奴良組総会
奴良組幹部、百足一続々長・大ムカデ。奴良組幹部、関東大猿会々長・狒々······欠席。奴良組幹部、三ツ目党々主・三ツ目八面。奴良組幹部、鬼女組々長・浅茅々原の鬼女。奴良組相談役、達磨会々長・木魚達磨。奴良組姫、月影神夜。奴良組総大将、ぬらりひょん。奴良リクオ。奴良組幹部、御化組々長・もったいないお化け。奴良組幹部、薬師一派組長・鴆。奴良組幹部、牛鬼組々長・牛鬼。奴良組幹部、独眼鬼組々長・一ツ目入道。奴良組幹部、妖怪商人連合会・算盤坊。
とまあ私から向かって左から紹介するとそんな感じ。私とリクオはおじちゃんを挟んで上座に座っている。あ、言っておくけどいつもみたいに羽織は羽織ってないよ?あれ、羽織ってもいいんだけど、今回は正式な総会だから。
丈の短い桜柄の着物に帯は薄い桃色の透明。長くとられた袖の先には幾つもの桜が散りばめられている。とまあ、設定を見ればわかるから←
そういえば、いつもはいるはずの狒々がいないなあ。どうしたんだろうと考えながら目の前にある膳に乗っているご飯を食べる。
うん、毛倡妓たちが作るご飯は相変わらず美味しい。氷麗が作ると冷たいからな←
でも、なんで赤飯···?
「リクオ様が出席···?」
「随分久しぶりじゃああるまいか」
「牛鬼もおるぞ」
「うわさでは奴は破門級の罪を犯したとか」
「リクオ様と姫様に弓を引いたという···なぜまたこの総会に出る······?」
「この場でさばくつもりか···?」
またよく騒ぐ奴らだな。お前らは、噂好きな近所の奥様方かって←
お膳を下げてくれる小妖怪にお礼を言って小さく溜息を吐いてお茶を飲んだ。熱い···。
「なんですかな?今日の総会は私の知る理由なら赤飯など出るはずもない」
一息ついてる時、口を開いたのは一ツ目だった。まあ、こいつが一番に口を開くだろうなとは思っていたが。「おい、一ツ目ェ···」と咎める声に軽く笑って煙管を咥える一ツ目。
「オレはねェ···“組のため”を思って言ってるのよ?ただでさえ西方の勢力に押されとるんじゃ。ここらでビシッとなー、弱体化はごめんじゃ!!」
「そうじゃ···そこで組の強化のためにこの総会で奴良リクオに正式に奴良組の跡目である「若頭」を襲名させる」
「ハ?」
おじいちゃんの言葉に首をかしげる一ツ目。まあ、首を傾げてるのは一ツ目だけではないのだが。この際、他の連中は無視の方向で。
「今までてきとーにしてきたがな···よって牛鬼の件はリクオに裁かせる!!」
胸を張って言い切ったおじいちゃんに一ツ目が冗談だろうという風に軽く笑った。まあ、この反応も予想通りなので別に気にはしないのだが···なんだろうな、予想が当たったら当たったで腹が立つ←
「ちょっと総大将···今さらリクオ様に何の期待をかけているのですかハハハ···」
めっちゃ棒読みじゃねーか。
私は少しざわつく広間を静めるため大きく溜息を吐くと、
『うるさい』
睨みをきかせながら言い放った。
シーン···と静まりかえる広間にニコッと笑みを浮かべて懐から扇を取り出してシャッと広げる。飾り物がシャラン···と音を立てる中『リクオ』と彼の名前を呼んだ。
「うん」頷いたリクオは真剣な瞳で目の前を見据える。
「大安吉日のこのよき日に奴良組総会にお集まりいただき恐悦至極に存じます。只今、紹介にあずかった奴良リクオでございます。このような高いところからで甚だ失礼致しますが若頭のお役目、たしかに承りました。今後───いかなることがございましてもこの杯決してお返し致しません」
畳に拳を突きながら微かに笑みを浮かべるリクオ。あんた、どこでそんな小難しい言葉を覚えたんだ。
「しかしながら私、いまだ妖怪任侠道を修行中の繊弱なる駆け出しの弱輩者でございます。その言葉の間違いや───皆様に失礼な言葉を申したる節はこのような次第でございますので何卒御容赦頂きたく存じます」
「リ、リクオ······?」
戸惑ったような鴆の声を最初に妖怪達が「なんじゃ···?急に」とざわつきだす。それを見た私はクスッと小さく笑うと口許を扇で隠した。
皆、急なリクオのこの言動に驚いているのだ。みんなの様子を見ながら木魚達磨がリクオを見る。
「リクオ様···では牛鬼の件を私から説明させてもらいます」
「うん」
「奴良組相談役の木魚達磨でございます」
立ち上がった木魚達磨によって今回の件の説明が行われる。
「先日牛鬼はリクオ様と姫様のご学友を使い自らの土地である捩眼山におびき出しそこで刃を向けリクオ様を殺そうとした。また、すでに破門された旧鼠をあやつりリクオ様に引退をせまる回状をまわさせようとした次第であります」
木魚達磨の説明にまたざわつき出す妖怪たち。「やはりー本当か」「バカな奴」「ならばー牛鬼の奴」「へっ」とあちらこちらから聞こえる声に私は広間にいる全員に視線を向けると木魚達磨に向かって頷いた。それに頷き返す木魚達磨。
「リクオ様···ご処分を」
「うん」
頷いたリクオが懐からそれを取り出して広げると「無罪」と大きく書かれた紙をバッと皆に見せつける様に前に突き出したと共に声を張り上げた。
「おとがめなし!!」
リクオらしい行動にフッと軽く笑みを浮かべると一拍置いて「ハァ!?」と広間に声が響いた。「な、なんでじゃーー!?」「それほどのことをしといてーー!?」と騒ぎ出す妖怪たちはリクオに詰め寄る。
「総大将!?こりゃーちょっとおかしーのと違いますかい!?」
「姫様!!リクオ様は何もわかってねぇ!!若頭とか正気で言ってんですかい!?」
終いには私とおじいちゃんに詰め寄る始末。そして詰め寄られている私とおじいちゃんはと言うと───私は扇を持ちながらニコニコと笑みを浮かべているだけ、そしておじいちゃんは鼻をほじるだけ。
「いーーの!!ボクが決めたんだから!!ボクをきたえるためにやってくれたんだよ。ねーー牛鬼!!」
詰め寄る皆を抑えながらニコニコと牛鬼へと顔を向けるリクオに一ツ目がリクオを指差しながら詰め寄った。
「よくねーーよッ!」
「文句あるの!?」
「当たり前じゃッ!せめて解散させんのがスジってもんだろーーがぁ!!」
ギャアギャアと一ツ目を筆頭に騒ぎながら詰め寄る妖怪たちをリクオは笑顔で押し返す。
「その代わり牛鬼組の跡目候補で腹心の部下を本家あずかりにしてさらなる忠誠の証としたいってさ!ホント牛鬼はマジメだよ」
「甘すぎるわ!!」
笑みを浮かべて牛鬼を振り返るリクオに一ツ目が喝を入れる。
「そう······?だって、牛鬼組を解散させちゃったらその西側にいるっていう···妖怪たちへの防波堤がなくなっちゃうんじゃない?」
「う···ぐぅ···それはそうだが···」
「組を思うならそっちの方が問題だろ?それに牛鬼は約束してくれた。ボクがしっかりしてくれるなら今まで以上に働いてくれるってね!!」
バ〜ンと自分を指差しながら言い切ったリクオを見て、一ツ目はさらに詰め寄った。
「そこが一番ダメな問題なんじゃろーがぁ!!」
「お、おい一ツ目···」
咎めようとした妖怪をも一ツ目は「とめるんじゃねぇ」と振り切るとまた話し始める。
「こんな奴三代目にしておけるか!これじゃー組は弱くなる一方よ!愛国無罪か?······逆に忠誠心うすくなるわ!!」
「一ツ目······」
「なんだあ!?若いの!!おめーはこんなガキを支持するっちゅうんかい!?」
止めに入る鴆までをも振り切る一ツ目。そんな彼を鴆は見つめるがそれさえも気にもせず一ツ目はまた騒ぎ出す。
「まわりを見ろ!空気を読め!!だれ一人······」
そう言って周りを見渡すがみんなジリジリと一ツ目の傍から後退していく。「オレは言ってない」「オレも言ってないぞ」と言いながら下がっていく皆を見て一ツ目は「お、おい······」と狼狽え始める。
あ〜あ、アホらし。と心の中で溜息を吐いてから傍にあったお茶を飲む。そして一ツ目を見た。
バカな奴。リクオの調子に乗せられて───この場で孤立してるじゃない。
リクオの外面に騙されたわね。
(良い子ぶってぬらりくらりと───勝負あったわね)
溜息を吐いて口許を扇で隠しながらどうするのかとリクオを見ると一瞬だけ目が合った。ゆるりと持ち上がった口角を見て、私は思わず目をぱちくりと瞬かせた。
狼狽えながら周りを見回す一ツ目にリクオが一際低い声で話かける。
「一ツ目よぉ···お前······あくまで組のためって···言うんだな······?」
そのリクオの声に一ツ目が彼に目を向けると、顔を引き攣らせながら目を見開いた。
「なんならお前もオレをためしてみるかい?牛鬼みたいによ······」
前髪の下から覗く鋭い目に、夜の彼を思わせるリクオに、一ツ目は一歩後退しながら唸り声を上げると、リクオは表情を明るくさせてポンと一ツ目の肩に手を置いた。
「なんてね。さ······もどって会議続けよっか!」
その様子を見ていた木魚達磨が、
(勝負···ありましたな総大将、姫様)
チラリと私とおじいちゃんを見たので、私達は顔を見合わせてコクッと頷いた。それを見て木魚達磨は懐から紙を取り出すとバッとそれを広げて皆に見せる。
「みんな!!聞け!!奴良組規範第二条!!“総大将の条件”及び“参謀並びに姫の条件”により···若頭襲名をもって正式にリクオ様を三代目候補とする!!妖怪としての成人年齢!!“13歳”となるまでに他の候補があらわれなければ───あらためて奴良組三代目総大将となる!!」
木魚達磨のその声に一ツ目は悔しそうに声を上げた。
そして総会が終わりになろうという頃、リクオが突然立ち上がった。
「みんな!!もう一つ、聞いてほしいことがあるんだ!!」
広間が静まり返る中、リクオの視線が私へと向けられる。
嫌な予感。
「ここにいるかぐや姫改め月影神夜は───僕の許婚だから、よろしくね!!」
『
は···』
一拍置いて本家中に響いたのは「えええーー!?」と叫ぶ妖怪たちの声だった。