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「人間を連れてくるですって!?」



ぬらりひょんと珱姫の所に向かう前、奴良組の皆が集まるときに、今夜珱姫を連れてくるというといの一番に雪女が声を上げた。


それに頷き返して鴉天狗に視線を向ける。



『京一の絶世の美女。あれは自分の目で見ないとわからないわよ』
「月夜が気に入ったらしくてな。ここに連れてきたいと言ったんじゃ」



珱姫の御屋敷に行った時にもらってきた(奪ってきた)煙管を吸いながらぬらりひょんがそう言うと雪女が「嫌よ!!」とわたしとぬらりひょんにずいっと迫ってきた。



「なんで人間なんか···!」
「雪女、珱姫は意外に面白いぞ?」
『雪麗も気に入ると思うけど?』



わたしがそう言って雪女の頭を撫でると、彼女は顔を真っ赤にして「名前で呼ばないでよ!」と叫んで離れて行った。それを見届けてぬらりひょんが鴉天狗を振り返る。



「そういうことじゃ。頼むぞ」
「いや、しかし総大将···!いくらなんでも人間をここには···!」
「いくぞ、月夜」



鴉天狗がグタグタ言う前にぬらりひょんは異論は認めんという風にわたしを抱き上げると、後ろで「総大将ー!月夜様ー!」と叫ぶ鴉天狗を置いて宿を出た。帰ってきたら、絶対怒られそう···。












「毎日···息のつまる···」
「今夜もごくろうなこったな。陰陽師どもは」



ふう…とため息をつく珱姫に後ろから声がかかり、振り返ると煙管を吸っているぬらりひょんとそれにもたれかかるわたしの姿があり、珱姫は「どこから父上のキセルを············」と呟いた。


ぬらりひょんは煙管をゆらゆらと揺らしながら答える。



「いい品だ。そうとう金があるとお見受けする」
『おかげであなたはカゴの鳥············ね』



わたしがそう言うと、珱姫はフウーーと長い息をついた。



「············そんな言い方。しかたのないことです············これが私の運命です」



運命······ねぇ。


ぬらりひょんが吐き出した煙がわたし達の間を流れる。わたしはそれを目で追って珱姫を真っ直ぐ見つめた。



『ねえ···外に出ない?ここは息がつまるんでしょ?』
「えっ···」



先程珱姫が言った言葉を言うと、珱姫はドキッと狼狽えたような声を出した。そして俯きながら呟くように言う。



「そんな···困ります。私は······外に出ることは出来ないのです!!この家のために···お父上のためにも···この家にいつづけなくては。···それに見張りもいますし」



だんだんと小さくなる声にわたしとぬらりひょんは目を合わせた。そして···。



『痛い!切られた腕が!!』
「大丈夫か、月夜!」
「え」



腕を押さえて痛がるわたしにぬらりひょんが乗り、それを見ていた珱姫が駆け寄ってくると、ガッとぬらりひょんが珱姫の手を掴んで引き寄せた。



「そーら、つかまえたぁああ!!」
「キャ···。だ···だましたのですか!?妖!!」
『ふふっ』



珱姫を横抱きにするぬらりひょんの隣に並ぶと珱姫が抗議するようにわたしを見つめた。そしてぬらりひょんと目を合わせるとわたし達は廊下へと出た。


いきなりの事に珱姫から「キャ···」と可愛い悲鳴が上がる。



「おっと···静かに。なぁに···一晩だけ借りる話じゃ」
『朝になれば返すわよ。嫌がらないで、むしろ楽しんだ方がいいわよ』



ニコリとわたしがそう言うとぬらりひょんと共にその場を駆け出した。


庭を横切ると眠そうにふわああと欠伸を噛み殺す男の人を見て珱姫が「父上···?」と声を上げるが、その人は気付くはずもなくそのまま素通りしていく。そんな出来事に珱姫は首を傾げた。



「な···なぜ···気付かないの?」
「ハハハ。
それはワシが“ぬらりひょん”だからじゃ!」



屋根伝いに辿りついたのは、たくさんの人間達で溢れかえる島原。ここにわたし達、奴良組の宿があるのだ。ワイワイとにぎわう街並みに珱姫は目を奪われたように釘付けになった。



「こんな往来で···」
「なぁに、誰も気づきはしない。ぬらりくらりと······ワシに身を任してみよ」
「······ぬらり···ひょん」



ぬらりひょんを見上げる彼女はその隣で街並みを見ているわたしへと視線を向けた。それを見てわたしはニコリと笑みを浮かべる。



『そう···自由な妖の名よ。あなたも···思うままに生きたらどう?』



そう言うと珱姫を連れてわたし達の宿、洛西へと向かった。


そしてわたし達の宿へとついて、珱姫を皆に見せると。



「ほう〜それが!!」
「総大将と月夜様が気に入ったという京都一の···絶世の美女ですかぁ〜〜」



皆から絶賛の声が上がる中、雪女は「ふーーんふーーん」と言いながらじろじろと珱姫を見た。そんな妖怪達を見ながら珱姫は驚きの表情を見せ、ぬらりひょんと並んで座っているわたしの着物の袖を掴んだ。


これだけの妖怪達を目にするのは初めてなのだろう。



「どうだ、カラス天狗」
「まいりました。ただの噂だとばかり」



わたしの隣で話しているぬらりひょんと鴉天狗を見ていると、ちょんちょんと袖を引っ張られた。『ん?』と顔を向けると着物の袖で口許を隠しながら驚愕の表情を浮かべている珱姫が恐る恐る声を出す。



「あ···妖···ですよね」
『心配しないで。みんなぬらりひょんの下僕よ』



そんなに脅えなくても···と言おうとすると、小妖怪達がワッと珱姫に群がってきた。



「彼女〜〜箱入り娘なんだって!?」
「オレが遊びおしえてやるよ〜〜」
「あの······あの······狐様······妖様······」



小妖怪達に埋もれる珱姫からわたしとぬらりひょんを呼ぶ声が聞こえたけれど、わたし達はそれを無視した。


ぬらりひょんに酌をしながら見る先には、



「ど···どーやって遊ぶのですか?私···こういうのは初めてで」
「え〜〜」



納豆小僧達に遊びを教えてもらいながら遊んでいる珱姫の姿で。おどおどしながらもちゃんと納豆小僧達と会話をしている彼女は徐々に楽しそうな笑顔を浮かべていた。



「どう?楽しいでしょ?」
「······あの······外は···楽しゅう···ございます」



そう言って柔らかい微笑を浮かべる珱姫を横目で見たわたしとぬらりひょんは顔を見合わせて微笑み合った。



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