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憧れの遊園地



海の森───
ナミから事情を聞き、ジンベエがアーロン一味を東の海イーストブルーへ解き放ったのは自分だというカミングアウトをした後、しらほしの泣き声が海の森中に響き渡っていた。


「え〜〜ん、お父様があ〜〜!!」


彼女の大きな泣き声に慣れてはきたものの、人より聴覚が優れているティアナとカナにはそれはそれは大きく聞こえるので、彼女が泣く度にもうルーティーンのように耳を押さえていた。
そして大きな声で泣くしらほしを宥めるようにジンベエが声をかける。


「しらほし姫、大丈夫じゃ。奴ら、実際はまだ国王に手出しなどできん!!」
「え···。······本当ですか?」
「ああ···少しルフィ君達に話をする時間をいただきたい。王は必ずわしがお助けする!!」
「······はい。お願いします、親分様············」
「んレディ達ィ〜〜〜〜〜!」


しらほしとジンベエの会話に割って入ってきたのは、やっと女性を見ても元の状態へと戻ったサンジだった。ハートをまき散らしクルクルと回りながらやって来たサンジがしらほし用の大きなティーカップとソーサを手に乗せ、残りの手や頭にナミ、ケイミー、ティアナやカナの分を乗せて彼女たちに差し出す。


「お茶です」
「相変わらず器用だね、サンジ」
『さすがだよね』
「ありがと。そこ置いといてサンジ君───あと、まじめな話してるからそのテンションやめて!」
「そんなバッサリなナミさんも好きだーー!!」


元に戻ったようで何よりだ。
ナミはサンジの態度など無視してジンベエに東の海イーストブルーへアーロンを解き放ったことの真意を問う。
ハチが「ニュ〜〜、ジンベエさん······」とか細い声で彼を呼べば、「ああ」とひとつ頷くジンベエ。


「ティアナ!おれにもそれくれ!」
『え?あぁ···はい』
「ありがとう!」


横から抱き着いてきたルフィにティアナが自分の分のお茶を飲ませる横で、サンジがびしっとジンベエを指差した。


「───おれもそう聞いてるぞ!!」
「え···」
「昔······おれとルフィとティアナちゃんが初めて“七武海”のジンベエって名を聞いた時も、ヨサクの野郎にそう説明された·········」


サンジの説明にカナが「そうなの?」とティアナに問いかければ、当の本人は『そうだったかも···』と曖昧な返事をしていた。
ん〜···と腕を組んでその当時の記憶を思い出そうとしている彼女をカナはお茶を飲みながら静かに見る。
そして数秒考え込んで『あぁ!』と顔を上げたティアナに(やっと思い出したのか···)とカナが呆れたような視線を向けた。


“ジンベエは“七武海”加盟と引きかえにとんでもねェ奴をこの“東の海イーストブルー”へ解き放っちまいやがった”


確かこんな感じのことを言っていたはずだ。

サンジは呑気にティアナ用に用意したお茶を飲みながら笑っているルフィを見た。


「ティアナちゃんは思い出したようだが······お前の事だ───忘れてたんだろ!」
「───あ〜、そうだったかなー···。ヨサク元気かなー!」
「本当に思い出したわけ?あんた」


軽く答えるルフィにカナは鋭くツッコミを入れた。


「2年前、新聞でお前とティアナちゃんとカナちゃんがジンベエと一緒にいるってのを知って、おれの頭にゃクエスチョンマークが踊ったよ···。ジンベエって奴はアーロンの黒幕の様な存在だと思ってたからな」
「覚えてなかったんだよね、2人とも」
「『うん』」


ジンベエの存在がどうだったかなど、あの当時の自分たちにはあまり関係がなかったのだ。
それよりもっと大事なことがあったから。


「おい、ジンベエ···何か言い訳してェってんなら聞くが、言葉にゃ気をつけろよ············!!何を隠そうここにいる麗しき航海士ナミさんの故郷こそアーロンに支配された島」
「!!」
「彼女自身、耐え難い苦汁を嘗めてきた一人だ···!!話次第じゃお前を···おれは許さねェ!!!」


サンジの言葉にハチも「おれ達はその娘に謝っても許されねェ程の傷を与えてる······」と進言する。

「おいコラ、ルフィ!!ティアナのももらってたのにカナのまでもらう気!!?」「いいじゃねェか、別に」「よくねーよ!!」わいわいぎゃあぎゃあと騒ぐカナとルフィの様子を尻目に、ティアナは険しい表情で俯いているナミをチラリと見た。


「·····················」


“世界地図か···楽しみね。じゃあこの島の地図は“夢の一歩”だ!!”


自分の描いた地図を見ながら朗らかに笑うベルメール。
だがそれはすぐに見れなくなった。


“ゴキゲン麗しゅう人間どもよ!!!この島をおれ達の支配下とする!!!”


アーロン一味がナミの故郷の島へとやって来た途端、ナミの人生はガラリと変わった。


“死んじゃやだ、ベルメールさん!!!”


泣いて縋るナミの手はベルメールに届くことはなく。アーロンはカチャッとピストルをベルメールへと向けた。


“くだらねェ愛に死ね”

“ベルメールさああああああああん!!!!”



ナミの悲しい叫び声と共にその場に、ピストルの引き金が引かれたドン!!ドォン!!という音は響き渡ったのだった。
それからナミはアーロン一味の元、ろくな食事も与えられずお腹を鳴らし、静かに涙を流しながらただ海図を描き続けた。
やりたくもない泥棒を続け、大人には命を狙われ。
それでもナミは必死に生きてきた。


“おお······よく帰ってきたなァ······。············帰るしかねェか···。お帰り···我が測量士。シャハハハハハハ······”


アーロンの嫌な笑い声が脳裏に蘇る。ぞく···と震えた体を抑えようとナミが腕を持ち上げようとした瞬間、ぽんっと彼女の頭に温かな体温の手が乗せられた。
それは人よりは低く、だけど優しい暖かさを持っている手で。


「ティアナ······」
『······』


ティアナは無言で彼女の頭を撫でた。
その様子を見ながらジンベエが「ずいぶんヒドい目にあわされた様じゃな」と呟く。すぐさまそれに反応を示したのはサンジで、「何を貴様、人ごとの様にィ!!!」と怒りを示していた。


「───ええ。何があっても今更アーロンを不憫だなんて思うつもりはない······。だけど───」


ナミは2年前、シャボンディ諸島に着くまであんなに強い魚人達が人間から迫害を受けていたことを知らなかった。───ケイミーが人攫いに捕まり、それを追ってた時、ナミは目を疑った。


「目の前に広がる「シャボンディパーク」が···アーロンの建てた「アーロンパーク」にそっくりだったから!!」


ティアナはナミの話を聞きながらぎゃあぎゃあとお茶の取り合いをしているカナとルフィを宥めにかかった。
確かに似ていたとシャボンディパークを思い出しながら、『うるせえ』とカナの頭を叩き、ルフィには『これ全部飲んでいいよ』と優しく託す。勿論それに異を唱えるのはカナで、「差別だー!」と叫ぶ彼女の傍ら、ルフィは嬉しそうにティアナの飲みかけを飲んでいた。


「ありがとう、ティアナ!」
『いーえ』
「いい加減カナに優しくしてもいいと思うの!!」
『うるせえな。』


シリアスが続かないのがこの一味である。

ハチもアーロンパークとシャボンディパークを思い浮かべながらぼそぼそと話す。


「···ニュ〜···憧れてたんだ···。許して欲しくて言うんじゃねェぞ···ナミ···!!アーロンさんは人間が大嫌いで人間を恨み、おれ達はやりすぎた」


子供の頃から人間達の住む世界に憧れを持っていた。
200年前まで魚人と人魚は“魚類”に分類されていたそうだ。200年前に「リュウグウ王国」は世界政府の加盟国となり、人間達との友好を結び、王は“世界会議レヴェリー”への参加も許された。


「───でも、人間達は魚人族を嫌い続けた」


ルフィ達は静かにハチの話を聞いていた。それぞれの作業をしながらも、耳はハチの話へと傾けていた。


「おれの生きてる中で一番ひどかった時代は、大海賊時代の始まり·········!!人間の海賊達がこの島で暴れ回る恐怖は今でもはっきり覚えてる············!!」
「───そこを救ってくれたのが·········───今は亡き“白ひげ”のオヤジさんじゃ······!!!」


“この島はおれのナワバリにする!!!”


ティアナとカナは顔を見合わせた。カナが「カッコイイ〜」とヒュ〜と小さく口笛を吹く。


「島に平和が戻った。───しかし、人間達の魚人嫌いが止むわけじゃない······!!お前さんらもシャボンディ諸島で見たハズじゃ···現実をな」


おかしな話だ。
一度権力を手に入れた者程変化を恐れるもの。
魚人と人間の交友を決めた“政府の中枢”に近づく程に差別体質は深く根付いて変わる事はなかった。
───そんな折、魚人島ではこの腐った歴史を変えようと、二人の人物が立ち上がった。


「一人は「オトヒメ王妃」······」


人間と"共に暮らす"事を島民達に説き続けた。しらほしのお母さんだ。


「そしてもう一人は奴隷解放の英雄「フィッシャー・タイガー」」


あ···とティアナとカナは顔を見合わせた。
その名前は確か魚人島に入る前に聞いた名前だ。

人間との“決別”を叫び······世界の「禁止事項タブー」を犯し···たった一人で聖地マリージョアを襲撃。奴隷達を救ったのだ。

ルフィはお茶を片手にティアナを振り返った。


「···何とかタイガー············どっかで聞いたよな?」
『覚えてないの?』
「さすがルフィ」


何日も経ったわけでもないのにすぐ忘れたルフィにティアナとカナは思わず白けた目を向けた。

───フィッシャー・タイガー「タイヨウの海賊団」を結成した男だ。


「わしもアーロンも───当然ハチも···その「タイヨウの海賊団」に所属する事になる···!!」


しかし政府に激しく盾ついた「魚人海賊団」が海にいる事は、同時に人間との友好を実現しようとするオトヒメ王妃の首をしめる結果となった。


「───今を堪え忍び、未来を変えようとするオトヒメ王妃に対し······───未来を捨てて···今苦しむ同族の奴隷達を救い出したフィッシャー・タイガー···。どちらが正しいかなど···とても決められん。───じゃがわしは···」


ジンベエは今から15年前“偉大なる航路グランドライン”での出来事を思い浮かべた。