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牛頭馬頭の帰還



「姫様!神夜姫様!!」



襖の向こうでささ美の騒いでいる声で意識が浮上した。ふわぁと欠伸を溢しながら体を起こすと私の上にあった羽織がずるっと落ちる。


そうか。自室に戻った後、横になったらそのまま眠っちゃったのか。


まだ眠りそうな意識を戻すように頭を振って「姫様!」と襖の向こうで騒ぐささ美の元へ行くべく、立ち上がる。スッと襖を開けると跪いた状態のささ美が私を見上げていた。



『ごめん、寝てた。どうしたの?』
「牛頭丸と馬頭丸を連れて帰ってきたんですが···」



その後のささ美の言葉は庭で騒いでいる妖怪達の声のおかげで何となく解った。二人は怪我をして帰ってきたのだ。しかも軽傷ではなく重傷で。



『二人は?』
「牛頭丸より馬頭丸の方がひどい状態です」
『わかった。庭で騒いでいる妖怪達に私が向かうと告げて』



こくりと一つ頷いたささ美は黒い羽をバサッと揺らして庭へと飛んで行った。それを見送ってはぁ···と溜息を吐くと部屋の中に戻り、金狐の姿に変化してから床に落ちていた羽織を肩に引っ掛けて庭へと足を進める。


人間の姿より妖怪の姿の方があいつらも何かと安心はするだろう。


庭へとだんだん近づいていくと騒いでいる猩影の声が聞こえた。



「ざけんじゃねえ、四国の奴ら!!奴良組のシマで好き勝手しやがって!!それなら!!こっちから乗り込んでやろーじゃねぇか!!みんなぁ!!」



そう呼びかけるがその場にいる妖怪達は誰一人動こうとしない。内心溜息を吐きながら視線をずらすとリクオが唖然としながら突っ立っていた。多分、自分を責めているのだろう。



『何をしてるの』



私のその声に妖怪達が一斉に振り返った。「姫様···!」「姫様だ···!!」「変化してるぞ!」とやかましい声を無視して牛鬼に抱えられている牛頭丸に視線を向ける。すると牛頭丸は私を見てフッと笑った。それを見て私は牛頭丸と馬頭丸を鴆に任せると視線を前へと戻した。


その時、チラリと上を見上げると一ツ目たちが上の部屋から此方を見下ろしていた。キッと睨みつけると一ツ目たちが慌てて此方に降りてこようとしているのが見える。


高見の見物してんじゃねっつーの。



「神夜······」



私の名前を呼びながらふらりとこっちに歩いてくるリクオ。そんな彼の足取りは大変危なかしくて見てられなくなった私がリクオに腕を伸ばすと彼はそのまま前に倒れ込んだ。



「うっ···」



口許に手を当てて吐いたリクオに私は慌てて走り寄って抱きしめた。


私の後に周りの妖怪達が急いで駆け寄ってくる。



「リ···リクオ様ーー!!」
「なんだー!?何が起こった!」
「急に···リクオ様が···」



私はリクオを抱き起して彼の名前を呼ぶが、返事がない。気を失っているのだろう。周りでガヤガヤと騒ぐ妖怪達に向かって指示を飛ばす。



『つらら!鴆を呼んできて!!』
「ハ、ハイ!」
『青田坊、リクオを部屋に運んで!他の者たちは急いでリクオの寝床の準備をして!!』



私のその声に一斉に散らばる妖怪達。それを見て私は腕の中にいるリクオを見下ろした。ぐったりと私に体を預けているリクオを見て自分の唇を噛み締める。


なんで気づいてあげられなかったんだろう···っ。



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