京上空の戦い
周辺には白蔵主の仲間の妖怪が、宝船には奴良組妖怪が乗る中、船の中央で対峙するリクオと白蔵主。
「一つ訊こう。なにゆえ名乗り出た」
お前が言ったんだろ。オオオと風が吹く中、そう問いかける白蔵主に思わず私が心中で突っ込む。まあ、口に出しては言わないが。隣にいるイタクに頭叩かれそう。
「名乗れとは言ったが───これまで拙僧の力を見て名乗り出てきた者は···」
一旦言葉を切って、
「おのれの力もわからぬバカ者だけだ。奴良組の若い大将は力の差もわからなんだか!!」
ドンッと畏を解放しながら言い放った。その強い畏に私達の肌がピリピリと震える。さすが京妖怪···強いな。
「あんたも···バカじゃねーか」
「ん······」
ジリ···と距離を詰めながらリクオが白蔵主に言う。
「何も言わずに船を落としゃいいものを···。だからバカ正直にはバカ正直で応えたくなったんだよ。それと」
ああもう、本当に強くなったよね。
肌で伝わってくるリクオの畏に私はゾクゾクとした物が体を走った。ああ···彼はもう、一人でいける。誰の手助けもいらない。
幼い頃のリクオではない。彼は確実に成長している。もう、誰の手もいらない。
「邪魔する奴は斬って進まなきゃならねぇからな」
「ほう···士道をわきまえ───且つ威勢のいいクソガキだ」
その言葉と同時に白蔵主は三又の槍を振り上げると、リクオの隣にいた屋形船の屋根にガズンと盛大な音を立てて振り下ろした。
屋形船の屋根が粉々に飛び散る様に私とリクオは目を見開いた。
おいおい。
屋形船ごと───どんな力技よ。
てか、てめぇ。人ん家のモン壊すんじゃねぇよ。燃やすぞ。
まあ闘いに手助けはしませんが。というか今現在、私はイタクと冷麗に取り押さえられております。なんでも手を出さないように抑えているんだそうだ。酷いな、私そんなに信用ないか。幾ら何でもリクオの闘いに手は出さないから。
「オオオオオオオオッ」
声を上げて屋形船から槍を引き抜くと、白蔵主はリクオのいた場所に屋形船ごと槍を振りかざした。だが、リクオはヒラリとそれを飛んで避ける。そしてリクオが避けた場所に埋め込まれる槍と屋形船。
ああああああああああ!!!船が壊れる!!もっと静かに丁寧に戦って!無理か!!←
「正々堂々とやっていてもーー“卑怯だ”と思われる程の力───それがこの白蔵主の“
槍”だ」
こいつは···厄介かなぁ?
白蔵主と目が合ったリクオの体にゾクゾクゾクッと凄まじい何かが走ると、そのまま頭を下にして欄干に着く一歩手前でリクオの体は静止した。
リクオの周りに散らばる瓦礫の破片もリクオと一緒に動きを止めてその場に浮いている。
「“畏”のあまり心の臓も止まり、頭から落ちようとしているぞ···小僧」
そう白蔵主は言うと、己の持つ槍でリクオの頭を突き刺した。血が辺りに飛び散る。
「ヒッ······」
「リ···リクオ様ーーーー!?」
闘いを見ていた奴良組の連中から悲鳴が上がる。
白蔵主は「フン···」と鼻を鳴らすと、ドンッと言い放った。
「呑まれれば一突き。この槍の名こそ“
茶枳尼”!!」
何そのダサイ名前!!!思わずダサい名前にツッコんでしまった。クソ、イタクに口を押えられていなければ声を大にしてツッコんだのに!!
だが、突き刺したはずのリクオの体が徐々に歪んでいく様子に白蔵主は、ム、と眉を寄せた。眉あるか知らないけど。骸骨だからねぇか。
ーーいや、待て。こいつは───
白蔵主も気づいたようで、私は離された口を盛大にニヤリと吊り上げた。あの一突きされたリクオは、───幻だ。
第一、あれが幻じゃなかったら私は今、イタクたちの手を振り払って怒り心頭で白蔵主に突っ込んでいるところだろう。「てめえコラぁぁぁ!!」とどこぞのヤクザのように。いや、奴良組ってヤクザだから変わらないんだけど···。
「なるほどな───これが、畏をまとった者同士の戦い───か」
別の場所から聞こえてきたリクオの声に首無が「リクオ·········様!?」と声を上げる。ゆらりと揺れる幻影から徐々に形成されていくリクオの体。
「「妖怪のくせにビビっちゃいかん」大昔、じじいがそう言ってた───本当の意味がわかったよ」
へぇ、おじいちゃんそんな事言ってたんだ。まぁ、昔のリクオはビビりまくってたもんね。おじいちゃんの昔話に。あ、ちなみに私はその話を“何回も”(ここ重要)聞いているので飽きた。
「!?」
「ど···どういう···ことだ···!?さっきも···たしか私の手からすりぬけて」
リクオの姿にザワつく奴良組が腰に手を当ててニヤリと笑みを浮かべる私を見つめる。私はその視線に微笑を深くして懐から扇を取り出すとバサッとそれを広げた。飾り物がシャラン···と音をたてる。
『あれがリクオの畏よ。あれは鏡花水月って言って、そこにいるのにそこにいない···敵認識をずらすっていう技。リクオがそう言ってたわ』
雨造がさっきから「サインちょうだい」ってうるさい。そんなに首無がいいか。このかぐや姫のはいらねぇのかテメェ。幾らでもあげるよ?ん?と視線で問い掛けたら、「神夜のはいらねぇ」って言われた。こいつ···!!
思わず右拳でストレートを食らわした。「グハッ」と雨造が横腹を押さえて蹲るのを横目に私はフン、と鼻を鳴らして両腕を組むとリクオに視線を向ける。
イタクと冷麗に咎めの視線を向けられたが知らん、此奴が悪い。「雨造おおおお!」「土彦···あと、頼む···」「雨造おおお!!」と何やら悲劇をしている雨造と土彦。
うるっっっっっっせええええんだよこの野郎!!第一、そんなに強くやってねえからな!?空気読めよ!?余裕かよこの野郎!!
「神夜、うるせえ」
『私、何もしゃべってないよ!?』
心の中で罵倒してたのに何故かイタクに睨まれた。酷い、私口に出してないのに!!なんでこいつはわかるんだよ!!エスパーか!超能力か!!!
「そ······それって───」
首無が目を見開いて私を見る。あくまで雨造と土彦とさっきのイタクとの遣り取りは無視だ。少々悲しくなりながら私は首無の言葉に頷き返す。首無も毛倡妓も思い出したのだろう。リクオのあの畏は······あれは───
二代目が───
「言っちまえば
妖戦は化かし合い。妖怪同士がお化け屋敷で合戦だ」
うーん、うまいね。
「どういうことだ!?おぬし······何をした───!?」
「なんだか、オレぁ今、あんたのこと恐くねーな······」
ユラ···とリクオが揺れる。
白蔵主はブオオオオとリクオに槍を振り下ろした。
「畏を───断ち切ったほうが勝つ───。そしたら···そんな“
畏”はよ···」
祢々切丸に手がかけられ、リクオはスッとそれを抜刀すると、向かってくる白蔵主の槍を真正面から真っ二つに裂くように構えた。
ピキピキピキピキと槍が割れ、破片が辺りに飛び散る。白蔵主の武器が壊れた。
「一瞬でコナゴナだ」