場所を探しているのさ!!」
((うわーー))
顔を引き攣らせた私とリクオは彼から少し距離を置いた。
私は会いたくないし。繋がりそうな場所にも来なくていい。むしろ四年前の記憶なんて失ってしまっていた方がこちらとしては助かったのに。
ふと隣にいるカナに視線を向けると彼女は少し頬を赤らめながら何かを考え込んでいた。
「·········」
カナの脳裏に浮かぶのはあの時助けに来てくれた一人の金狐。
「もしかして、清継くん!?」
「うわさの···旧校舎も!!」
「ああ···行きたいと思っている」
そう言った彼にみんなが声を上げる。
それもそうだろう。彼が今から行こうとしている場所は妖怪が出るということで雑誌にも載るほどの有名な場所だ。
朝、鴉天狗が騒いでいたのはこの件に関してだ。
「え···でもこの学校、そんな古い建物なんかないよ?」
そう言ったリクオは島くんに引きずられて何処かへ行ってしまった。私とカナは顔を見合わせると首を傾げながら鞄を置くべく自分の席へと移動した。