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いつも通り騒がしいギルド"妖精の尻尾フェアリーテイル"。
ぎゃあぎゃあ!とケンカするナツとグレイ。
そしてカウンターで優雅に紅茶を飲んでいたルーシィは二人の様子を見て、頬杖をついた。


「もー。あんたたち、いい加減にしなさいよね…」


あきれたようにため息を吐けば、カウンターの中にいたミラジェーンがクスクスッと笑う。
その時ーーバタンッ!と勢いよくギルドのドアが開かれてみんなが視線を向ければ、荒い息を吐いたロキがいた。


「コトハがーー!」


ピタリッとケンカをしていたナツとグレイが動きを止める。ギルドのみんなもロキの言葉を聞き逃さぬように、真剣に彼を見つめた。
どこか張りつめた空気にルーシィが困惑する。


「コトハが帰ってくる!!」


ワァ!とギルドの至るところから声が上がった。


「やっとかよ!」
「おせーじゃねぇか!」
「今回はどこまで行ってるんだっけか」
「どこだっていいさ!コトハが帰ってくるんだ!」


わいわいと言い合うみんなにルーシィが首を傾げて「ねぇ、コトハさんって…」とナツとグレイに聞こうと思えば、二人は目を見開いて固まっていた。


「ちょっと。ナツ?グレイ?」


声をかけても動かない二人。傍にいたハッピーも大好物の魚を落として固まっている。わいわい!と騒がしく紡がれる喧騒の中で三人だけが動かなかった。
ルーシィはどうしようもなくて、ミラジェーンへと視線を向ければーールーシィの困惑した視線に気づいたミラジェーンがハッと意識を戻す。


「ミラさん…?」
「あ…っ。えっと、ルーシィは知らない?雪姫っていう……」
「えっ!!雪姫って…あのスィニエーク!?」
「そうよ」


雪姫ーー通称スィニエーク。雪や氷などの魔法を使う魔導士であり、彼女の魔法の跡にはいつも氷像が残っている。雪ーーその名の通り彼女自身もあまり姿を見せることがなく、すぐに雪のように姿を消してしまい、依頼人でさえも彼女の顔を覚えている者は少ない。

雪は跡形もなく溶けてしまう。彼女も雪のように痕跡を残すことなくいなくなるというので、人は彼女を雪姫ーースィニエークと呼んだ。

特集を組まれたこともあったが、彼女の容姿が明るみになることはなかった。だが、魔導士としての腕はピカイチであり、聖十大魔導士に選ばれてもおかしくないほどだという。


「あたし、大ファンなんです!!」
「ふふっ。本人に言ったら喜ぶわよ」
「……あれ?でも、なんでコトハさんとスィニエークが関係ーーえ…ま、まさか…………」
「そう。コトハがそのスィニエークよ」
「ええええええええ〜!!!!!」


ギルド中に響くほどのルーシィの声に、やっと起動するナツたち。


「なんだよ、ルーシィ。大きな声だして」
「何かあったの?」
「何かあったの?じゃないわよ!!スィニエークがコトハさんって本当!?」
「「ああ」」
「ああ、じゃない!!!」


グンッと凄い形相で近づいてきたルーシィに思わず一歩下がるナツとグレイ。だがそれに気づくことはなく、ルーシィはナツの胸ぐらを掴むと乱暴に揺すった。


「なんで教えてくれなかったのよ!!あたし何度も言ったじゃない!!なのにあんた一言もそんなこと!!」
「い、言ってたか…?」
「言ってたわよ、バカ!!」


乱暴に揺すって乱暴にナツを突き飛ばしたルーシィは、キラキラとした眼差しをドアの方へと向けた。
床には目を回したナツが倒れており、そのすぐ傍にはルーシィのあまりの形相と行動にブルブルッと体を震わせて抱き合うグレイとハッピーの姿が。


「うわぁ!早く来ないかなぁっ!どんな人なんだろう!」


ワクワクとした様子が見てわかるルーシィにミラジェーンはふふっと上品に笑った。


「そうねえ…女の子に優しいかなぁ。下手したらギルドにいる男の人よりカッコいいかも」
「えっ!?」
「でもね、ちゃんとみんなのこと一番に考えてて……誰よりもみんなのこと見てるのよ」
「…………」


細めた目をドアへと向けるミラジェーンの姿を見たルーシィがチラリッとギルドを見渡せば、みんな待ちきれない様子でドアへと視線を向けていた。
その様子で、いかに彼女がみんなに愛されているかーーよくわかった。

やっぱり…スィニエークは凄いんだ…。

早く会いたい!と体を揺らすルーシィにミラジェーンがパチンッとウインクする。


「確かにコトハは女の子だけどーー惚れないように気を付けてね、ルーシィ」
「惚れ…えっ?」


どういうことですか?と聞く前にナツがピクッと反応して体を起こす。そしてダッとドアへと駆け出した瞬間ーーギルドのドアが開いた。


『ただいま、みんな』


光に反射するピンクベージュの髪に、吸い込まれそうな黒い瞳。そして風に髪がさらわれたときにチラリと見える白いピアス。
キラキラと光る太陽の光が、ダイヤモンドダストみたいに彼女の周りを舞う。その光景は女神か天使が地上に舞い降りたように荘厳で美しくーー

ニコリッと笑った彼女の姿にルーシィはポーッと見惚れた。


「コトハ!」
『うわっ!』


固まるみんなの間をすり抜けたナツが彼女へと抱きつけばーーみんなが一斉に彼女へと駆け寄った。


「おせーぞ、コトハ!」
「今までどこにいたんだよ!」
「コトハ、あんたまた可愛くなったんじゃない!?」
「おかえり、コトハ!」
『ーーへへっ……ただいま』


抱きついてくるナツをそのままに、彼女ーーコトハは照れくさそうに笑みを浮かべた。


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