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京妖怪・鬼童丸



「全然ダメだ」



その言葉の後に、ドカンッと破壊音がその場に響いた。


今、稽古場ではイタクがリクオに修行中である。



「畏ってのはみんな違う」



イタクの技によって木の皮で逆さにつるされているリクオはイタクの言葉に目を丸くした。なんともまあ、その格好は間抜けなのだが、それでもカッコイイと思ってしまうのは、惚れた弱味か。


おい、土彦。今ボソッと言ったの聞こえたぞ。「ふつーにリクオにベタ惚れなだけだろ」って聞こえてるからな、てめえ後で覚えてろよ。シバくぞオラ。よかったなぁ、紫が私に抱き着いてて。傍に紫か冷麗が居なかったら今頃あんたはフルボッコにされてるわ。


あの温泉の後から私とリクオが許婚だと知った皆は、常に囃し立てるようになった。淡島と土彦と雨造なんて特に。私とリクオが一緒にいるだけ、もしくは喋ってるだけで「見せびらかすなよ」「妬けるぜ!」「いいなあ」等々。どんだけお前ら人の恋路に首を突っ込みたいんだって程に冷やかしてくる。


まあ、だいたいその度に怖い顔のイタクに死ぬほどの稽古に付き合わされるか、清々しい程の綺麗な笑顔を浮かべる冷麗の氷の餌食になるかのどちらかの攻撃を食らっているのだが。


あれは見てて可哀相だ。イタクは不機嫌な顔でずっと攻撃を続けるし、稽古場を壊してしまうんじゃないだろうかという程に暴れ回る。そして冷麗はと言うと、小2時間程そのままの状態にさせて凍死させる寸前まで行くか、ご飯が滅茶苦茶冷たいか、男湯の湯が冷たいか、の三択だ。


凍死云々は自業自得なので何も言わないが、食事やお風呂は周りの妖怪まで巻沿いを食らう為少し可哀相だ。


そして話を現状に戻そう。ドカドカとやり合う淡島と雨造を横目にイタクは腕を組みながらリクオに口を開いた。



「畏を技にするってのは、妖怪の特徴を具体的に出すってことだ。河童なら水系の技になるだろうし、雪女なら氷系の技を具現化するだろう」



ドシャアアアと水を手から出しながら「キェェェ」と奇声を上げる雨造に、淡島が「なんだそのふざけた技はああああ」と叫んでいるのが聞こえる。


うん、淡島私も同意見だよ。え、何そのふざけた技。なめてんのか雨造。真剣にやりやがれ。



「う〜〜ん、そうか。鎌鼬は鎌の技···妖狐は火の技···わかりやすいな···」



妖狐って私ですか。確かに火の技も使うけど、どっちかっていうと桜の技ばっかだからなぁ。


私がなぜ桜の技が使えるかというとね。何故かというと、私の御先祖様に桜の妖と結ばれた人がいるからだ。


だが、その後にそのご先祖様の力を継ぐ者は出ておらず、私の代でやっと継ぐ者が出て来た。だから、私は桜の精というか、桜の木に住む精霊っていうの?───まあ、そういう神の域からの力を借りて桜の花びらを使った技を出しているのだ。


一応夜桜の名前は桜から取ったものだ。桜と月が大好きバンザイ。まあ、あまりにも強い敵の時ぐらいにしかこの私の妖力と母の妖力が交った夜桜は使わないようにしているのだが。あんまり変に使いたくない。せっかく母が私に残してくれたものなのだから。


イタクの技から抜け出たリクオに紫は私に抱き着きながら声を発した。



「ねーぬらりひょんって何の妖怪?」
「「『·········』」」



思わず私とイタクとリクオは紫の質問に顔を見合わせた。この里には“ぬらりひょん”なんていう妖怪いないからわかんないもんな。


ぬらりひょん。
人の家に勝手に上がり茶をすすったりする妖怪。
妖怪の総大将。



「なんかわかりにくい」



なんともまあ、ピシャリと言う子ね。「ケホッケホッ」と咳をする紫の頭を撫でてやる。私の傍にやって来たイタクは、腕を組みながらリクオに顔を向けた。



「具体的じゃねーんだよ、お前はよ···ふざけんなよ」
「それ、オレのせいじゃないんだが。ふざけてねーよ」
「だからつかめねーんでねぇの感覚が。神夜もそう思うだろ?」
『うーん、まあそうだね』



私がそう頷くとリクオはうーんと考えるように持っていた木の棒を顎に当てて俯いた。


その時、お弁当を持った冷麗が来た。



「自分自身を知ることから始めたら?」



「ハイ」渡されるレモンのスライスハチミツづけ(シャリシャリしてる)に私は『やったー!』と声を上げた。冷麗のこれ、美味しいんだよねえ!!


嬉々とお弁当を覗き込んだ私は、リクオに言いたい事があってパッと顔を上げた。右隣にイタク、左隣に冷麗、そして真正面から抱き着いてくる紫。なんだコレ。



『“ぬらりひょん”という妖怪の血と真正面から。そうあればきっとおのずと見えてくるはずだよ···自分の“技”が』
「そーだぜリクオォウ!」
「あまのじゃく」



ヒョコと顔を出した淡島。



「オレは自分の特徴が最初は嫌で嫌でしかたなかったが、今じゃーー技として昇華してる!!」
「アレは···すごい技よね、フフフ···」
『ある意味ね』
「お前しか出来ん。まず無理」
「やってやろーかイタクー」



そんな事を話していたその後。私はイタクと一緒に森の中を駆け抜けていた。



「神夜、こっちでいいのか!?」
『私を信じなさいよ!』
「お前のは勘だろーが!」
『そうですけど何か!?』



大きい声で言い合いをしつつ、私とイタクはリクオが向かったであろう川の方へと向かう。


しばらく駆け抜けて開けた場所に出た時、リクオに遅いかかるスーツ姿の妖怪。おお、頭に二本角みたいなのが生えてる。鬼の妖怪か?───ん?あいつら見たことあるぞ···。


思い出されるのは、私がだいぶ前に遠野にちょっと用事で寄った時、「兵を貸せ」という事で遠野に来ていた京妖怪どもの背中をゲシッと蹴って『帰れ』と言った時の事。そうだ、あれはこの里で伝説となったのだ。


んんんんん?あいつら、あの時の奴じゃねえか!?


とりあえず、スピードを上げようとした時、隣にいたイタクが鎌を二本抜いてリクオに襲い掛かった黒いスーツの妖怪の腕を斬り落とした。


ボドオオオと音を立てて地面に腕が落ちる。ちょっと······容赦なさすぎでしょ。



「···!?イジ···!?」



もう何を言ってるかすらわからない妖怪をイタクはバンダナの下から鋭い眼でギロ···と睨みつける。



「何やってんだ、おめぇら···」



ちょっとちょっと妖力めっちゃ高めるじゃん。



「···おい、オレらの里で暴れやがって···京妖怪さんよ···。

殺すぞ」



鎌を構えながら睨みつけるイタクの隣に、私は桜柄の着物を靡かせながらふわりと降り立った。



『ちょっとあんた達、さっさとここから出て行ってくれない?ここはあんたらが来る所じゃないわよ。───前みたいに、また蹴られたいの?』



前髪の下から覗く翡翠の瞳を細めて相手を見据えると、三人の京妖怪の体が一瞬フルリと震えた。“畏”たな···。



「なんだお前ら···?喰い殺したろかバカが」
「······吊るし決定···」



前の男二人がそう言って私とイタクを睨みつける。イタクはもう一本とり出した鎌を口に加えて三刀流で相手を睨みつける。


私も掌に桜を浮かばせて片手を夜桜にかけながら体制を低くして、イタクと共に相手を見据えて構えていると後ろから「待て······神夜···イタク······」と私達を止める声が聞こえた。


目だけで後ろを振り返る。



「そいつは···オレの敵だ···!!」



リクオは岩と岩の間に挟まっていた木の枝をズルズルズルと引きずり出すと、それを前で構えた。ジャリ···と地面の砂利を踏む。



「思い出したぜ···鏡花水月」



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