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ぬらりひょんと妖狐と珱姫



「いやっ···痛いっ···。離して下さい。何を···何をなさるのです!!」



わたしに押さえつけられてジタバタと暴れるお姫様。だが、人間の力がわたし達、妖怪の力に敵うはずもなく、彼女は荒い息をついて恐怖に涙を流しながら手に持っていた刀をグッと握った。


後ろで煙管を吸いながらニヤニヤとわたし達を見ているぬらりひょんを置いてわたしはお姫様を見下ろす。



『へえ···カラス天狗の言う通りいい女じゃない···。ねえ、ぬらりひょん』
「ワシは月夜の方がいい女だと思うがな···」



ぬらりひょんの返答に振り返ろうとすると、



ードシュッ



お姫様が握っていた刀に腕を斬りつけられた。ツウ···と一筋流れる血を見ながら、『······へぇ』と目を細めてお姫様を見つめる。


意外とやるのね···。


だけどわたしは妖怪。こんな傷すぐに治ると思っていた。だけど···。



ージュワッ



いつもならすぐに治る傷も広がり出してドバアアッとわたしの腕から血があふれ出した。驚愕の表情を浮かべるわたしに目を見開くぬらりひょん。



「······おいおい·········それは妖刀か」



ぬらりひょんがそう言った瞬間、お姫様は急いで起き上がるとわたしの腕に手を当てた。パアッと傷口が光るとドクッドクッと溢れ出ていた血が次第に収まっていく。そしてすぐにピタッ···と止まった。



『「·········」』
「ハアハア···と···止まった···」



その事実にわたしとぬらりひょんが唖然と目を見開いていると、お姫様が息を切らせながらわたしを見上げてそう言った。それを見てわたしはお姫様に声をかける。



『あなた··何··?』



だがお姫様は荒い息をつきながらわたしを見上げてるだけ。すると、部屋の外からこちらに駆けてくる足音と「姫君!!ごぶじですか!?」という声。陰陽師が来たわね···。


わたしとぬらりひょんは目を合わせるとバッとお姫様から退いた。



「あッ······」
「“ぬらりひょん”人はワシをそう呼ぶ」
『“妖狐”の月夜よ』



唖然とわたし達を見るお姫様をチラリと振り返る。



「あんた、おもしろいな」
『また来るわ』



そう言って陰陽師が部屋に入ってくる前にわたしとぬらりひょんはひらりとその屋敷から飛び立った。


奴良組の皆がいる場所に戻るために屋根の上を歩いていると、わたしの楽しそうな顔に気付いたぬらりひょんが顔を覗き込んできた。



「なんじゃ月夜。楽しそうじゃな」
『あのお姫様···鴉天狗が言ってた“治癒姫”でしょ?』
「ああ、そうだろうな」



ぬらりひょんの返事にわたしは唯楽しそうにニコリと笑みを浮かべたのだった。



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