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夜───奴良組本家。

広間で緊急総会が行われている今、出席しなければいけないはずの奴良組の姫こと月影神夜はと言うと···。



『ぐー···』



庭の木の上で寝ていた。



「うるせぇぇ!!」



広間からの突然のその大きな声にぱちっと目を開けた私は『ん〜』と寄りかかっていた幹から体を起こし月を見上げる。広間では緊急会議が行われているってさっき氷麗と首無が話してたな···。そんなことをぼんやり思いながら欠伸を噛み殺す。


目を閉じてここ最近の出来事を思い返す。


奴良組のシマを踏み荒らす四国妖怪。そして玉章の私を奪うという宣告。奴良組を潰しにかかっている四国八十八鬼夜行。いろいろなことが一気に起きてフラストレーションがたまりそうだ。ここ最近は夜のパトロールやら何やらでゆっくり寝られた試しもない。


しかも常に隣にはリクオや氷麗がいる状態。自由に身動きもできない。



『本当に···いろいろありすぎて爆発しそうだ』



ギャーギャーと広間から騒いでいる声が聞こえる。どうせ一ツ目辺りが騒いでいるんだろうと健闘がつく。まーたリクオを罵っているのだろうか。そんな彼を咎めもしないリクオもリクオだが。


いろいろ溜まりにたまっている今の私にこの騒ぎは勘につく。でも今ここで彼らにぶつけては意味がない。おじいちゃんがいない今、リクオを支え、組の皆を落ち着かせるには私が必要だ。


目を開けた私は月を見上げながら口を開いた。



『ーーー誰かの声に名前を呼ばれて目を覚ます
青い波に浮かぶ 海の揺りかごで
夢を見てたの

この海のどこかで 今 争う声がする
哭いてる心から 愛は生まれない
悲しみだけが あふれてしまう

美しい海の 願いの欠片から
生まれてゆきたい 光を抱いて
夕焼けに染まる オレンジの海には
世界の涙が眠ってる


生まれてく その世界が私を呼んでいた···?
深い海の底で 声は 聴こえてた
どんなに暗く つらい場所でも

美しい海の 願いの欠片から
生まれてゆきたい 闇をひらいて
朝焼けに染まる むらさきの海にも
わたしの願いは とけている


いつか 悲しい 争いの種
すべてが消える そんな日が来て
一つの愛を歌いたい···青い海の中で···


誰かが優しく 名前を呼んでいた
わたしの願いを 知っていたように


美しい海の 願いの欠片から
生まれてゆきたい 光を抱いて
夕焼けに染まる オレンジの海には
世界の涙が眠ってる
ーーー』



私の歌が奴良組本家中に響いてシーン···と静かになる。私が歌うといつもこれだ。まあ、最近は忙しすぎて歌っていなかったので仕方ないのだが。さて、静かになったところで広間に行くかな。


軽い身のこなしで木から降りるとショートの髪がサラ〜と風に靡いた。そして広間の襖をガラリと開ける。



「姫様···!」



私に目を向ける面々を軽く見渡していると見知らぬ人がいるのに気付いた。それに首を傾げているとリクオに「神夜」と名前を呼ばれる。来いってか。


リクオの近くまで少し着崩している着物を引き摺りながら向かうと差し出される手に導かれるようにリクオの隣に腰を下ろした。



「さっきの歌、神夜···?」
『聴こえてた?』
「うん。おかげでみんな静かになったよ」



静かにするために歌いましたから。あんだけギャーギャー騒いでたら総会にもならないだろう。


するとリクオは「あ···」と声を洩らして「紹介するね」と口を開いた。視線の先には私が見知らぬ顔と思って首を傾げていた人。



「殺された狒々の息子、猩影くんだよ」



へ〜狒々の息子ねぇ。てことは二代目か。


私が彼に視線を向けると猩影はスクッと立ち上がり私の側へと片膝をついた。ちょっと待って···でかくね···?



「お初に御目にかかります、姫様」
『え?あ、うん』
「親父から姫様の話はよく聞いています」



おい、どんな話をした!?あの大猿はどんな話をした!?



『······これからは奴良組に力を貸してくれるかしら?───貴方の父親···狒々の分まで』



私のその言葉に猩影はこくりと頷くと元の場所へと戻っていった。でかっ···。


猩影が席に着くと私は『さて』と呟いて今まで黙って成り行きを見ていた幹部たちに視線を向ける。その視線にびくりと肩を震わした幹部たちを見て私はスッ···と目を細めた。



『ずいぶんと騒いでいたようだけど······若頭であるリクオに何て口を聞いていたのかしら?』



そう問いかけると鴆と猩影以外の幹部が私から視線を逸らした。おじいちゃんがいないとすぐこれなんだから···。リクオは仕切るの初めてなんだから無理難題押し付けてんじゃないわよ。



『木の上で寝ていた私の所にまで声が聞こえてくる程大声で「奴良組もナメられたもんですなぁ〜」とか「愚かな···」とか言ってたわよね?』



相手が田舎出で少数だと知ったとたん強気になるんだから。


鴆が小さく「木の上···」と呟いていたがこの際無視!今はそんなの関係ない!


私は溜息を吐いてリクオの隣で立ち上がると鋭く幹部たちを睨みつけた。



『これからのリクオに対する侮辱や罵りは全て私に対する者とする。“若頭”であるリクオにたいそうな口を聞けるんだから私にも言えるはずよね?』



その言葉に皆一同に口を噤んだ。



『いい?これは忠告よ。今度リクオに対してそんな口を聞いたら···私に対する侮辱だと思い───あんたたちを根絶やしにするわよ』



ニヤリと微笑みながら告げれば幹部たちは顔を青く染め上げた。



(((この人本気だーー!!)))



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