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プロポーズ



メガロの中からしらほしが姿を現してしまい、サンゴが丘はパニックになっていた。


「しらほし姫が今、まさに誘拐されている〜〜〜!!!」
「こら弱虫、何でサメから出てくんだ!!」
「ご···ごめんなさい、ルフィ様。お怒りにならないで下さい···え〜〜ん!ティアナ様〜〜!!」
『もう、ルフィ。お願いだからもうちょっと優しい言い方してよ』
「無理だろ」


ルフィに怒られて泣いてしまったしらほしを慰めながらティアナが呆れたように言うが、その隣に立っていたカナが即否定した。


「姫様を泣かしやがった〜〜〜!!!極悪海賊め〜〜〜〜!!!」
「ダメだぞ、サンジ〜!!絶対に振り返るな!!」


わあああと叫ぶ魚人たちに、チョッパーも必死に振り返らないようにサンジを止めている。
サンジは「姫、姫っておい···まさか···」と何となく自分の後ろにいる人物が誰かわかり始めているようだ。


「振り返ったらおれの後ろに“人魚姫”がいるんじゃねェだろうなァ〜〜〜〜!!!」
「いるよ!!そうだよ、だから振り返らないでくれサンジ。普通の人魚で死にかけたお前が······“人魚姫”なんて見たら、もう一巻の終わりだよォ!!!
「···············!!」


「え、何そうなの?」チョッパーの言葉が聞こえていたカナがティアナに問いかけると、彼女は苦い顔をしながらコクリと頷いた。サンジがイシリーたちを見た時に出した鼻血の量は尋常ではなく、彼のために街中を探し回ったのを思い出したのだ。ものすごく疲れた···。


(“人魚姫”·········かの 世界一の美女、海賊女帝もたじろぐという人魚達の頂点に立つ存在が今、おれの背中に···!!)

「なんか考えてんぞ」
『絶対良くないことじゃん』

(手の届く夢に手を伸ばしもせず、生き長らえるより····)


カナやティアナのツッコミなど聞こえていないサンジは、よしっと決意した眼差しでチョッパーを見た。


「チョッパー、おれは···夢を叶えて···“死”を選ぶ!!!!」
「お前の夢、オールブルーじゃなかったか!?」
「ほらな?」
『夢って言うより欲望じゃないの?』


「やめろサンジィ〜〜〜〜!!!」しがみついて止めるチョッパーの声にも耳を貸さず、サンジはついに振り返ってしまった。彼の目についたのは───ピンク色のウェーブの長い髪に、キラキラと光る体、そして涙を流す可憐な人魚姫の姿だった。サンジが目を瞠って動きを止める。

『マズイんじゃないの』「だな」サンジのその様子を見たティアナとカナが目を合わせた。その瞬間───


(おれの想像などいかに乏しいものか······何て壮麗。これはまさに···絵にも描けない、美しさ···!!!)


ガチーンッ!!


「「石化したァーーーーー!!!」」
『嘘でしょ、鼻血の次は石化???』


体からハートを出した状態で石化したサンジに、チョッパーとカナは驚愕の表情で叫び、ティアナは若干···いや、結構引いていた。
そんなサンジの様子など気にも留めずルフィが横たわるハチへと駆け寄る。


「とにかくハチ!!お前一体誰にやられたんだ!!!」
「ニュー」
『ルフィ、サンジの事スルーなんだ』
「新しい症状だ。オカマ献血の効果かな!?」
「ちょっと待て。オカマ献血って何!!?」
「ティアナ様、わたくし···どうしたら···え〜ん!」
『しらほし姫様、大丈夫ですから泣かないでくださいっ』


サンジをスルーするルフィにティアナはツッコミ、チョッパーはガチーン!と固まってしまったサンジの治療へと向かい、カナは大量の鼻血を出した時の献血者の事を知らないので“オカマ献血”という言葉に驚き、しらほしは泣きながらティアナへと助けを求めていた。そんな彼女にもフォローを忘れない麦わらの副船長は優秀である。
ちなみにこの中で一番収拾に大変なのは間違いなく、ティアナである。

ぎゃあぎゃあわあわあと魚人達の事など置き去りにして騒ぎ出すティアナ達に、魚人達は恐る恐る目を合わせると───


「捕えたぞーーーー!!!」
「“麦わらの一味”!!!やったぞォ!!!」
「魚人島の浜人ナメんなァ〜〜〜!!!」


ルフィたちを縄で拘束した。


「ちょっと!!何なの、あんたら!!」


カナがわああああと声を上げて喜んでいる魚人達に叫ぶ中、ルフィは隣で疲れ切った様子で拘束されているティアナの顔を覗き込んだ。
色々と勝手に騒ぐ麦わらの一味を纏めていたティアナは、いつもなら捕まるようなヘマはしないのだが、彼らの相手に疲れてしまったのと島の人たちに手荒な真似はできないと考えて大人しくお縄についたのだ。今の彼女は疲労困憊である。


「ティアナ、大丈夫か?」
『うん、大丈夫だよ』


疲れた様子で頭を垂れていたティアナは、ルフィの声に顔を上げてニコリッと微笑み返した。その笑顔に微かにルフィの眉がピクリッと動くがティアナは気づかなかった。
しらほしが縄で拘束されているティアナ達を見て困惑しているのにも気づかず、魚人達はハチが昔アーロン一味だったことにまでケチをつけてきた。


「あの···違うのです、皆様。ティアナ様とルフィ様とカナ様はわたくしを·········」
「もう大丈夫ですよ、姫様。こいつら全員打ち首に···」


その時、「「『ん?』」」」とティアナとカナとルフィが同時に何かに気づいた。


「おい、お前ら。何か飛んで来るぞ!!あっち」
「何をォ!?つまらん事言ってごまかそうったって無駄だ!!」
「いいから後ろ見ろ!!」


怒鳴るようなカナの声に、魚人達が狼狽えながら振り返れば確かにこっちに一直線に向かってきている物体があった。それを目にした一人の魚人が「え!?」と目を見開く。


「───まさか!!······あれは!!!バンダー・デッケン!!?」


え、あれが···?とパッパグから話を聞いていたティアナは目を丸くした。パッパグが言っていたのはあの、四本足の奴の事だったのだ。気障に帽子まで被っている。
そうか、あれはストーカーだわ、と見た目で判断したティアナが心中で頷く。


「見ィつけたぞォ〜〜〜〜〜〜ォ!!!のハズだ!!!バホホホ!!!」


「何あの笑い方ウケる」ポツリと呟いたカナの言葉に、ティアナも少しふっと笑いながら頷いた。


「しらほしィ〜〜〜〜〜イ!!!」


バホホホホ!とカナが言うようにウケる笑い方をしながら迫ってくるバンダー・デッケンにしらほしは涙を浮かべて体を震わせた。大きいサンゴに乗ってこちらに向かってくるバンダー・デッケンに魚人達がしらほしに逃げろと言う。

カナとティアナもストーカー野郎の登場に縄で縛られた状態で冷めた視線を送っていた。いつだってストーカーは女の敵である。


「答えろしらほし!!!YESならば“死”を免れられる!!!」
「!」
「バホホホ、このおれとォ〜〜〜!!!結・婚しろォ〜〜〜〜!!!」


パンパカパーン!!と音がなりそうな程の声音で言ったバンダー・デッケンに、カナは「こんなダサいプロポーズ初めて見た」と隣で縛られているルフィとティアナをチラリと見た。よほどこの二人の時の方がロマンチックだった。
だがその視線の意味に気づかぬフリをしてティアナは戸惑った表情のしらほしを見上げて声をあげた。


『しほらし姫様!!ここで思ってること言っちゃってください!!ああいう自意識過剰なバカは言わないと伝わりませんよ!!!』


さりげなく毒を混ぜながら言うティアナの言葉に、(こいつ···)と呆れた視線を向けるカナを他所にしらほしはティアナを見下ろした。
涙を流しながらも彼女を見つめれば、大丈夫。という風に頷かれる。その桜色の眼差しにしらほしは覚悟を決めると、ぎゅっと一度唇を噛み締めて───


「タイプじゃないんですっ···············!!」


どーん!!と言い放った。
そんな彼女に(((そんな問題ィ〜〜!??)))と体を使って全力で驚く魚人達と、しらほしの言葉に思わず「『ふっ···』」と笑い声を漏らすティアナとカナ。良い気味だ。
バンダー・デッケンもしらほしの返事にひどくショックを受けたようでガーン!!と顔をのけ反らせていた。ピクピク···と震えた体は、すぐにしらほしを睨みつける。


「貴様ァ、おれの10年の想いをォ〜〜〜!!!踏みにじり誰と結ばれる気だァ!!!おれを想わぬお前など生きているだけ目障りだ。死ねしらほしィ〜〜〜!!!」


何ともはた迷惑な自己中心的な考えのバンダー・デッケンが怒りに身を任せて斧を取り出す。それを見た魚人達が「お逃げ下さい、しらほし姫ェ〜〜〜〜!!!」と声をあげる。その声に反応して動こうとした彼女を止めたのは───


『逃げないでそこにいてしらほし!!!』


ティアナの声だった。

礼儀正しく敬語を使って丁寧に喋っていた彼女が声を張り上げて自分を呼び止めるので、しらほしが「!?」と驚きながら彼女を振り返れば───ティアナとルフィとカナが鋭くバンダー・デッケンを睨みつけていた。

「お前、何言ってんだ!!さてはデッケンの手先だな!?姫に死ねというのか!!!」ひとりの魚人がティアナの胸蔵をガッと掴めば、それに反応したルフィとカナが鋭く魚人を睨みつける。殺気のこもったその視線に思わず掴んでいた手を放せば、それを確認したルフィが先程の彼女と同じくらいの声量で言った。


「遠くへ行かれたら守れなくなる!!!」


ルフィのその言葉と自分を真っ直ぐに見つめるティアナとカナの視線に、しらほしは「は···はいっ!!いますっ!!」と逃げようとしていた体をすぐにひっこめた。彼らなら必ず自分を守ってくれると信じているから。約束してくれたから。

「チェア〜〜〜〜!!!」変な声を上げて迫ってくるバンダー・デッケンに「お前ら、よくも姫様をおどして!!」と魚人たちがルフィたちに武器を構えるが───


「ごめんな、お前ら。恨みはねェけど、ちょっと邪魔だ」


ドクンッ!!


衝撃が辺りを貫いて魚人たちは泡を吹いて倒れた。
全員の体が地に倒れ伏す前に、ルフィがビュッ!!とバンダー・デッケンへと飛び上がる。
それを見送ったティアナが『カナ』と小さく名前を呼べば、わかっているという風に頷いたカナが魔力を上げた。

その間にバンダー・デッケンへと迫ったルフィが彼の乗っていたサンゴを、縛られてた状態の足で地面へと叩き落とす。


「おれとしらほしの愛のけじめの!!なぜ邪魔をする!!!」


バンダー・デッケンの声を聞きながらカナの炎の魔法で体に縛りついていた縄を燃やしたティアナとカナは、ルフィとバンダー・デッケンの戦闘に気を取られている魚人達に気付かれないように立ちあがった。


「さては貴様がしらほしを連れ出したのかァ!!!」


バンダー・デッケンの体にルフィのゴムの足が絡みつく。


「お前か!?弱虫に色んな物投げて来てた奴は!!“ゴムゴムの”ォ···!!
「二人共命は貰うぞ!!あそこにいる舞姫と炎竜も道連れだァ!!四つに重ねて八つに切ってやる!!!」


ティアナの事を引き合いに出されたルフィの眼差しが変わった。バンダー・デッケンの言葉を聞き取っていたカナも、ルフィの眼差しが変わったことに気づいて「あーあ···」と目を細める。


ウチの船長の大事な女を切るなんて······一番言っちゃいけないことなのに。


クスッと不敵に微笑んだカナと、その隣で成り行きを見ていたティアナが魔力を上げて片足に炎と水を纏う。
ルフィは鋭くバンダー・デッケンを睨みつけると、彼の体ごと足を上空に振り上げた。「やってみろ」と呟かれたルフィの言葉に、ティアナとカナが魔力を纏う足を一歩引く。


「“JETジェットハンマ〜〜”!!!」


そのままルフィは足を振り下ろし、岩へとバンダー・デッケンの体を叩きつけた。「ダベブゥ!!!」と謎の声を上げるバンダー・デッケンの体をまたも振り上げて投げ飛ばす先には───


「ティアナ!!カナ!!」
「『はいよ』」


桜色と紫色の瞳に鋭利さをにじませた滅竜魔導士ドラゴンスレイヤーの姿。
真っ直ぐにこちらへと向かってくるバンダー・デッケンに向かって、滅竜魔導士ドラゴンスレイヤーは炎と水に包まれている片足を振り上げた。


『女を泣かすストーカー野郎からの愛なんか···』
「押しつけがましい愛なんか···」
「『誰も受け取らねェんだよ!!!』」

「“炎竜の”···」
『“水竜の”···』

「『“鉤爪ェ”〜〜!!!』」


ギョッとしたバンダー・デッケンの顔面に向かって思い切り二人の足がめり込んだ。
そして蹴り飛ばされたバンダー・デッケンの体が岩へと激突して動かなくなる。いくつもの岩を破壊してようやく止まったバンダー・デッケンの体に、魚人達は急いで捕えるなら今だ、と駆け出した。


「ティアナ、怪我ねェか!?」


途中で「サメ起きろォ!!!」と苦しみで横たわっていたメガロへと頭突きを喰らわしてきたルフィがぴょんぴょんと跳ねながらティアナへと駆け寄ってくる。
そんな彼に駆け寄って縄を解いてあげながら、ティアナはへらりと笑った。


『うん、平気だよ〜』
「カナの心配もしろ、船長。」
「考えとく。」
「おいコラテメェ。」


ハチやチョッパーやサンジの縄を炎で燃やしながらカナはルフィを睨みつけた。
それをスルーしてティアナに縄を解いてもらいながらルフィが「サンジどうしたんだ!?」とやっとサンジの現状に気づけば、「さっきちょっと石になってて···今幸せそうだ。意識はあるよっ!!」とチョッパーが言った。
「人騒がせなヤツ。」『ホントに。』全員の縄を解いたカナとティアナがサンジを見ながら目を細めた。


「ティアナ様〜!」


泣きそうになりながら身を縮めたしらほしの大きな手を宥めるように撫でながらティアナはカナに目配せした。頷いたカナがサンジたちの体をメガロへと乗せる。


『大丈夫ですよ、しらほし姫様。とりあえずあたし達なんだかこの島に嫌われてるみたいなんで、ここ離れましょうか』
「ティアナ乗れ!」


伸びてきたルフィの手を掴んでメガロの上に乗れば、しらほしはメガロの口へと手をまわしてしがみつく。そして飛び上がった。


「ごめんなさい皆様っ!!お夕食までには戻りますからっ!!」
「え!?」
「戻れたらいいね」
『いや、マジホントそれ』
「行けサメェ!!!」


だが、すぐにバンダー・デッケンによって目の前の海にワダツミが現れる。バザァァン!!と現れたワダツミに魚人達は「お······大入道だァ!!!」と声を上げた。


「そいつらを叩き落とせェ〜〜〜!!!」


ティアナとカナが視線を合わせたと同時に───


「“ゴムゴムの”······!!!」
「了解ぞら〜〜!!うおおおおお!!!」
「“JET銃ジェットピストル”!!!」


見事にワダツミの前歯へと激突したルフィの拳。
「ああああああ!!」と叫ぶワダツミを置いて、ティアナ達は出発した。


『行こう、しらほし姫様!!海の森に!!』
「はいっ!!」


落ちないようにルフィに抱き寄せられながら言うティアナの言葉にしらほしは嬉しそうに答えた。