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最初はなんて軽い人なんだろうと思った。

女タラシというか···女の子の扱いにたまけていると言えばいいのだろうか。
すぐ可愛いって言ってくるし、私は仮にも捕虜という立場なのにそんなの無視して城から一緒に抜け出したり。

花と一緒にあの本に吸い込まれて訪れたこの世界。一応中国の歴史───三国志は興味があって一時期調べていたり読み漁っていたという程度だったが、まさか自分がその時代に来るとは微塵も思っておらず。

玄徳さんに拾われた後、孔明師匠の元で花とともに一応弟子としてやっていたわけだが·········花を庇って川に落ちた結果───我が玄徳軍の敵、孟徳に拾われることになるとは思っておらず。

そしてそこでいつの間にか捕虜から軍師としての働きをする羽目になってしまい、玄徳軍に戻る隙を逃し、そのまま私は孟徳さんの元で軍師としての役目を果たすことになった。

私は花とは違い、現代で武芸には携わっていたので少々腕はある。芙蓉姫に稽古つけてもらったとき素質はあるって言われたし。

だからなんとかやってこれた。


『まさか···最初は苦手だった人と結婚するなんて······』


人生何があるかわからないとはよくいうがまさにその通りだ。

孟徳軍でお世話になり始めて孟徳さんと一緒に過去へと行って、私はそこで改めてこの人とは価値観があわないと思った。特に恋愛面で。

私は大勢の中の一人というカテゴリーは嫌だ。だってそういう時代に育っているわけではないのだ。だから孟徳さんの恋愛関係とか女性に対して軽薄なところが好かなかった。

だから彼にいくら好きだなんだと言われても、「妻帯者はお断りです!」なんて言っていたのに······。


『とことん逃げ道を潰してきやがって···』


だんだんと孟徳さんに対する自分の気持ちがはっきりしてきた時、どうしてもそれを受け入れられなかった。なぜか···それは私がいつか元の時代に帰るからだ。

だけど帰るための本は花が持っている。唐突に過去へ飛ばされたりすることがあったということ───それは多分花が本を使ったときと連動しているのだと思う。

だから花が帰るときになったら私も帰る。だが私は薄々気づいていた。花は多分こちらの世界に残る。

なら···と特別に花と会わせてもらい、本を譲ってもらった。花は帰らなくても、私は帰りたかったから。
そして譲ってもらったその次の日───火事になり、本は燃えつきた。

それからまぁいろいろとあり、孟徳さんの変わりに睡眠薬を飲んでしまい、まんまと敵に攻撃されたとき、つい気持ちを吐き出してしまった。

起きたときには孟徳さんは妾や正室などとは離縁しており、私のことが本気で好きだと、信じたいと言ってくれた。

私が彼の気持ちを拒んでいた、妻帯者というのもなくなり、拒む理由がなくなってしまった私はとうとう彼と気持ちを通じあわせることになったのだ。

そして、私の傷が癒える間に着々と進む婚姻の儀式の準備。やっとベッドの上での絶対安静が解かれ、城の中を散歩している時に聞こえた声。


「星空様のあの傷痕···見ているだけで痛々しくて······」
「可哀想というか···」


侍女の声だろう。私がここにいるって気づいていないのか。

毎回傷の包帯を変えてくれる人かな?手に巻かれている包帯を見下ろしてふぅとため息を一つ。

まぁ、確かに痛々しいが······。


『可哀想······ねえ』


傷物の女······か、と自分で考えて勝手に傷ついてしまう。愛しい人を守れた証───いわば勲章みたいなものだからなんとも思っていなかったけれど他者から見れば傷物と思われるのかと考えた。


『くそっ···』


柱に拳を叩きつけたい衝動を抑える。その代わりぎゅっと強く手を握った。


「星空ちゃん!!」


不意に聞こえてきた声に視線を向けると焦ったような、少し怒ったような顔をした孟徳さんが駆け寄ってきた。

あれ、彼は今仕事中のはずじゃ───


「星空ちゃんの部屋に行ったらいないから心配したよ!何してたの?」
『えっ···とちょっと散歩を······』
「まだ傷が治ってないのに!?」
『いや···散歩くらいは問題ないかなぁって······』


なんだこの過保護。


「まったく、本当に君は······俺を心配させるのが得意だね」
『え?············きゃあっ!?』


とっさに出た声に思わず口を押さえる。
孟徳さんは私を横抱きにしたまま部屋への道を歩きだした。


『あの、孟徳さん···?』
「頼むから俺の傍を離れないで。······星空ちゃんに何かあったら俺、どうするかわからないよ?」
『············』


思わず沈黙すると、愛おしいような目を向けられた。
その甘い視線に気恥ずかしくなって赤くなる顔を隠すように孟徳さんの服に顔をうめた。

すると孟徳さんは包帯が巻かれている方の手をとると、そこへと小さく口づけをした。ちゅっとなったリップ音に思わず顔をあげると、彼は優しい笑みを浮かべて今度は私の額へと口づけを落とした。


「好きだよ、星空ちゃん。君以外はいらないから······」


その言葉に目を見開く。先程の会話を聞いていたのだろうか。いや、そんなことは······。


「君は?」
『······好き、です。孟徳さん···』




傷痕


傷物の女だと言われてもいい
だってこの傷痕は
大切なあなたを守れた証だから









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