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『ここって相変わらず寒いよねぇ。まだ夏なのに』



ブルブルと震える体を、自身の手で抱きしめながら腕をさすっているとぎゅっと後ろから抱きしめられた。目をパチクリと瞬かせながら見上げるとすぐ近くにリクオの顔があった。



「これなら寒くねえだろ?」
『そうだけど···リクオは寒くないの?』
「オレもあったけえよ」



所かまわずイチャつくのは今に始まったことではないのでお気になさらず。なあんて言って見たかっただけなんだけどね!


ニヤつく顔を必死に抑えながらリクオの胸に身を寄せているとヒュンと何かが風を切る音が聞こえて、リクオはそれを反射的にパシィッと受け止めた。


片腕は私の腰に触れたままだが。



『「祢々切丸!」』
「この里を出てゆくときに戻せと言われてたの···すっかり忘れてたが〜」



そんな声が聞こえてきて視線を少し下に向けると、此方を見上げる二人のなまはげの姿。リクオと私を此処に連れてきた張本人たちだ。



「なまはげ···」
「礼を言うなら今のうちだが。さっそく雑用おしつけられちゃったわ···ワシら」
「ああ···今までありがとな」
『お世話になりましたー』



軽い感じで返す私の後に、なまはげの背後から慣れた妖気を感じて私はこっそりと口許を持ち上げた。やっぱり来たか。



「リクオ。オレたちは誰とも盃は交わさねぇが、それでも力が足んねぇお願いします助けて下さい!!ってことだったら···考えてやっても───」



カッコつけてそう言った淡島だが、



「ああ!!頼む!!」
「え?」



嬉しそうなリクオのその声にズルッとずっこけた。私はその様子にクスクスと笑みを浮かべる。まあ、こうなるなあとは思ってたけど···意外にあんたたちも寂しかったんじゃないの?私達が此処を出て行くのは。


そんな意味を込めて淡島たちに視線を向けるとゾロゾロと冷麗たちやいつものメンバーが集まってきた。



「京都の妖はそうとう強えみたいだ···オレは戦力がほしい!!おめーらがオレの百鬼に加わりゃ最高だ!なあ、神夜!!」
『そうね』



嬉しそうに私に目を向けるリクオに同意するように頷くと、「おいおいリクオ···神夜···」「まあ素直な子···」と声が聞こえた。


「どーする」「どーするって···リクオがそう言ったら行くって···約束だぜ?」小声で話し始める淡島と雨造を横目に私は冷麗と紫に目を向けた。



『二人はどーする?一緒に来るなら私は嬉しいけど。冷麗とも紫とも一緒にいられるし』
「え、神夜と一緒って···」
「それはいいかも···」
『どうする〜?』
「おいおい、誘惑すんなよ神夜!!」
『してないから!!!!』



リクオから離れた私は片手を腰に当てて少し身を屈めながら冷麗と紫にそう声をかけると淡島から声がかかった。誘惑なんてしてない。聞いただけじゃん。ちょっとニヤついてたかもしれないけど。



「私、お化粧道具持ってきてない···」



紫がそう溢すのを聞いて私はニヤリと笑みを浮かべると両手を腰に当てて前かがみになりながら皆に声を掛けた。


その私の顔を隣で見ていたリクオは後にこう語る。悪魔の笑みのような天使の笑みのような···と。悪魔の笑みと天使の笑みってどうやったら二分割できるんだよおい。普通におかしいだろ。



『ほらどーすんの!?さっさと支度しないと置いてくよ!』
「え?」
「なんで立場逆転してんのー!?」



私のその言葉にドタバタと急ぎ始める皆を見つめる。ほら、やっぱりこうなる。結局ついてくるんだから。



「······イタクは来てねーか」



リクオがそう溢した瞬間、私が見慣れた気配に振り返ったと同時にリクオの首筋に鎌が充てられた。



「つねに畏を解くなっていってんだろ」
「イタク···」
「これでおめーはもう遠野で二百回は死んでるぞ」



だいぶ死んでるなおい。



「危なっかしーんだよ、おめーはよ。まぁ神夜もだが」



おい、その鎌リクオに当たったら殺すぞイタク。てか今私の名前も出さなかった?え、私って危なっかしいの?なんか最近よく言われるけどそうなの?



「てめーの教育係はまだ終わってねぇ!!ただし···てめーと盃は交わさねーからな!!」
「·········ありがとよ」



いやあ、素晴らしき友情。


私が笑みを浮かべて二人を見ているとスウ···と腰からリクオが木の棒を抜いた。それを後ろから見ていたイタクが声をかける。



「おい、その刀···祢々切丸は使わねーのかい」
「こいつは···もっとでっけえ妖を斬る刀だ。ここの里の畏なんて······この相棒で十分だ」



その言葉に驚きの表情を浮かべる皆。リクオは私の手を引くと不敵な笑みを浮かべながら口を開いた。



「いくぜ、さよならだ遠野!!」
「いやっほう!京都京都楽しみ〜」
「え!!まさか雨造外は初めて!?」
「あったりめ〜よ!!どんな世界か楽しみだぜ〜〜」



本当に愉快な奴等だね。


私がリクオと顔を見合わせて微笑み合うと、ここにいる全員で一緒に里の畏をズバァァァンッと断ち切った。


さあ行きますか!



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