×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

青と黒の戦士



「おい、神夜。青と黒知らねぇか?」
『え?いないの?』



金狐の姿になって部屋でゴロゴロしていると、突然酒を片手に持ったリクオがずんずんと遠慮もなく入ってきた。女子の部屋にノックもなしに入ってくるなよ。


床に寝転がりながら仰向けで本を読んでいた私は、本から顔を上げて頭上にいるリクオを見る。



「あぁ。さっきから姿が見えねんだ」
『···どーせ、飲みに行ってるんじゃないの?』



呆れたようにため息をつきながらそう返して私はまた本を読み始めた。リクオはさも興味もなさそうに「ふーん」と言うと私の横にドカッと腰を下ろして持ってきた酒を私に見せるように掲げる。


なに、注げってか。


本から顔を離してリクオに視線をやるとずいっと杯を向けてきた。無言かよ···。



『はいはい。注げばいいんでしょ、注げば』
「たまにはいいだろ」



なーにがたまにはだ。


本を横に置いて起き上がると、私は肩からずり下がっていた羽織を持ち上げリクオから酒をもらう。



『このお酒、どうしたの?』
「台所にあった」



勝手に持ってきたのかこいつ。


思わず目を細めてリクオを見ると、早くしろと言わんばかりに杯を向けてくるので軽くため息をつきながら注いだ。


それを一飲みしたリクオは開けていた障子から見える満月を見上げた。今日は雲一つなく月が綺麗に見える。



「なぁ、神夜」
『···ん?』



妖艶の微笑むリクオに少し反応が遅れたが返事をするとぐいっと私の肩を抱き寄せて耳元で囁いた。



「月が綺麗だな」
『······えっ』



勿論、言葉の意味がわからない私ではない。


【月が綺麗ですね】の言葉の意味ぐらい知っている。いや、けど···突然こんなこと言われると何て返せばいいかわからなくない?ねえ、わかるよね?この気持ち。


いや、でもリクオのことだ。からかっているのかもしれない。あるいは本当に月が綺麗だからそう言ったってのもありえる。え、どっちだろう。


心中で叫びまくりながら固まっているとニヤリと笑ったリクオが私の顔を覗き込んできた。



「顔、真っ赤だぜ?」
『い、いいいいきなり言うからでしょ!?』
「い、が多いな」
『っるさい!!』



ぐいっとリクオの胸を押して離れさせると手の甲で口許を隠して顔を逸らす。


なんなの、なんなの、なんなの!?あんな近くで妖艶に微笑まれると照れる!てゆうか顔、赤くするなんて当たり前でしょーが!!


すると、トンッと私の肩にリクオの頭が乗せられた。


密かにビクッと肩を揺らして振り返るとリクオは目を瞑りながら私の肩に寄りかかっていた。思わず近くにあった純白の髪に指を通して梳くように撫でる。


月明りに照らされた私とリクオの影。九つの私の尻尾がゆらゆらと揺れているのがわかる。



「···歌ってくれねぇのかい?」
『え?』



突然のリクオの言葉に目を丸くした。



「いつも機嫌がいいとお前、歌うだろ」
『よくご存知で』
「何年もお前のこと見てねぇよ」



やめて欲しい。その不意打ちの言葉。心臓に悪いから。


唇をぎゅっとかんで密かに視線を逸らすと私ははぁ···とため息を吐いて目を閉じた。



『ーーーゆめを見た、こわい夢を。
遠ざかる背中に
凍えた···

在るはずのその温度を
もう一度って
探してた

むき出しの独りの夜
逃げる場所も 何もなくて

嗚呼、何時か戸惑いながら
自分を責めてた

だから傍に居て
ずっとだと言って
悪魔の声を掻き消すまで
失わぬように、
そっと確かめる。

大切な記憶は
過ちになっても
ねぇ、なぜか美しいだけ


青い蝶───
お気に入りの髪留めを
うなじに飾って

風に舞う 君はそれを
「標本みたい。」って笑った

呑まれてく光の渦
だけど とても易し過ぎて

弾き金を引ける準備を
私は、していた···

だから傍に居て
ちゃんと触れていて
私が指に溶け出すほど
息の音を止める、そんな快楽で


かわいた約束は
ケロイドを残して
こんなにも愛おしいだけ


だから傍に居て
ずっとだと言って
悪魔の声を掻き消すまで
失わぬように、
そっと確かめる。


いつかその全てが
過ちになっても構わない
愛に冒して···
ーーー』



シーン···と静かになる。辺りの声が一切聞こえないのは奴良組の皆が私の歌に耳を傾けているから。


私はすっと閉じていた目を開けると満月を見上げた。隣を見ると、リクオは小さな寝息を立てて寝ていて。


それに私はふっと笑うと尻尾で布団を手繰り寄せて、私の肩にもたれかかっているリクオと私を包むように肩から布団をかけた。


相変わらず綺麗な純白の髪を撫でつけながらチラリと部屋の外を見ると、氷麗や首無、毛倡妓など小妖怪たちまで集まっていて、私に話しかけようとうずうずしているのが見える。


だが私の横で寝ているリクオを気遣って入って来ないことが伺えるので、私は部屋の外から顔を出してこっちを見ている皆に人差し指を立てて口元にあてた。



『しー···』



静かにそう言うと皆は顔を真っ赤にして音を立てないように去っていった。



backprevnext