二
パキパキパキと氷が割れていく。私の元へリクオが着地すると同時に犬神はズゥゥゥゥウンと倒れた。それと同時に溶けた氷によってできた冷たい風が舞っている桜と共にビュウウと生徒達の元に飛んで行く。「うわ!!」「さぶっ!!」
「神夜、無事か?」
リクオに声を掛けられて私はこくんと頷いた。すると氷麗たちが「若!!姫!!」と駆け寄ってくる。が、私は『待て』と駆け寄ってくる氷麗達に手を出して止めた。「ええ!?」と驚く氷麗達を後ろに庇い私とリクオが睨みつける先には、体から血を流しボロボロの犬神の姿。
「!?うわっ」
「ち···血だらけの生徒が······」
キャアアアと皆が叫ぶ。
「こいつは···あの時の舌野郎···?」
首無がそう呟くと犬神は舌を出しながらよろよろと立ち上がる。
「へ·········やったな···?やりやがったな···············?ぬらりひょんの孫がよ·········」
静かに犬神を見つめる私達。
「オレをズタボロにしやがった···あんときと···同じように···」
ーーくそっ変化が解けたか···?
「くくく······アホめらが···テメーはもうしまいじゃーー!!てめーはオレはどういう妖怪か知らずに攻撃しやがった!!」
犬神のその言葉に「なんだと···?」と驚く首無たち。私は静かな目でただ目の前の犬神を見つめた。
「オレは···オレはよぉーー」
ーーおい。
「“恨めば恨む程··4強くなる妖怪”なんぜよ······」
ーーいけよ···おかしいな。
荒い息を繰り返す犬神。何故だろうか···その姿は何処かおかしく映る。
ーー変だな···。
「オレをここまでやったんだ!!」
ーーいつもならもう───
「てめーは!!」
血を吐き出し苦しそうに咳き込んだ犬神は「もう終わりぜよーー!!」と苦し紛れに声を張り上げる。その様子を見ていると首無が「こ······こいつ···」と呟いた。
「オラッ······飛べよっ···首がっ···!!なんで······おい、なんで変化しねぇーーーーー!!」
するとその瞬間、吠える犬神の頭に夜雀が乗った。夜雀の登場に「!?」と目を張る私達の前で困惑の声を上げる犬神を夜雀は一瞥し、パリィィィンと照明を薙刀で破壊した。真っ暗になった体育館に皆が騒ぎ始める。
「なんだ···何しやがった夜雀ぇ。なんでてめーがここに···」
困惑の声を上げる犬神だが急に静かになった。
どうなってんの。
「神夜、いるか」
『リクオ?』
暗闇の中、リクオの声が聞こえるとぐいっと腰を引き寄せられた。突然の事に『ひゃあ』と声を上げると「オレだ」と耳元で声が聞こえた。
『何で急に照明を······』
「わからねぇ。離れんじゃねぇぞ、神夜」
『ええ』リクオの声に頷いた瞬間、何かが私の頬をカサッとかすめた。これは···葉っぱ···?
玉章が犬神を消す───数秒前、時間通りにプロジェクターは作動し、
『あんた···』
三人の影を
「今───その犬を···」
舞台に───色濃く映し出していた。
「おや、奴良リクオくんに月影神夜さん···久しぶりだね」
振り向いた玉章。そこにいたはずの犬神の姿はない。私達の間を枯れ葉が通り過ぎていく。
「まさか君がそんな立派な·········姿になるとはね。君をどうやらみくびっていたようだ」
静かに睨み合うリクオと玉章。玉章が私にチラリと視線を向けると、それに素早く反応したリクオが私の腰に回していた腕に力を込め、更に密着する私達。玉章の手の中にある枯れ葉がブワッと舞い上がった。
「ふふ···君はおもしろい。闇に純粋に通ずる魔道───今の君になら、ボクが名乗るにふさわしい」
サワ···と幾つもの枯れ葉が舞い上がる。
「だけど───こんなじゃ説得力がないね」
その瞬間、玉章の周りに枯れ葉が舞い踊る。
「ボクは───四国八十八鬼夜行を束ねる者。そして八百八狸の長を父にーー持つ者」
妖怪・隠神刑部狸。名を───玉章。
枯れ葉が晴れるとそこにいたのは歌舞伎風の仮面をつけている妖怪。
「君の“畏”をうばい、ボクの───八十八鬼夜行の後ろに並ばせてやろう」
「···それは、こっちのセリフだぜ···豆狸」
一触即発の雰囲気の中、玉章は私を見た。
「“かぐや姫”は必ず奪ってみせるよ。そしてボクのモノにする」
「そいつは無理だな。───
かぐや姫はオレだけの女だ」
恥ずかし気もなくよく言えるなお前ら。一応皆の前なの忘れないで。
「それでは、また会おう」
飛んできた枯れ葉をリクオが受け止めて「······芝居がかった狸だ···」と呟いた。それに頷いて私達は踵を返す。
「四国···八十八鬼夜行···?」
「姫?若?」
『早く消えるわよ』
「終幕だ」
「え」困惑の声を上げる氷麗。するとすぐにスクリーンが破け「妖・怪・退・散ー!!」と清継くんが出てきて思わず笑みが零れた。