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神夜達が風呂場に向かっているとは知らないオレは、イタクたちと露天風呂につかっていた。


今日の稽古のせいで、この風呂の湯が傷にしみる。



「生キズがしみんじゃねーの」
「リクオーー、一日かけても出来なかったなー。向いてねーんじゃねぇか」



からかうような声に「そんな簡単に出来るもんじゃねーだろ」と返すと雨造に「5歳の時には出来た」と返された。しかも妖怪なんだからできて当たり前とまでも言われた。


しかも神夜もこの里に来てすぐに出来たって言うし。守りたい奴よりも下ってなんかすげぇ悔しいな。今日の稽古の時も遠野妖怪とやり合う神夜を見てたが、本気なんか出してなくてあの強さだ。じじいと同じくらいの強さじゃねぇのか、アレは。


聞けば神夜は幼い頃、母親に連れられてここに修行しに来たらしい。その時にここにいる奴等と知り合って度々来ていたみたいだが、オレはそんな事一つも知らなかったんだよな。


あのいかにもお互いを解り合ってる、という雰囲気のイタクと神夜を見てるだけでオレの心の中に黒いドロドロとしたもんが溢れてきそうだ。神夜がオレしか見てねぇのは解ってんのに、あいついろいろな奴等に好かれてるからな。いつか取られそうで怖ぇ。



「なぁ、リクオは何で京都にそんなこだわってんだ?」
「ん?」
「京都っていやあ···最近、妙な噂がこの遠野にも出廻ってる。なんか···「厄介な奴」が復活したとか···危険じゃねーのか?」



羽衣狐のことか?



「ああ···まあ危ねーだろーな···ゆらじゃあ···」



オレのそんな言葉に鋭く反応を示してザプと湯を揺らす雨造と土彦。



「ゆら?女か!」
「そいつを助けに行くのか!!美人なんだ」
「いや···そこそこかな···」



オレには神夜の方が美人だし可愛いと思うけどな。性格もいいし。人間の時も金狐の時も普通に可愛いだろ。


オレのその思いを感じ取ったように雨造と土彦は「まぁ、たしかに神夜も可愛いな」「うんうん。それに美人だ」と口々に言う。ほら、すぐ敵を増やしやがる。



「あいつは身を挺してオレを守ってくれた。あいつをそのまま見捨てるような真似はしたくねぇ。神夜もそれを望んでるしな。理由は他にもう一つあるけどな···」



ゆらのこと気にかけてたしな、神夜の奴。



「ま···妖怪仁義ってやつだな」
「おお〜〜妖怪ヤクザっぽい〜」
「てことは···京都は敵なんだな」



遠くでオレたちの話を聞いていたイタクの声に「え?」「イタク······」と雨造と土彦が振り返る。



「オレも奴らは好きじゃねぇ」



オレたちの土地はな···極寒で決して豊かじゃあない。歴史的にも中央のヤツらにはたびたび苦杯をなめさせられてきた。だからこそ···この地の妖は強くなった···自分達だけで生きてゆく為にな!!


遠野一家は東北中の武闘派の総元締として人材を全国の妖怪組織に送り込んできた。だからと言って誰の配下にもくわわらねぇ···誰とも盃は交わさねぇ···独立独歩を貫き続けてきた。



「それがオレ達、妖怪忍者と言われる遠野妖怪の誇りさ。なのにあいつらはオレ達を下に見て···都合のいいときだけ利用しようとしやがる!!」
「そーだぜ、あいつらすかしてやがる」
「そーそー!!上から目線でよ···さも当然のように自分達の兵隊を要求してくる!!」
「あいつらの為に働いてたまるかってんだ!!」
「神夜が前、追い払ってくれた時はスカッとしたよな!!」
「神夜が?」



オレのそんな言葉を拾ったイタクが前に京都の奴らが来た時に「兵隊を寄こせ」と言うあいつらに後ろから蹴りを食らわせて『帰れ』と言って追い出した神夜の話を教えてくれた。


あいつ······何やってんだ。


その時のことはもうこの里の伝説みたいになっておりその時の事を含めて皆、神夜の事は尊敬しているそうだ。まぁ、それであいつに好意を持つ奴等がいるのも確かだろうな。多分···オレの勘だとイタクも神夜の事好きそうだし。あの冷麗と紫って奴等もそうだろうな。つららと同じ類だ。



「次来たらブッ殺してやろーぜぇ」
「おーおー老人らが何言おうが関係ねぇ」
「そうだ!!オレもあいつらが嫌いだ!!オレをただの女だと判断しやがる!!」



突然聞こえて来た声に振り返ると裸の女が出て来てオレは思わず、え···と固まった。何で女がここに···。



「あ···あわしまーー!?」
「え······!?あまのじゃくの淡島!?あいつって男じゃ···」



オレが驚きの声を上げると淡島はドボーンとお湯の中に入って来てオレの目の前に下りて来た。



「仲良くやろーぜ新入り!!ハダカのつきあいだ」



「おいおいマズイだろ」そんな声が淡島の後ろから聞こえる。すると急にその声が止んだ。雨造たちがピタリと固まると同時にイタクのため息。



「淡島···知らねえぞ」
「あ?」
『あ〜わ〜し〜ま〜!』



突然聞こえて来た声にオレと淡島は同時に「「神夜!?」」と叫んだ。いつもの着物姿の神夜が怖い顔でオレの後ろに立っていて淡島を見下ろしていたのだ。


冷や汗をかきながら淡島が離れる。



『あんた、こんなとこで何してんのよ』
「いや······えっと···新入りとハダカの付き合いを」

はあ?



神夜の滅多に聞かない低い声にオレは冷や汗をかいた。離れた所で様子を見ていた雨造たちも顔を青褪めながら徐々にその場から離れていく。オレたちから離れた所でお湯につかっていたイタクの元に皆が避難するのを横目に神夜はオレの傍から離れた淡島を見下ろした。



『あのねぇ、リクオはあんたの事よく知らないんだから突然お風呂に入ってきたら驚くに決まってんでしょ?』
「いいじゃねぇか、別に。昼は男なんだからよ」
『その生意気な口今すぐ閉じないとお湯に沈めるわよ。』



「本気だ···」誰かが溢した。大人しく淡島がお湯から出るのを見て後ろに控えていた冷麗に淡島の事を頼む。


神夜は紫と冷麗と共に淡島がこの場を離れていくのを見送ると、岩に寄りかかって彼女を見上げるオレを見た。



『リクオ、お風呂から出たら私の部屋においで。傷の手当してあげる』
「ああ」



ニコリと笑みを浮かべて神夜が踵を返すと「神夜」とイタクが呼んだ。神夜は振り返ってイタクを見つめる。



『何?』
「お前も京都に行くのか?」
『···ええ』



神夜の返事にイタクは鋭い眼差しを向けた。


イタクは神夜が京都に行く理由を知りたいのだろう。さっき神夜が言っていたが、イタクは視線や態度などで示すらしい。ツンデレツンデレとからかうようにイタクをつついて、叩かれていた彼女を思い出した。


神夜はお湯につかるオレの隣にしゃがみ込んで顔を覗き込んでくると笑みを浮かべた。不思議そうに神夜を見つめるオレの紅と神夜の翡翠が交じり合う。



『リクオが行くから。私は唯リクオの傍にいたいから京都に行くだけよ(まあ、それだけじゃないけど。)』



やべえな。オレ今すごいニヤてる気がする。



「やっぱりリクオと神夜って···」
「いやいやちげぇだろ」



オレと神夜を見ながらヒソヒソと話す雨造と土彦に神夜が視線を向ける。



『何よ』
「いや、神夜が昔言ってた“大事な人”って」



二人が言いたい事が何となくわかった神夜はオレの頭をぎゅっと抱きしめて妖艶な笑みを浮かべた。彼女の匂いがふわっとオレを包み込む。桜のいい匂いがした。



『リクオよ。私の許婚』
「「「「えええええ!!」」」」



『うるさっ』眉を顰めながら神夜は叫ぶ雨造たちを無視してその場から離れた。神夜がその場から離れた後、妖怪たちに詰め寄られたオレや、不機嫌そうなイタクのことを神夜は知らない。



「許婚!?」
「本当なのかよリクオ!」
「そうだよ」



これが少しでも牽制になればいいけどな。



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