「なぁ、今度の試合見に来てくんね?」
少し照れたようにはにかみながら言う山本君の誘いを断れる人いますか?
いませんよね。
ハイ、というわけで土曜日に試合があるということで沢田君と獄寺君と山本君を応援しにきました。
「あ、ほら。あそこにいるの山本じゃない?」
沢田君と獄寺君の間に座って観戦していると、バッターボックスに向かって歩いてくる山本君の姿が見えた。
「頑張れー!山本ー!」
「負けたら承知しねーぞ!野球バカ!」
素直に応援する沢田君と素直じゃない応援をする獄寺君の間で山本君を見ていると、こちらを振り返った山本君と目があった。
じっとこちらを見る山本君の姿に思わず頬が赤くなる。
え、な···なにか声援送った方がいいのかな?
「ほら、星空ちゃん。山本、応援してあげなよ」
「あの野球バカずっとこっち見てやがる」
ええ!?
え、なに言えばいいの?
シンプルでいいのかな?
わかんないよ〜!
ええい!女は度胸!
『や、山本君!頑張って!!』
周りの声援に負けないように声を上げてそういうと、彼はニカッと笑った。
そして鋭い眼差しでピッチャーを見る。
二回見送って、三回目。
ぎゅっと無意識に両手を握って祈るように目を瞑る。
カキーン!という音が響いたと同時に観客席が盛り上がった。
私も目を開けてボールの行方を追うと、そのボールは弧を描いて場外へと飛んでいった。
場外ホームランだ。
『山本君すごい!』
思わず拍手すると、回って帰ってきた山本君がこちらにピースを向けてきた。
なんだか嬉しくて、少し恥ずかしかったけど私もピースをし返す。
試合は山本君のホームランにより勝利で終わった。
沢田君たちは用事があるらしく先に帰ってしまい、私は野球部が終わるのを待つ。
誘ってもらっておいてなにも言わずに帰るのは失礼かなと思って。
「あ、おーい!星空ー!」
ちょうど野球部と一緒に出てきた山本君が、私に手を振る。
山本君は先輩に軽くこつかれたりしていて、ちょっと照れくさそうにしていたけどそのまま先輩たちに手を振ってこちらへと駆けてきてくれた。
「待っててくれたのか?」
『う、うん。誘ってもらっておいて帰るのもあれかなって思って』
「そっか」
『あ、先輩たち大丈夫?』
ニヤニヤとこちらを見る先輩たちに軽く会釈すると、山本君は赤くなった頬をかきながら私の背中を押した。
「大丈夫だって。あ、送るぜ?」
『え!?い、いいよ!山本君、疲れてるだろうし』
「心配すんなって!な?」
すみません、そんなキラキラな笑顔で言われたら断れません。
まぁ、でもここで断っても失礼かな。
『じゃあ、おねがいします』
「おう!」
試合のあとでも爽やかな笑顔の山本君を見てると自然と笑みがこぼれてくる。
私と山本君は並んで歩いた。
夕日で赤く染まる土手沿いを歩く。
『山本君、凄かったね。ホームラン』
「そうか?」
『うんうん!私、ホームラン生で見たのはじめてだよ!』
まぁ、もうちょっと我が儘いえばホームランボール欲しかったなぁと思ったり。
「あ、そうだ。これ星空に渡そうと思ってさ。今日の記念に」
そういってポケットから出したのは野球ボール。
しかもちゃんと名前入りだ。
汚れた上から書かれているから、使ったあとに書いたのかな?
『これは?』
「ホームランボール」
『え!?』
どうやら山本君が打ったホームランのボールは案外場外の近くに落ちていたらしく、見つけた監督が拾って山本君に渡してきたらしい。
『いいの!?もらっちゃっても!』
「あぁ。それ星空のために打ったボールだからな!」
え······?
ポカンッと山本君を見上げると頭の後ろで手を組みながら山本君は夕日に照らされた顔で笑った。
「オレさ、今日の試合でホームラン打ったら星空に言おうと思った言葉があってさ」
『···な、なに?』
「······星空のことが好きです。オレと付き合ってくれませんか?」
ボンッと顔を真っ赤にした。
真剣な顔でじっと私を見る山本君に、私は俯く。
『わ、私でよければ』
恥ずかしくてボソボソと告げると山本君は「よっしゃー!!」とガッツポーズするとそのまま私を抱き上げた。
『きゃあ!?』
「サンキューな!星空!」
嬉しそうに私を抱き締める山本君の背中に私もおずおずと腕を回して抱き締め返した。
君にホームラン!
君の打ったボールは見事に私の胸へと打ちこまれた
野球してる姿も、笑ってる姿も
全部大好きだよ、山本君!
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