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その日の夜。
広間に遠野の妖怪が集まり赤河童様を中心に皆がワイワイと夕餉を食べる。ワイワイガヤガヤと騒がしい広間で私もイタクと淡島の間に座りながら冷麗たちが作った夕餉をつついていた。



「そのメシ、いただきッ!」
『あ!?てめー、淡島!』



私の皿の上に乗っていた魚を取ってパクリと加えた淡島に声を上げる私。そんなやりとりが行われている隣ではイタクが真剣な顔で何かを考え込んでいた。それを横目で見ていた私は淡島の皿から魚を取り上げて口に加えながら彼の顔を覗き込む。



『ほほひあお?』
「···ちゃんと食ってから喋ろ」



おっ···と。


魚をくわえながら喋ったもんだから上手く聞き取れなかったイタクにため息を吐かれながらそう言われた私は『すいませーん』と軽く頭を下げてから魚を飲み干した。うぅん、美味しいねやっぱり。奴良組の料理に負けず劣らず。お米は全然向こうと違うのだが。


ゴクリと飲み干して再度イタクに顔を向ける。



『で、どうしたの?さっきから難しい顔をして』
「いや···」
『どーせ、京都の妖怪の事でしょ?』
「······やっぱり気付いてたか」



ズズズとお味噌汁を飲みながら私が横目でそう言うとイタクはニヤリと口角を吊り上げた。だが、バンダナの下から覗くその鋭い眼は何処かを見ているようで···。


私がお茶碗を片手に顔を覗き込むと、イタクはフイッと目を逸らしてズズッとお味噌汁を啜った。『もっと静かに飲みなさい!』と言うと「お前だってさっき同じ飲み方してただろ」と返された。まあ、本当の事だったんで言い返せませんでしたけど。というか、口ゲンカで買った事ないですけどねイタクには。多分···。


少々落ち込みながらお茶碗の中にあるご飯を食べるとイタクが口を開いた。



「鬼道丸···あいつ只者じゃねえ強さだった···。あんな奴らが京にはゴロゴロいる···。果たして奴良組に対抗できる奴が何人いるかだな···」
『あ〜まあね』



まあ、イタクの言いたいこともわかるけど。あまり奴良組を舐めないで欲しい。いや、だってあのおじいちゃんが総大将だよ?その後をリクオが継ぐのよ?あの嫌がってたリクオが。


そう考えたらあの奴良組にはまともな奴いないでしょ。クォーターのリクオが三代目で半妖の鯉伴さんが二代目で、あのおじいちゃんが総大将だ。世も末である。


まあ、奴良組は変わり者が多いからね。総大将や若頭がそうなように。うん、これ絶対おじいちゃんやリクオに聞かれてたら私···終わるな。


少し遠い目の私にイタクが首を傾げたその時。



「邪魔するぜ」



何処からともなくリクオが現れた。



「リクオ!?」
「なんだ?」
「どっから入ってきた?」



淡島が腰を上げながら名前を呼ぶと周りの遠野妖怪たちがざわつき出す。


急に入ってきたもんね、驚きますよね。わかります←



「リ···リクオの奴、何もたもたしてんだよ。さっさと出ていきゃいーじゃねーか」
「いいから黙ってろ」



淡島の言葉にイタクが制止をかける。


まあ、黙って出ていくのがいいんだろうけど、リクオは律儀だからね。昔の私みたいに黙って喜々と出て行ったりしないのさ。そうですよ、黙って出て行って母に怒られて戻るハメになったのは私ですけど何か?さっさと帰りたかったんだよコンチクショウ。



「······てっきり勝手に出ていくものだと思っていた。死んでないってことは···多少は強くなったんだろ?」
「多少な」



おい、そこの細河童うるせえ。第一、リクオが私を置いて一人で出て行くか!!そんな事心優しいリクオはしないもんね!·································え、しないよね?



「短い間でしたが遠野の皆様方には昨今駆け出しのこの私の為に稽古をつけてくれたこと厚く御礼申し上げたい」



拳を床につけながら軽く頭を下げたリクオのその姿と丁寧な言葉遣いに遠野妖怪たちがほう···と感嘆の声を洩らす。かくゆう私も小さな声で『おぉ···』と溢した。なんかデジャブを感じる。リクオが若頭に襲名する時もこんな感じだったな。



「律儀に挨拶しに来るとはな。「遠野」とうまくやる為に教え込まれた処世術かい?」
「ハハハ、じいさんの英雄譚ばかり聞かされているだろうに。実際は先代を失ってからの奴良組は弱体化の一途を辿っているのにな···」



リクオがその言葉に顔を上げた。その姿を見ながら赤河童様の隣にいた細河童-名前知らない-がククク···とか細く笑う。体も細いと笑い声も細いのな。



「お前は何も知らんか」



赤河童様はそう言うと静かに成り行きを見ていた私へと視線を向けた。その視線の意味に気付いて私が少し身動ぎすると、リクオが口を開いた。



「八年前、目の前で親父が殺された時、オレは恐らく羽衣狐に会っている」
「「「「「『!?』」」」」」



その事は初耳だ。「おいそうなのか?」とイタクに小声で聞かれたがそんな事知りもしなかった私は『え、わかんない···』とイタクに身を寄せながら小声で呟いた。そんな呆れたような目で見ないでよ。私だってまだ幼かったんだから。



「あの時を境に奴良組は弱体化し逆に関西妖怪が勢力を伸ばし始めた。この因果が偶然たまたまじゃねえとしたら、親父と神夜の両親を殺ったのは羽衣狐だ。だからあの女にもう一度会いにオレは京都へ行く。この深い因縁を断ち切るために!!」



先程のように拳を突きながらそう言ったリクオに私は目を見開いた。彼が京都に行きたがるもう一つの理由はそこにあったのね。


イタクたちは私の両親が羽衣狐に殺されたことを知らなかったから驚いたように私を見ていた。まあ、言ってなかったし。



「オイオイ」
「超美人の友達を助けるためだけじゃなかったのかい···?」
『それあんたの勘違いよ』
「·········マジかよ」



私の周りにいた土彦や雨造の言葉にさり気なく返していると周りにいた遠野妖怪たちが立ち上がって騒ぎ出した。おい、まだご飯残ってるんだから膳を倒すな。まあ、自分のだけはさり気なく庇いましたけどね。せっかく女妖怪や冷麗が作ってくれたんだから倒されて台無しにするわけにはいかない。


そんな私の姿にイタクが横でため息を吐いていたけど知らない。



「四百年前の主···羽衣狐が親の敵」
「奴良組の若頭が老いた総大将にかわり妖の主を争うかおもしろい!!」



面白くねえって。



「見ものじゃな!!」
「妖の主をめぐる一大決戦!!この遠野で高見の見物とまいろう!!」



いや、動かねえのかよ。


ハハハハと盛大に笑い飛ばす彼らに思わず心中で突っ込みを入れるとリクオが周囲を見回しながら口を開いた。


今はまだ私に被害がないから大丈夫だが、いつ被害がくるかわからないため念のため身を縮ませておく。おい、お前ら騒ぐのはいいが足元気を付けろ。まだ私の夕餉残ってるんだから。



「なんだ?こん中にオレが魑魅魍魎の主となる瞬間を一番近くで見てぇ奴は誰もいねぇのか?」
「······どういう意味だ」
「こんな山奥でえらそーにしててもそれこそお山の大将だ。京都についてくる度胸のある奴はいねぇのかって聞いてんだ」



ああ、もうほら煽るなってば。暴れるから。本当にリクオは人を煽るのが得意だなおい!


リクオがそう言って不敵な笑みを浮かべると一斉に周りが先程より騒ぎ出した。皆が自分の膳を蹴り倒してリクオの周りに詰め寄る。



「ああああ!?」
「今何を言ったぁ!?」
「オレたち遠野をバカにしたな!?」
「大口をたたきやがって!」
「二度と出られねぇようにしてやろーか!!」
『人の膳をひっくり返すなお前らああああああ!!!』



まだご飯残ってたのに!!勿体ない!ほら、床がご飯だらけだよ!?ふざけんなこのバカども!!


だが、私の声も虚しく周りの怒声に掻き消された。かろうじて隣にいたイタクたちには聞こえていたみたいだが。


みんなの怒声に当たりを見回していたリクオの体をブワアアアアッと凄い音で河童犬が通り抜けるがそれはぬらりひょんの畏で意図もたやすく避けられてしまった。



「む」



そしていつの間にか赤河童様の胡坐をかいた膝の上に座りその盃に酒を注ぐリクオの姿に皆が目を見開いた。



「世話になりやした。これにて失礼」



トクトクトクと酒を注ぎながらニヤリと笑みを浮かべるリクオの姿に私が、あああカッコイイ!とバシバシとイタクの肩を叩いていると「いてえよ!!」と思い切り叩き返された。しかも頭。


そんな思い切り叩かなくても···と頬を膨らませながら叩かれた頭を擦っていると目の前に手が差し出された。その手の先を視線で辿っていくとあったのは先程と同じニヤリ顔のリクオで。



「行くぜ、神夜」
『は、はい···』



頬を染めて呆気にとられながらも私はリクオの手を取って立ち上がると彼にエスコートされるがまま騒がしい広間から出て行く。



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