七人同行
「あー疲れた!!ずいぶん長く語ってたね〜清継くん」
「だねー。日が長い季節でよかったね〜」
カナ、私、リクオ、氷麗、青田坊での帰り道。
まあ、後ろには首無と毛倡妓と河童もいるんだけど。
『にしても清継くんの妖怪知識にはまいるね』
「だね。本当勉強になるよ」
リクオの隣にいる私を振り返ってそう言ったカナに私は違和感を覚えた。あれ···?カナってこんなに妖怪のことに興味津々だったっけ···?
「うん。知れば知るほど怖くなってくる。でもそれが妖怪なんだもの!」
拳を握りしめて「それが当たり前。逆にそれが魅力···」なんてブツブツ呟くカナを見て私とリクオは思わず顔を引き攣らせた。
((まずいなぁ···カナ/ちゃん))
すると私の横からビュオオオオと冷たい風が吹いた。その瞬間ぎくりっと揺れた体。後ろからのこの冷気は間違いなく氷麗改め雪女のものだ。
「神夜様、リクオ様······本当に···何があの晩、ございましたのでございましょうか?」
『な···何にもないよ、つらら』
少し後ずさりした私の言葉にリクオが「そうそう」と頷いて「言葉が変だぞ」と付け加える。がそれすらも無視して氷麗は「いいえ!!」と言ってササッと私に顔を近づけた。
その近さに思わず一歩下がると氷麗はチラリと後ろのカナを見る。
「乙女にはわかるのです!!あの女···家長カナ!先日から夜の神夜様のことばかり···アレは完っ全に···夜の神夜様に」
そう言うと氷麗は何処からかホ、レ、と一文字ずつ書いてある旗を取り出して、
「“ホ”の字に」
まずホの旗を掲げて、
「“レ”の字に」
続いてレの旗を掲げて、
「“タ”の字でございます!」
タの文字が書いてある扇を広げた。私はそれに『ええーー!!』と驚いて飛び上がった。隣にいたリクオは何となくわかっていたのか「やっぱり···」と呟いている。
『なんでそうなるのぉーー!?だいたい女相手に···』
「性別なんて関係ありません!!そうに決まっております!!さぁ〜何したか白状して下さい!!私ごはん作って待ってたんですよ!?」
詰め寄って来る氷麗に下がる私。その様子をカナがじぃ〜と怪しい目つきで見てきた。それに気づいた私は『あ···いやこれは······』と言葉を濁す。
なんだろう···なんか浮気を疑われてる彼氏の気分だ。
そんな私を怪訝そうな目つきで見る氷麗とカナ。それを受けてリクオに助けを求めようとすると彼は青田坊と一緒に一歩下がったところで見ていた。
「及川さん···家こっちなんだ」
「何にも知らないのね家長さん」
ワイワイと私の前で騒ぐ二人に私は大きな溜息を吐いて、ベリッと二人を引き剥がした。
『もう、何してんの二人とも!』
「リクオ君と神夜さんだよね?」
それと同時に目の前から聞こえてきた声。目の前に現れたのは二人の男の人。
『······!?え、誰?』
氷麗とカナを連れてリクオと青田坊の元まで一旦下がる。するとカナと氷麗を庇う私の前にリクオがすっと出てきた。
何?何なの···。
「神夜···知り合い?」
『い···いや···』
こんな人知ってても知らない。てか、何で私に聞くの。リクオにも声かけてたじゃないか。
「おいこら、なんだお前ら」
「ちょ···ちょっと青···倉田くんやめて」
ガンつける青田坊を慌てて抑えるリクオ。
高校生···?中学生じゃ···ないか。どっかで会った人だっけ···?
私が考えあぐねているとリクオが「あ···あの···」と口を開いた。が、それにかぶせる様に黒髪の男の人が口を開いた。
「いや───聞く必要はなかったか───」
リクオに抑えられている青田坊とそんな彼を抑えているリクオと私と私の隣にいる氷麗の頭に疑問符が浮かぶ。
「こんなに似ているのだから。"ボク"と"君"は」
靴を鳴らしながら私達に近づいてくると、リクオの肩に手を触れ顔を近づけた。内緒話をするかのようなその体制に私は思わずカナを後ろに下げた。
「若く才能にあふれ血を───継いでいる。だけど···君は最初から全てをつかんでいる」
そう言ってチラリと私を見る。
「ボクは──今から全てをつかむ。ボクもこの町でシノギをするから」
そう動いた唇に思わず私はリクオの服を掴んだ。さっきからこの人の雰囲気が······何か怖い。
「まぁ見てて···ボクの方がたくさん“畏れ”を集めるから。───そして君の手の中にいる“かぐや姫”を奪ってあげるから」
チラリと私に送られた視線の意味を知ったリクオはぐっと唇を噛むと私を背中に隠した。掴んでいる手に力を込めると私はリクオの肩越しに去っていく男の後ろ姿を見つめた。
すると後ろからどろどろとした雰囲気と犬が息を吐くような「ハッハッ」と短い息遣いが聞こえたてバッと後ろを振り返るとさっきの男の傍にいたやつが舌を出しながら私とリクオを見ていた。
「両手に花か〜〜!?やっぱり大物は違うぜよ〜〜」
そう言って男は傍にいたカナの頬をその長い舌でペロッと舐めあげた。
「ひい!?な···何〜〜!?」
『カナ!?』
舐められた頬を押さえ悲鳴を上げたカナを振り返ると「いや〜〜神夜!!」と声を上げて私の足の後ろにしゃがみ込んだ。
私はリクオの後ろからその男を睨みつけると「あいさつじゃ」と言ってさっきの男と二人、この場を去っていく。だが、その二人の後ろに見えた影に私達は息を飲んだ。
「ひ···姫···若······」
氷麗のその声に私はぎゅっとリクオの服を強く掴んだ。私を庇ってくれているリクオと私の間から顔を覗かせたカナが恐怖が滲んだ顔で声を上げた。
「なんで···何よ···アレ···今まで···あんなのいなかったのに······」
私達の視線の先に見えるのは帯びたただしい数の-奴良組には負けるが-妖怪達。堂々と先頭を歩くその男の周りにはいつの間にかたくさんの妖怪がいた。
「着いたね···七人同行。いや······八十八鬼夜行の幹部たち」
夜雀に
岸崖小僧、
犬鳳凰に
手洗い鬼、
針女に
袖モギ様。
そして傍らにいるのが
犬神。そんな妖怪達の先頭にいる、あの男が組長、
隠神刑部ー玉章だ。
「やれるよ···ボクらはこの地を奪う。昇ってゆくのは······ボクらだよ」
しまった。あいつらが······四国の夜行妖怪だ。