偽りの言葉
氷麗と帰る道。ずっと周りをキョロキョロと見渡す氷麗を横目に私はその場に立ち止まって目を閉じた。
さっきから何か嫌な予感がする。
「姫様···?」
突然立ち止まって動かない私に声をかける氷麗。そんな彼女に片手を出して『しっ』と言うと大人しく黙り込んだ。
どこかで何かがぶつかっている。
これは······ゆらの式神?
けど、あと一つはなに?だめだ。ここからじゃ遠すぎる。
「姫様?」
『つらら、一回戻って首無たちを呼びに行こう』
「···はい!」
私の言葉に頷いた氷麗と共に走り出し、急いで本家へと帰る。
急いで帰ってきた私達を見て首無たちが首を傾げるが、それはさておいて私はリクオが戻って来ていないかを聞いた。
「それが···リクオ様はまだ帰ってきてないんです」
首無のその言葉に私と氷麗は顔を見合わせた。
あ〜何か、嫌な予感当たったかも。
するとぞわっと何かが私の体を這いあがった。思わず両腕を擦りながら周りを見渡す。
「神夜様···?」
『リクオが······』
「リクオ様···?」
『この妖気······リクオだわ』
私がそう言った瞬間、辺りがざわついた。人間のリクオに妖気など出せるはずがない。ていうことは、これは···夜のリクオ?
頭に浮かぶのは、先程感じたゆらの式神ともう一つの式神の気配。そして今感じたリクオの妖気。
まさか···陰陽師と対峙しているの!?
私は唇を噛み締めると首無たちを振り返った。
『つらら!妖怪達を集めて!すぐにリクオの所に向かうわよ!!』
「は、はい!」
首無たちと協力してリクオ派の妖怪達を招集にかかる氷麗の後ろ姿を見送って私は急いで部屋に戻り、いつもの着物の姿へと着替える。金狐の姿には······まだ、いいか。
帯をキュッと締めて腰に夜桜を下げる。
何処かで妖力と式神がぶつかるのが気配でわかった。リクオと···あと一つは···。
『何やってんのよ、あの馬鹿は』
ゆらを探しに行ったくせに何で夜の姿になっているのか。それは考えてもわからない事だが今はとにかくリクオの元に急ぐのが先だ。こんなことならリクオについていけばよかった···!
「姫様、揃いましたよ!」
部屋の外から氷麗の声が聞こえた。
大事にかけてあるあの鴉天狗お手製の羽織を羽織り、私は襖を開けた。
部屋の外には私を待っていた青田坊、黒田坊、首無、毛倡妓、鴉天狗、三羽鴉、そして氷麗の姿。皆、あの羽織を羽織っている。
それを視界に入れて私はニヤリと笑った。
『行くか』