空を飛ぶ程悍ましい
「5万人やられようが!!まだ5万人の兵力がある!!!“麦わらの一味”こそが我々の野望を討ち砕き続ける宿敵っ!!!そしてジンベエこそが!!!オトヒメの理想とする人間との友好の中に生きる魚人族の“最悪の未来”の住人だ!!!」
「「「「ウオオオオオオ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」」」」
ゼオの言葉にウオー!と雄叫びを上げてドドドドドと5万人の兵力がルフィたちの元へとやってくるが───
「ルフィ!5万はねェだろ。減らしすぎだ」
「そっか、わりい」
「おれが3万いくぞ。おい、マリモ!!」
「黙れ···Mr.鼻血」
「あァ!?」
『いいからここでケンカすんなっての』
「にしても5万じゃ少ないって〜。何してんのルフィ〜」
キュッと頭に巻いた布を縛るゾロに謝るルフィ、そしてルフィが倒してしまった新魚人海賊団の一人を足蹴りにしつつゾロに言うサンジに、ケンカを始める二人を止めるティアナ、そんな彼女の隣でブーブーと文句を垂れるカナのいつものグダグダ感がある麦わらの一味の三強と滅竜魔導士にはそんな5万人など見えていない。
するとその様子を見ていたホーディが指先からズズ···と水を垂らす。
「···············!!こんな広場の真ん中で·········でかい人魚姫を守れるもんなら守ってみろォ!!!“撃水”!!!」
「え!」
ホーディから飛んで来る攻撃にしらほしは視線を向けるが、自分の目の前でその攻撃は相殺され、ドォン!!と大きな衝撃音が響き渡った。しらほしが「きゃあっ」と耳を塞ぐ。
「··········!!?」
「おっと、いらねェ心配だったか!」
『みたいね』
まさか攻撃が相殺されるとは思っていなかったホーディが驚く。しらほしを助けようとルフィも腕を伸ばしかけ、ティアナも水を飛ばそうとしていたが、相殺された攻撃を見て態勢を戻した。
そんな彼らを他所にダルマは衝撃を受けていた。
「!!? 怪物に覚醒したホーディ船長のあのメチャクチャな“撃水”を!!!同じ“撃水”で弾き返した!!!あの男もやっぱり怪物だァ!!!」
「フン······何をして力を得たのかは知らんが、ヒヨッ子の「魚人空手」じゃ······!!」
ホーディの“撃水”を相殺したのは、ジンベエだった。
「仲間に怪物呼ばわりされるとは···可哀想に···」『いや、こっちもナミに言われてるけどね』ダルマの言葉を敵を倒しながら聞いていたカナが気の毒そうにホーディを見たが、同じく敵を倒しながら聞き取ったティアナが遠い目をしながら呟く。ティアナとカナも含めて、ナミやウソップ等に怪物やらさんざん言われた覚えがあった。まあ確かにルフィやゾロやサンジがそう言われるのなら分かるが、自分も言われたことにちょっとショックを受けた記憶がある。2年前にだが。
「そりゃあ······魚人にして初めて“王下七武海”を務めた男だ」
「“七武海”を抜けた後懸賞金は4億を超えたらしい」
「ゴチャゴチャ言うとらんでかかって来い!!!姫の命を取れる時はわしらを全員倒した時じゃ!!!」
ジンベエの強さに畏れる新魚人海賊団たちにジンベエが一喝する。その声を聞きながらティアナとカナはぺろりっと唇を舐めた。
「砲撃部隊!!しらほし姫を狙え〜〜〜!!!」
ジャキキン!!としらほしに標準を合わせて構えられる銃。
「ヨホホホ〜〜〜!!感心できませんね〜〜!!!世界の憧れ、人魚姫を傷つけようなんてっ!!“パーティミュージック”!!」
ブルックがバイオリンを奏でる。
「ようこそ!!フェスティバルの夜へ!!」
それによって新魚人海賊団の兵たちは幻想を見た。
「あれ!?おれ達夢でも見てたのか!?」
「さァ、その花火を打ち上げて〜!!」
「ひゃっほー!」
「楽しくなってきたー!」
敵もいない空へと次々と撃ちあげられる砲弾。それによって敵が混乱をした隙にブルックが───
「“キントーティアス”“幻想曲”!!!」
「「「「ギャアァア!!!」」」」
ズバババァン!!と敵を斬り捨てた。
ゾロの前には甲羅を持った大柄の兵たちが立ちはだかる。
「やれ!!鉄の甲羅部隊!」
「「「「ウオオオオ〜〜〜!!!」」」」
「·········」
立ちはだかる大きな壁にゾロは三刀目の刀を口にくわえると───
「“三刀流”······黒縄・大竜巻”!!!」
大きな竜巻がその場にいた者達を巻き込み、多くの者がゾロの刀の斬撃によって斬り捨てられた。
それを見ていた他の兵たちが頭を抱えて叫ぶ。
「鉄の甲羅が果物の様に斬れたァ!!!」
「何だ、今のでけェ斬撃!!死神の鎌かなんかか···!?」
だがその中の一人があることに気づく。先程、ゾロによって起こせられた竜巻が彼らへと迫ってきていたのだ。
「止まらねエ〜〜〜!!!」
「斬れる竜巻だァ〜〜〜〜!!!」
「逃げろォ斬られる〜〜〜〜!!!」
「どこまで追って来るんだァ!!?」
「地獄の果てまで」
ゾロの衝撃の言葉に兵たちは愕然と目を見開いた。
続きまして視点は変わり───しらほしの元へと戻ります。
「バブルの高度を上げろ!!」
浮き輪のようなものを腰回りに身に着けた新魚人海賊団の兵たちが空へと浮かび上がる。
「空から行くぞ!!」
「しらほし姫を仕留めろォ〜〜〜!!!」
そんな彼らとは別の部隊がしらほしの傍にいるサンジへと迫る───!
「ハリセンボン隊長率いる〜〜〜〜〜!!ウニ衣トゲ部隊〜〜〜!!!あの足技男を串刺しにしろォ!!!ん〜〜〜ハ・リ・セ・ン···ボーーン!!!」
「さァ、もう逃げ場はねェぞ!!!」
体中から棘を生やしたトゲ部隊が呑気に敵の一人を足蹴りにして倒していたサンジの元へと迫る。そんな彼に遠くからブルックが「サンジさん、危ないですよ。何をのんびり···」と声をかけるが、サンジはただプカ〜···と無言でタバコを吹かしていた。
サンジが思い出すのは2年間の修業のこと。
“サンジキュ〜〜ン!”
思い返せばもう懐かしい。───おれは逃げた···悍ましい化け物達に捕まらねェ様に······。
雨の日も雪の日も雷の日も······逃げて逃げて···。
「足技男!!討ち取ったりイ〜〜〜〜〜!!!」
ある日とうとう逃げ場を失い、おれは···。
トゲ部隊がサンジに襲いかかるが、既にその場にサンジの姿はなくただ真正面から互いのトゲが顔面や体に突き刺さるだけだった。
「あいだ、痛ででででっ!!あれ!?」「いねェッ」痛さに悲鳴を上げながらその場にいたはずのサンジの姿を探す。
(逃げて、逃げて───おれは空を飛んだのさ!!)
ドン!!とサンジの姿が空中に現れる。
「“空中歩行”!!!」
まさかの上にいる事実にその場が騒然となった。
「すげーー!!サンジが空飛んでる!!」
「え〜〜!!カナも飛びた〜い!!」
『翼広げろよ。』
「アレは······CP9の······」
ルフィとカナがサンジの“空中歩行”に声を上げると、ティアナは自分も翼広げたら飛べるだろ、という視線をカナへと送る。ロビンも離れた所で敵を倒しながら2年前の記憶を呼び起こした。
サンジはしらほしを空から襲おうとした浮き輪をつけた兵たちの前へと宙を蹴って向かう。
「ようおめェら、しらほしちゃんに話があるならまずおれを通して貰おうか!!」
いきなり現れたサンジに驚く兵たち。
「あなたの騎士です」
「サンジちん様っ!!」
しらほしにいい顔をしながらグットサイン。その鼻の下は伸びているが。
「“悪魔風脚”───“熱鉄鍋”“スペクトル”!!!!」
「「「「ギャアア〜〜〜!!」」」」
強烈な蹴りの連打が空中にいた兵たちを地面に叩き落としていく。
そしてまたまた視点は変わり───「おいおい何だアレ!!」「脚!?」と背後で叩き落とされる仲間など気にも留めず兵たちはロビンの後ろから現れた巨大な脚に体を仰け反らせた。
「“千紫万紅”───“巨大樹”“ストンプ”!!!」
「「「「ギャアア〜〜!!」」」」
「失礼」
振り下ろされた巨大な脚が兵たちを弾き飛ばし、踏みつぶした。ロビンの華麗な技に「ギャア〜!!ロビンカッコイイ〜!!!」『テメェ、さっきからこっち集中しろ!!』とカナとティアナの騒がしい声が聞こえてくる。
そしてまたまた視点は変わり───
「猛毒部隊行けェ!!」
「おお!!」
「でけェ脚だろうが腕だろうがおれ達の猛毒一刺しで一コロよォ〜〜〜!!!」
体に猛毒を持つ魚人たちが詰め寄せる。だがそれはサニー号から聞こえた声に阻まれた。
「“ソルジャードッグシステム”“チャンネル4”!!!」
ガコーン!!とサニー号の横に備え付けられた数字が“4”の数字に切り替わる。
敵がその様子に眉を寄せながら身構えると───
「“クロサイFR-U4号”〜〜〜〜〜!!!」
バリバリバリバルルン!!と排気音を鳴らして登場したのはサイをモチーフにしたフランキーを乗せたバイクだった。
「「イカス〜〜!!サイバイク〜〜〜!!」」
ルフィとカナが目をキラキラさせてフランキーの新兵器を見るが、その傍で戦っていたティアナは冷めた目つきでそれを見ていた。
『·········』
どこがイカスのだろうかという顔である。
「“毒”が何だって〜〜〜!!?」
「え!?何だありゃア〜〜〜〜!!!」
「刺せるモンなら刺してみやがれ、この鋼鉄の怪物によォ〜〜〜〜〜〜!!!」
「どわ〜〜〜!!」
フランキーはバイクに乗りながら次々と猛毒を体に持つ魚人たちを跳ね飛ばしていった。そんな彼の前に巨大な刺のついた球をブンブンと振り回す巨体な魚人が現れる。
「鋼鉄には鋼鉄っ!!おれに任せろォ!!!」
「!」
だがその鋼鉄の球がフランキーに振り下ろされる前に、ボォン!!と大きな衝撃が魚人の体を襲った。「プおおォ〜〜〜!!」と不思議な悲鳴を上げて倒れる。場が場なら絶対カナが笑っていた。
「NEWナンバー“チャンネル5”!!!ブラキオタンク5号発進〜〜〜!!!」
「うお〜〜〜!!」
入口からチョッパーが顔を出しながらブラキオタンクが走ってくる。
「出たー!!!恐竜〜〜〜〜〜!!」
「やだカッコイイ〜〜〜!!」
「スゴイですね〜〜!!」
『???』
キラキラと目を輝かせキャーッと歓声をあげるルフィ、カナ、ブルックを横目に見ながらティアナはやはりいい所がわからないという風に眉を寄せながら首を傾げたのだった。
「見たか、おれの砲撃の腕!!」
「レバー引いたらコクピット広くなった。何の機能?」
「しかしあいつ船大工だよな」
先程の攻撃を命中させニヤリと笑うウソップの後ろでコクピットを見まわすナミと、いまいちわからないフランキーの船大工としての立ち位置に首を傾げるパッパグ。その上でチョッパーは嬉しさに歓喜の涙を流して敬礼をしていた。
「じぶんは!!チョッパー司令官でありますっ!!うてー!!」
チョッパーの指示に合わせて撃たれる砲撃。
「「司令官カッコイイ〜〜〜!!」」
「戦えお前らっ!!」
先程からうるさいぐらいの歓声しかあげていないルフィとカナにとうとうゾロからのツッコミが入った。
「───!」
何かに気づいたカナが振り返り様に手を振り、自分の周りに簡単な火の壁を作る。
「うわっアチチチチッ!!」
「火の壁だと!?」
「クッソ···こんなの頑丈な鋼鉄に比べれば···ッ!!」
後ろから迫って来ていた鋼鉄の球や甲羅を持った兵たちが火の壁の向こうで慌てふためく。それを聞きながらニヤリと不敵に笑ったカナは火の壁を消そうと魔力を弱めた。するとそれを感じたのかヤケクソなのか───後者だろうが、一人の兵が思い切り鋼鉄の球を投げて来た。弱まりきった火の壁を通ってきた鋼鉄の球が燃え盛る球となってカナへと迫る。
「···うえっ、まっっず!!」
「「「「食べたァァァァァ!!?」」」」
あ〜んっと大きく口を開けて火の球を迎えて、むしゃむしゃと食べるカナに兵たちが驚き仰け反った。そして口の周りを片手で拭うという男らしさを見せると、カナはぐっと体に力を入れる。
「まずい炎どうもありがとう。さて、こっちも行くよ〜───“炎竜の炎の竜巻”!!!」
「「「「ギャアアアア!!!」」」」
大きくブレスをしたカナの口から灼熱の熱風を纏った炎の竜巻が現れて兵たちを襲う。
「あっづ!!」「焼ける焼ける!」「ギャアアッ!」幾つもの悲鳴が炎の竜巻に呑まれていき、カナは彼らに背を向けてピースサインをしながらベーッと舌を出した。
それを呆れた様子で見ていたティアナの周りを槍や剣など武器を持った兵たちが取り囲む。
『ったく、面倒くさ···』
「女一人だァ!!」
「やっちまえェェェ!!!」
「「「「ウオオオオ!!」」」」
雄叫びをあげながら幾人もの兵たちがティアナへと向かってくる。
───だが、足元が水に濡れたような感覚に先頭を走っていた兵たちが足を止めた。下を見れば彼らの足下にいつの間にかできている大きな水溜まり。
「なんだ?」
「水···?そんなのおれたちには関係ねェ!!」
『ただの水なわけないでしょーが』
兵の一人が足を一歩踏み出した瞬間───
『“水竜の”───“水柱”』
「「「「ッ!?ギャアアアアアッ!!!」」」」
パチンッと指を鳴らしたティアナの合図に、足元から水柱が次々と立ち上り彼らを上へと押し上げて地面へと叩きつけた。それを背後に、ティアナは彼らを振り返りながらウインクをひとつ。
『女だからって甘く見ないでよね』
「キャーーー!!ティアナカッコイイ〜〜〜!!!」
「ティアナ〜〜〜!!!」
「お前らいい加減にしろ!!」
アイドルのファンなみにハートを飛ばして歓声を上げるカナとルフィにゾロはブチッとキレながら怒鳴った。ちなみにブラキオタンク5号の中でティアナの様子を見ていたナミは「きゃ〜〜!!」と黄色い声をあげながらバシバシッとウソップを叩いていたそうだ。
ティアナはカナとルフィの声に煩わしそうに『うるせェ』と片耳を塞いでいた。
麦わらの一味の戦いの様子を上から見ていた魚人達は───
「すごいぞ······!!あいつら本当にすごい!!」
「たった12人で···!!10万人をものともしねェなんて」
「麦わら〜〜!!」
「ジンベエ親分〜〜〜〜〜!!」
「麦わら〜〜〜!!」
ワアアアアアアアと歓声をあげた。一気に場が麦わらの一味!!ジンベエ親分!!と盛り上がる。
それらを背に呑気にしていたホーディは「······調子にのりやがって」と悪態を吐いた。
「クラーケン!!広場へ出ろ!!」
呼ばれたクラーケンが広場を囲む壁を壊しながら現れる。
「たった12人だ、クラーケン!!踏み潰して来いっ!!それで終わりだ!!!」
魚人達はクラーケンの登場に悲鳴をあげて後退った。
「まずい!!伝説の怪物クラーケンを使ってきた!!」
「いくら麦わら達が強くてもあんなのに潰されたらひとたまりもねェ!!」
麦わらの一味を心配する魚人達とは逆に新魚人海賊団の兵たちはウオオオオッとクラーケンの登場に声をあげる。
「ギャハハハ!海底生物の恐ろしさを知るがいい!!」
「お!!バカのクラーケンだ!!」
「強ェぞあいつは、デタラメに!」
チラリとその様子に振り返ったティアナがクラーケンを見て『あっ』と声を漏らした。
「おい何してるグズグズするな!!」
ビクビク···と震えて動こうとしないクラーケンに痺れを切らしたホーディが怒鳴り声をあげた。
「お前はわざわざ北極から連れて来たおれの奴隷だ!!!しっかり働け!!!」
そんなホーディの声を無視して、ティアナはルフィの元まで敵を雑に倒しながら駆け寄るとチョンチョンと彼の服を引っ張る。
「ん?どうした?ティアナ」
『あれ。スルメじゃない?』
「え?あ!おいスルメ〜おれだよ」
ティアナに指を差されてようやくクラーケンの存在に気づいたルフィが伝説の怪物に向かって手を挙げて己を主張する。
「のせてくれー!!お前一度ウチのペットになった、友達だろ!!」
ルフィの言葉とその隣にいたティアナの柔らかい笑みにクラーケンは目から涙を流すと───
「うわァ〜〜〜!!!」
「クラーケンが裏切ったァ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「止まれェクラーケン!!バカタコめ〜〜〜〜!!!」
ルフィとティアナを背中に乗せてドゴゴゴオンッと周囲のモノを破壊し、兵たちを弾き飛ばしながら暴れ出した。
「しししし!!」笑うルフィの隣で、クラーケンの背中に座るルフィの服を落ちないように掴みながらティアナも下にいる兵たちを水を操って攻撃していく。
「いけ〜〜〜スルメ〜〜!!!」
楽しそうに声をあげるルフィ。
「助けて船長〜〜!!」クラーケンまで暴れ回って収集がつかなくなった兵たちが瀕死の状態でホーディへと縋る。そんなホーディの額にはピキッと筋が出来、目は怒りで燃え上がっていた。