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妖怪・犬神 そのB



「そのままおさえてろ、青田坊!!」
「おお!!」



青田坊が一人の男を取り抑えながら返事をすると周りの生徒たちが「キャア」「えっ!?」「何っ···」と混乱し始めた。男は「く···」と青田坊の腕から抜け出そうとするが「ムダだ!てめぇはもう何もできねぇ」と青田坊が力を込めたため抜け出せないでいる。


そして青田坊は彼の顔を見て声を上げた。



「あん時の舌野郎じゃねーかぁ、てめぇーー!」



やっぱり犬神か···!!


その姿に小さく舌打ちをするとそいつの首がググググと伸びてゆき、ビシビシッと制服が破れていく。その瞬間、犬神の頭部だけが上に飛び上がった。


本性現しやがったか。


犬神はそのまま生徒達の頭上を飛ぶとステージにいる“リクオ”の元へと一直線に向かっていく。青田坊が「ハッ」として振り返るが押さえていた男の頭部はなくバッと前を見るとそこには“リクオ”に向かって飛んで行く犬神の姿。



「く···首が···!?」



頭部だけの犬神は“リクオ”へと飛んで行く。



ーーニクタラシイ。ニクタラシイ。殺シタイ。殺シタイ。



「喰い殺してぇぇぇやるぜよ奴良リクオォオォオ」



そのまま“リクオ”の首に噛みついた。



「え!?」
「若!!」
「リクオ様!!」



“リクオ”の首に噛みついたのを見ていた毛倡妓や河童、黒田坊が動いた。するとステージ上の様子に生徒たちが「え…」「な···」「何だ!?」「何か飛んだぞ!?」と混乱し始める。犬神に噛みつかれたまま「ガハッ」「ハッ」と唸る“リクオ”に氷麗が「リクオ様!!」と悲鳴にも似た声を上げた。


その様子を見ていた私は柵に腕を置き頬杖をついてニヤリと微笑んだ。隣にいる“首無”は若が一大事なのにも関わらず毛倡妓たちのように動こうとはしない。ま、当たり前か。


チラリと此方を見て微笑んだ“首無”に笑い返して私は視線を戻した。


さて、ここで犬神の生い立ちを話そうか。


犬神とは───呪いの術。餓えた犬を頭だけ出して土中に埋める。餓死寸前まで追い込み···そして食物を目の前の届かぬところへ置くのだ。これを食べようと犬が首をのばしたとき、刀で首を斬り落とし───祀る。


放たれた恨みとも欲望とも知れぬ「黒い想い」は人を呪い殺す力となる───これが···“犬神”だ。


実際に───大昔は呪い殺す為に行われていたらしい。平安時代に政権争いの中、謎の死をとげる有力者は多かったそうだ。


あの“犬神”と関係ないって?それは違う。その“術者”が“彼奴”の先祖なのだから。


術は───失敗すれば何倍にもなって術者にかえってくる───失敗した術者は呪いをうけ、犬神使いが犬神憑きになった。


彼奴は───人を恨めば恨むほど力を発揮するのだ。



「キャアア」
「何だ···!?犬ぅ?」
「奴良のやつ叫んでるぞ」
「よく見えないよ!?」
「どーなってんのーー!!」



ザワついた会場を私は楽しそうに見下ろして犬神と“リクオ”に視線を向けた。犬神は「うう···」と唸る“リクオ”に「奴良リクオ〜〜てめぇの首は···オレがとってやるよ〜〜」言うと「や、やめろ·········」と声を上げる“リクオ”に強く噛みついた。



「うわああああああ!」
「玉章はなぁ〜···妖怪なのに人間界でも突出した存在···!!」



噛みついたまま話しをする犬神。



「オレみたいな奴とは違う別格な妖怪なんだよ〜。だが、てめーはオレと同じでコソコソ人間から逃げてるくせによーー!!なんで好かれてんだよー!!それに“かぐや姫”にまで構ってもらってよ···!!わっけわかんねぇぇ」



なんて自己中心的な考え···!!


ガブガブと噛みつく犬神に「わああううううううう」と悲鳴を上げる“リクオ”。それを見て「若!!」と様子を見ていた黒田坊たちが動いた。そしてカナの「リクオくん!!」という声と同時に犬神は“リクオ”の首を噛み千切った。胴体と首が離れた“リクオ”に唖然とする皆の前で胴体だけの“リクオ”がステージにドシャアアと倒れ込んだ。



「······ぬ···奴良くん···?」



役員の子が“リクオ”に近づいて声をかけるが首がない“リクオ”に「いやああああああ、首が···首がないいいい〜!?」と悲鳴を上げた。


その悲鳴に私は頬杖をつきながらニヤリと口角を吊り上げた。隣にいる“首無”をチラリと見ると準備万端らしく私を見て微笑んでいた。さて、そろそろかな。



「え···な、何て?」
「首!?」
「はぁ?」
「奴良の!?」
「さっき···何か飛んでったぞ!?」
「まさか!?」
「う···うそだろぉ!?」



ギャアアーと悲鳴を上げる生徒達に犬神は胴体だけの“リクオ”を見ながら(おかしい···首を···噛み切った筈なのに手ごたえが···まるでなかったっ···?)と考えていた。



「やはり若を狙っていたな」



突然のその声に犬神がバッと振り返ると、



「な···なんじゃこりゃあ!?」



頭部だけの犬神に糸が絡み付いた。


犬神が自分に絡みつく糸を視線で辿っていくとその先には糸を操っている首無の姿。



「首だけで戦うのは、君だけじゃあ······ないんだよ」



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