一
夜中、金狐の姿でゴロゴロしていると、部屋の中におじいちゃんが入ってきた。
「おい、神夜」
『なあに?』
「ワシのキセル知らんか?」
キセル?
あぁ、いつもおじいちゃんが持ってるあの高そうなやつか。
キセルを頭に思い浮かべながらおじいちゃんに、『知らない』と答えると「そうか···」と残念そうにため息をついて部屋を出て行った。まぁ、おおよそ誰が持ってるかは想像つくけどね。
そーいえば、リクオの奴、また散歩に行ってるのかな。前までは良く一緒に行っていたが最近は一人で行くようになった。ふっ···幼馴染み離れってやつ?あ、自分で言ってて悲しくなってきた。
てか、私彼女じゃん。
「姫様〜!」
「神夜姫様〜!」
『ぐはっ!!』突然部屋に入ってきた納豆小僧や小妖怪たちにお腹に突撃されて女子らしからぬ声が出てしまった。こ、こいつら人を押し倒してそのまま上で遊ぶんじゃねえ。
ぴょんぴょんとお腹の上で跳ねながら「姫様〜」「神夜様、あそぼ〜」と無邪気にそう言う小妖怪達。私のお腹って跳ねられるほど柔らかい?え、それって太ってるってこと?え、痩せようかな。
「姫様〜あそぼ〜」
『あのね、寝ようかと思ってたんですけど···』
「姫様、しょっちゅう寝てるじゃん」
「所かまわず寝てるじゃん」
「まだ寝るの〜?」
くっ···!一日中起きてても問題ないお前らと一緒にするな!こっちは半妖なんだけど!?
「姫様あそぼ〜」
「寝なくても大丈夫だって!」
『お前らはな!!!』なんで夜中の寝る時間を削ってまでお前らと遊ばなくちゃいけないんだ。今もなお押し倒されたままの体勢の私は、ぐっとお腹に力を入れて起き上がると私のお腹の上にいた小妖怪達が「「「わあ〜」」」と畳の上に落ちていった。楽しそうにしてるんじゃありません。
「姫様、遊んでくれるの!?」
「じゃあ、鬼ごっこしよう!」
『いや、遊ばないからね?』
「えぇ〜かくれんぼだろ!」
『話聞こうね』
「わかった!将棋しよ!」
『また古い遊び持ちだすなオイ』
全然人の話を聞いていない小妖怪達は私の手を引っ張ると無理矢理部屋の外へと連れ出した。中庭にはまだたくさんの妖怪達がおり、私が部屋から出て来るのを見ると「珍しいですね」とか「姫様、寝なくていいんですか?」とか気遣うような声も聞こえてきたが「え!?姫様が起きてる!」「明日は槍が降るか!?」とか大変失礼なことを言っている声も聞こえる。
燃やすぞ、お前ら。
「じゃあ、姫様鬼ね!」
「ちゃんと追いかけてくださいよ!」
「じゃあ皆逃げろ〜」
「姫様、痩せるためには運動ですよ」
『ちょっとおおおお!!!』首無にそう言われたらやるしかないじゃないか!てか、何で痩せようとしてること知ってるんだろうか。さっき決意したんですけど。
いつの間にか鬼ごっこになってるし。今初めて知ったよ。お前ら将棋とかいろいろ言ってたくせに結局鬼ごっこかよ。
「「「わああ」」」声を上げて逃げまくる小妖怪達を見て私はため息をつくと、仕方ないと腹をくくって駆け出した。
「姫様、こっち〜」
「わああ、逃げろー!」
『まて、こら!!』
「わああ!姫様、狐火はずるいですよ!!」
ぎゃあぎゃあ叫びまくりながら鬼ごっこをする私達を本家にいる妖怪たちは微笑ましそうに見守っていた。
しばらくすると、休憩とばかりに私は鬼ごっこをするのをやめて縁側に座って未だに鬼ごっこを続けている小妖怪達を見守る。すると遠くからこちらに戻って来るリクオが見えて私は手を振った。
あいつ、また夜の散歩に行ってたのか。
「よお、神夜」
『どうしたの?戻って来るにはちょっと早いんじゃない?』
そう聞くと、ちょっと聞きたいことがあるというリクオを連れて私達は一旦自室へと下がった。リクオに酌をしながら先程起きた出来事を聞く。
『アハハ······それは“
置行堀”よ。奴良組の下っぱも下っぱ···』
「はぎとりのゆーれーみてぇな奴だろう?」
『そうはいってもあの妖怪、あの場所そのものが能力みたいなものだからね。何かわたさなきゃどーなることかわからないわ』
そう言って私は笑いながら先程毛倡妓に入れてもらったお茶を啜る。そして酒がなくなったリクオにお酒を注いであげてから質問した。
『───で、奴良組の若頭ともあろうものが何をとられたの』
「護身刀」
『ブフぅぅぅ!!』飲んでいたお茶を思わず吹き出してしまった。目の前にいるリクオに掛からないように横を向いたけど。
『フザケンナッ!!ゴホッゴホッ、あんたねぇぇぇ、ゴホッ』「おちつけよ、神夜」
むせながらそう言う私に冷静に突っ込みを入れるリクオ。
『祢々切丸がどれ程大事なものかわかってんのかこのアホリクオ〜〜!!』ー
スパァァーーーンッ!!!!「いって!」立ち上がってリクオの頭を思いきりハリセンで叩く。あ、どこからハリセンを出したかは企業秘密で。
リクオは私に叩かれた所を擦りながら「そりゃあまぁ」と呟いた。
その昔(といっても今年の夏休みだが)氷麗たちと一緒にスイカ割りを中庭でしていた時のことだ。氷麗が目隠しをして手に祢々切丸を持ちながら私達の指示の元スイカの元に行こうとしていた時。
"雪女ーこっちだー"
"あっちだーー"
"あ、そっちじゃ···"
"ここですね、スイカはーーーー!!"
そう言って祢々切丸を振り下ろした先にいたのはリクオで。
"うわぁぁ!それリクオだからぁぁ!!"
"えぇええええええ!そんなバカなーー!"
「ヒエエエエリクオ様がぁぁぁ」皆で大騒ぎしていると、氷麗に斬られた筈のリクオがあっけらかんとした様子で口を開いた。
"あれ?何ともないぞ?"
"え···?"
涙を溜めた氷麗。その周りで私達が不思議に思って首を傾げていると偶然通りかかったおじいちゃんが私達を見ながら言った。
"そりゃ人を斬らず、妖怪だけを斬る刀だからな"
"妖怪だけを···斬る刀···?"
"そう。それが祢々切丸。リクオは今、人間だから斬られなかったのじゃ。お前には丁度いい護身刀だろ?"さてさて、過去から今に戻るとします。
おじいちゃんがそう言っていた事を思い出してた私とリクオ。
リクオはお酒を飲みながら呟くように言った。
「たいした刀だぜ」
そんな彼に私はため息をついてリクオを指指す。
『昔はアレを奪い合って抗争が起きる程だったって聞いたわ。そんな質屋に入れるみたいなことする代物じゃないのよ!!さっさと取り返しに行くわよ!!』
「···わかったよ···」
不満そうにそう答えたリクオと共に私達はリクオの言う池へと向かった。