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妖怪・犬神 そのA



全校生徒が集う体育館の中、私達は息を潜めて妖怪の気配を感じ取ろうとしていると、スッ···と気配がなくなった。いや、消えた。



『!···消えた?』
「姫様···若···潜んでいます···500人の生徒の中············妖怪がまぎれこんで···」



私とリクオを狙っている───。


ワイワイと騒ぐ生徒の皆の横を通り私達は舞台袖へと移動した。しばらくそこで待っているとすぐに青田坊や首無、毛倡妓、黒田坊、河童がやって来た。



「若、姫。逃げて下さい!」
「ここは我らにまかせて!!」



入ってきて一言目がそれかい。



「それは出来ないよ。狙っているのはボク達じゃなくて…人間の方かもしれない!」
『そうよ。この前だってそうだったじゃない』
「今回は違います!!奴らの目的はリクオ様の命と神夜様なんです!!」



首無のその言葉に私は眉を顰めた。確かにあの玉章とかいう奴···私のことを奪うとかなんとか言ってたけど···。



「でも奴らは生徒全員だって殺せる!」



叫ぶようなリクオの声に私達は彼へと視線を向けた。



「こんなとこに白昼堂々出て来るような妖怪がそれをしないとは限らないじゃないか!!」



リクオ···やっぱり·········。



「リクオ様、ご理解下さい!!あなたは今、ただの人間なんです」



鋭い首無の一言にリクオは目を見開いた。私はいつでも変化できるけど······リクオはそうじゃない。



「闇の中では───秘めた力を発揮できても、今は無力。だからこそ、我らが護衛についているのです」



ちょっと言いすぎじゃあ。そう思った私は首無を咎めるが彼は言葉をつづけた。



「我々は奴良組の妖怪。決して逃げ腰になっているわけではないことをご理解いただけたい!!」



シンッと静かになる中、私達は黙ってリクオを見つめる。



「·········自覚はあるよ。だからお前たちに守ってもらうしかない」



顔を上げたリクオは真っ直ぐな瞳で首無を見つめると、首無が変装用にかけていたサングラスを取った。



「首無。ぼくの言うとおりにボク達を守れ!!」



ん?ボク達···?達って言った?それ私も入ってんの?



「若······?」



不思議そうに首を傾げる私達にリクオは「ホラみんなもボーッとしないで!!」と声を上げて「神夜もだよ!!」と強引に私の手を引いた。



〈スクリーンにご注目下さい···〉



司会者のその言葉と共に体育館が真っ暗になり上からスクリーンが現れ清継くんの姿が映された。



〈マドモアゼルジュテーーム〉
「キターー!!」
「き、き、清継くんだーーーー!!」
〈そーです、清継です〉
「映像なのに返事したぞ!!」



バスローブにワイングラスって何処のお金持ちだよ。


皆がざわつく体育館の中、私達はリクオの作戦を聞いて二階のバルコニーへと上がりそれぞれの配置に着いた。私は“首無”と共に行動を共にしてステージに近い方のバルコニーで足を止める。先の方には氷麗の姿。


人間には見えないだろうが···妖怪には逆にやりやすい。“やつ”が妖気を発せば···一発でわかる!!出たらその闇を利用し、全員で取り押さえる。


生徒達がいる下の階には青田坊と黒田坊がいる。リクオの作戦が上手くいくか彼方から姿を見せるか。


息を潜んで気配を探っていると映像に映っている清継くんがしゃべり出した。



〈どうも全校生徒の諸君!演説は時間内であればどう使ってもかまわないと言われたのでね。やる気すぎてこういう演出を思いついてしまったわけさ〉



どんな濃い演出だよ。張り切ってんな〜。


そんな清継くんを横目に私は“首無”と共に全神経を集中させて気配を探る。そして清継くんが応援演説をこの人に頼むとか言った瞬間、舞台袖から出てきたのはマフラーを着けた“リクオ”。彼は「えーーあ···」とか言いながらマイクスタンドを引き寄せようとするがマイクスタンドからマイクが落ちてしまい「あわ」と情けない声を出した。


いやおい······情けなさすぎじゃないか。本当に大丈夫なのあれで。


そして“リクオ”が〈奴良リクオです〉と一言そう言うと体育館中がドワアアアアッと歓声に包まれた。えー何でこんな盛り上がってんの。



「オレあいつ知ってるーー!!」
「この前グランド草むしりしてくれた奴だろー!?」
「いつもゴミ捨てしてくれる奴だ」
「月影さんと付き合ってる子でしょー!?」



すっごい盛り上がりだな、おい。てか何でリクオと付き合ってることバレてんの。



『大人気ですねー我らが若様は』



柵にもたれかかりながらそう溢すと隣の“首無”はフッと笑みを浮かべた。


その瞬間、ゾクッと背中に何かが走った。見つけた!!



「『あそこだ!!』」



“首無”と私が声を揃えてそう言うと青田坊が一目散に駆け付けて一人の男子生徒を取り押さえた。



「てめぇ!!」



「そのままつかまえてろー!」“首無”の言葉と共に私と“首無”は柵に足をかける······が、その瞬間青田坊の腕をすり抜けたそいつの姿は犬神だった。



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