三
襖の外でキャーキャーと騒いでいる神夜達の声にリクオは鴆へと視線を向けた。
「鴆くん···大丈夫だよ。それより行かないと」
「······あいつらの···特に神夜の前じゃ···お前も
本音で話せないだろ」
その言葉にリクオが目を見開くと、鴆はゆっくりと振り返って鋭い目でリクオを見た。
「リクオ。お前···いつから寝てない?」
何処でも寝ている神夜とは違ってリクオは最近ほとんど寝ていないだろう。神夜も以前よりは眠れていないだろうが、この前の総会で「木の上で寝ていた」と言っていたので睡眠はバッチリ取れている。なのであまり問題はないだろうが、リクオは違う。何時でも何処でも寝れる神夜の体質とは違うのだ。
「昼は学校、夜は市中のパトロール。そんなんじゃ倒れるに決まってらぁ。神夜はどっかで寝てんだろうから問題ないが······なに···無理してんだお前···」
「······鴆くん···無理なんかじゃないよ。これくらいこなせないようじゃ···ダメだと思うよ」
バサッと布団に倒れこんだリクオは目元に自分の腕を乗せた。頭に浮かぶのは神夜の姿。
最近の彼女はふとした瞬間に疲れたような顔をして溜息を吐くことが多くなった。仕切るのが初めてのリクオに変わって、組のみんなの信頼が厚い神夜は妖怪達を纏めようと頑張っている。だが、それが疲労となって顔に出てきているのだ。
「ボクは
総大将の孫なんだから、若頭のボクが百鬼夜行をまとめるんだ。牛鬼とも約束したんだ!!目をつぶらずやるって···ボクがやらなきゃいけないんだ···」
「リクオ···それは···お前の本音じゃねぇ」
「本音だ!!本気で思ってる!!でも今はまだ···ボクは神夜みたいに
下僕に信用されてないから!!だから···頑張るんだよ!!───神夜に心配かけないように!!ボクが頑張るんだ!!」
叫ぶようなリクオのその声に鴆はバッと彼の布団を剥いだ。怖い顔の鴆に自分の布団を取られたリクオは思わず「うわあ」と声を上げる。そんな彼に鴆は怒鳴る様に言う。
「アホかっ!!百鬼夜行はなー元々じーさんのモンだった奴らだろうが!オメーに仁義感じねぇ奴はついてこねぇ···そんな奴ぁーほっときゃーいいんだよ!!」
「鴆くん···?」
「オレはついてゆく。オレは···お前と盃を交わしたんだからな」
リクオの側に腰を下ろした鴆は目の前のリクオを指差しながら口を開いた。
「リクオ。お前は···お前の百鬼夜行を作れ───!!」