一
「ザコ妖怪や若い妖怪どもになめられてこーやって
縄張りを荒らされているわけですよ。かつてのある快刀乱麻の大活劇。あれは何だったのですか!!」
「んなっ······だって、あの時は何が何だかわからなかったんだもん!!自分が何言ったかも覚えてないし!」
「そんな無責任な!!拙者はハッキリとおぼえてますぞ!!俺の後ろで群れとなれとかなんとか言ってたくせにィ〜」
覚えてねえじゃねえか。朝から鴉天狗とリクオの口論を聞きながらご飯に箸を伸ばす。いつも毛倡妓と氷麗が作ってくれるご飯は美味しい。美味しいご飯を味わっていると隣にいるおじいちゃんが庭で口論をしている二人を見た。
「おうリクオ。朝っぱらからなーんの話をしとんじゃ」
するとリクオは顔をしかめながら私たちの方を振り返る。
「じーちゃんが放任主義だからかわりにボクが怒られてんの」
刺々しい言葉におじいちゃんはリクオに向き直るとゴホッゴホッとわざとらしく咳をする。それをチラリと横目で見て私は巻き込まれないようにご飯を食べていると急に青田坊や他の妖怪達が立ち上がりリクオの元に詰め寄り始めた。
「若は我々の大事なお人···」
「その若に何かあったら人間どもタダじゃおかねぇー!!」
「何する気だよ!?たのむからご近所で「出没」しないでくれ!!」
今日もリクオのツッコミはキレキレね。
手を横に振り困りまくっているリクオに助けを出すべく、私は持っていたお茶碗を置くと御馳走様でしたと両手を合わせてリクオと私の鞄を持ち立ち上がる。
このままいけば私にも何か被害が出てくるかもしれない。あの鴉天狗辺りとか「姫様もですぞ!奴良組の姫としての自覚が···」なんたらとか言い出しそうなので。そうなったら説教は続くし、何より面倒くさい。
朝から説教なんて嫌だし、そんなこと聞いてたら疲れる。
『その辺にしときなさいよ。だいたいイジメなんてあるわけないでしょ?私が護衛として一緒に学校に行ってるんだから』
庭に置いてあるローファーを履くとリクオに荷物を渡し、若菜さんに声を掛けると学校へと向かった。後ろからまだ鴉天狗の騒ぐ声と妖怪達のざわつきが聞こえたが私たちは無視して家から出るべく玄関へと走った。
あの騒動から立派な人間になるべくリクオはあまり妖怪のことを言わなくなった。普通の人間らしく生きるんだそうだ。そのせいか毎回開かれる総会ではリクオの三代目襲名は先送りという結果になっていた。