二
そしてリクオに連れられて帰ってきた私は、自室に戻って着替えた。今日はあの丈の短い着物じゃなくて、着流しにしようか。どうせリクオはいつもの黒の着流しに羽織だろうし。
桃色の着流しを手に取ってスル···と腕から羽織る。帯を結んで、上から同色の羽織を羽織る。ん〜髪の毛どうしようかな。
しばらく自室にある鏡で悩むこと数秒。私は引き出しの中から、ババピンを二個取り出して、右の髪の毛を耳に掛けてピンをバッテンにして止めた。前髪を7:3の割合で左に流す。
『んふふ、OKOK』
待って、今自分で言って思った。この「んふふ」って笑い方怖いな。しかも自室で一人。他の人が訊いたら頭おかしいって思われそう。
その時、庭の方からドボオオン!と何かが池に落ちた音が聞こえた。
『何?』
自室から飛び出して羽織を靡かせながら音の聞こえた方に向かうとおじいちゃんがいた。
「チッ······バカめが、こんなジジイの蹴りがかわせんのかい」
『おじいちゃん···?』
私の声に気付いたおじいちゃんは私の方をチラリと見てからブクと泡が出る池に視線を向けた。
「そこで頭を冷やせ、リクオ。今のお前じゃあ、京へは死ににゆくようなものじゃあ······」
え、もしかして池に落ちたのはリクオ!?
「四国を倒して天狗か?てめぇの力じゃ···下っ端にもやられるぞ」
怖い顔をするおじいちゃんに私は思わず目を見開いて一歩下がった。その時、ザパアアアアッと池から夜の姿のリクオが出て来た。
「なにをしやがる···くそじじい」
まてまて、二人とも相当怒ってるぞ。
「やってみねぇと、わかんねぇだろーが」
「·········ためしてみるか?」
ドスをチンと鳴らしながらそう言うおじいちゃんと、それを睨みつけるリクオを見て私は冷や汗を流した。
なんで来ちゃったんだろうか······。祖父と孫のケンカなんて見たくないし巻き込まれたくないんですが···。しかもこの二人とか絶対大ゲンカになるじゃん。ふざけんなよ。
私は冷たい風が庭に吹く中、ただ切実にこう願った。
この場から離れたい。