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背後でパタンと閉じられた障子に私は目の前のリクオを見つめた。
『リクオ···?』
「ねえ、神夜。ボク、ちゃんとしきれるかな······」
おいおい、さっきの堂々とした雰囲気は何処いった···?
思わず目を細める私にリクオは不安そうな顔で私を見つめる。あんなに堂々としてたけど内心不安なのかな。初めてだもんね。おじいちゃんがいないのもリクオがしきるのも。
不安げに揺れるリクオの瞳を見つめて私はふわりと微笑むとぎゅっとリクオを抱きしめた。
『大丈夫よ。不安な事なんて何もないわ。さっきのリクオは堂々としてたじゃない。リクオはリクオのまま、思うように組を動かせばいい。一人が不安だと言うのなら
奴良組の姫が力を貸すわ。それにあの男の言う事も気にすることなんかない。───全部、守ってくれるんでしょ?』
"オレが全部守ってやるよ。お前の想いもその涙も。───全部オレが守ってやるよ"今でも鮮明に覚えてる、あの時のリクオの言葉。
「···神夜」
リクオを抱きしめる腕を強めるとリクオの腕も背中に回された。
ここまで言わないときっとリクオは無理をしてしまうから。私を守るためなら何だってしてしまうから。だから···私がしっかりリクオを支えるの。
そう思って目を瞑ると抱きしめているリクオの雰囲気が変わった気がして私は目を開けた。あれ?リクオと大差ない身長のはずなんだけど···な〜んで今は抱きしめられてるのかな?
バッと顔を上げようとすると、
「言われなくても守るぜ?あんたのことはな」
その言葉と共に畳の上に押し倒された。
うっそお!?なんで!?もう夜だから!?夜だから妖怪に変化したのお!?目の前にあるリクオの顔に逃げようと体を捩るが手首は床に固定され足の間にはリクオの体が入ってきたため身を捩ることは失敗に終わった。
『っ···リクオ!あんた、妖怪達を仕切るんでしょ!こんなことしてていいわけ!?』
「大丈夫だよ···今頃達磨とかが何とかしてんだろ」
根拠ないじゃん!
そう言おうと口を開くとリクオの顔が近づいてきて私のそれとリクオのが重なった。優しい口付け。まるで壊れ物を扱うかのようなそれに私は思わずうっとりと目を閉じた。
離れていく気配に目を開けるとリクオは真っ直ぐに私を見つめていた。
「オレが不安なのはそんなのじゃねえよ。あの男の事はどうでもいい。最後はオレが後始末つけるんだからな。でもな···あんたが絡んでくるとなると、話は別だ。どうしようもなく不安になる」
その言葉に思わず目を見開いた。リクオの紅の瞳に映る私の茶色の瞳は揺れている。
「守れないと言ってるわけじゃねぇ···絶対守って見せる。だがな···あんたがもし攫われたとしたら?オレが見てないところでいなくなったりでもしたら?···そう考えると、どうしようもなく不安になっちまう」
『リクオ···』
「オレはただ···失うのが嫌なだけだ···。───何処にも行くな···神夜」
掠れたようなとても小さな声で言われた言葉。私を抱きしめるその腕は密かに震えていて。私は目を見開いたまま固まった。
『バカね。私は何処にも行かないわ。貴方の傍にいることを誓ったの···忘れたの?』
ガゴゼの襲撃の時。私は確かにリクオの目を見ながらそう告げた。リクオはその言葉にふっと笑みを洩らすと体を起こした。
「いや···忘れてねえ。······あんたの口からその言葉が聞けて少し落ち着いた···」
その言葉通り柔らかい表情のリクオに私はニコリと笑みを浮かべた。