ガシャガシャの実
『きゃあああッ!』
「「ティアナーーー!!」」
足を掴まれて何度も地面に叩きつけられたティアナが、ブンッと放り投げられる。地面から起き上がり炎の翼をバサッと広げたカナより早く、ルフィがティアナを受け止めた。そのまま無数の岩を砕き、叩きつけられる。
バレットが攻撃をはじめて数分後、その場で無事に立っているのはバレットだけだった。限界までバレットの攻撃に食らいついていたティアナも先程の攻撃で大ダメージを食らい、ルフィに寄りかかってしまっていた。最悪の世代の海賊たちは、全員が大ダメージを負っている。
「クッ······楽しんでやがる······!」
“世界最強”。
その言葉が頭をよぎるほど、ルフィたちは一方的にやられてしまったのだ。
激闘の中で巻きおこった炎に照らされながら、バレットは笑った。
「カハハハ······これが、“海賊王”になる男の“強さ”だ······!」
その言葉に反応したのがルフィだった。
バレットが“世界最強”をめざすのなら、ルフィは“海賊王”をめざしている。
“海賊王”の名を口にされて、黙っていられるはずがない。
ルフィはティアナを岩に寄りかからせて勢いよく立ちあがると、土煙の中でバレットに啖呵を切った。
「お前が“海賊王”をめざすってんなら、絶対に負けられねェ!」
ルフィの周囲にあった土煙が消えると、彼の体が大きな変化を遂げていた。
「“ギア4”! “スネイクマン”!」
筋肉の浮きあがった両手両足は黒く光り、髪は逆立ち、目つきは鋭くなっている。
“ギア4”とは、体に覇気をまとった状態を維持したまま戦う、ルフィの必殺形態だ。
その中でも“スネイクマン”はスピードに特化した、強力な形態だった。
「ハッ!悪魔の能力と全開の覇気か!長くは持たねェだろ!」
さすがは長く戦いの中に身を置いていたバレットだ。彼の目立ては正しかった。
しかし言い当てられたルフィも、まったく動じなかった。
「ああ!いくぞ!!」
長く持たないならば、一瞬でケリをつければいいだけだ。
そう言わんばかりに、ルフィはコブシを繰りだした。“覇気”をまとった黒い腕がびょーんと伸び、バレットに迫る。
「ハッ!」
うなりをあげるコブシをあっさり避け、バレットは笑う。彼にはまだまだ余裕がある。
そんなバレットの左方向から、ルフィのコブシが飛んできた。
バキッ!
コブシはバレットの顔面を正確に打ちぬいた。
「なっ······!?」
何が起きたかわからず、よろけるバレット。
するとルフィのコブシがさらにバレットを追うように飛んできた。
「走れ!!“大蛇”!!」
伸びつづけるルフィのコブシは、蛇がのたうつように何度も角度を変え、標的のバレットを狙いつづけた。
「ゴムゴムのぉぉぉぉぉ!“JET大蛇砲”!!」
驚異的なスピードのコブシがバレットを襲う!
ギリギリで弾き飛ばしていたバレットだったが、背後からの攻撃がついに直撃した。
「『入ったっ!』」
「ぬぉっ!!!」
吹っ飛ばされるバレット。
すかさずルフィが地面を蹴って、バレットに向かって突進した。
「ゴムゴムのぉぉぉぉ!“黒い蛇群”!!」
両手を使っての超高速連打を叩きこむルフィ。
「オオオオオオオオオ!」
ルフィの連打は止まらない。バレットの体に全力のコブシを食いこませつづけている。
そしてトドメとばかりにはなった強力な一撃が、バレットに「ドゴォン!」とさく裂した。
しかしバレットは倒れることなく、立ったまま地面を滑っていく。
「バケモンかよ、あいつ······!」
『バケモンだよ······』
カナが呟く言葉に、最悪の世代も思わず頷くと、痛めた右腕を押さえながらティアナが言った。
「カハハ······さすがは十五億······骨があるじゃねェ······かっ!」
叫ぶと同時に突進し、ルフィのお腹を殴るバレット。
「ぐぁぁぁぁ······くっ!」
たった一撃でルフィは苦しそうな声をあげた。
しかしすぐさま気を取りなおし、バレットに反撃する。
凄まじいパンチの応酬がはじまった。バレットがルフィを挑発する。
「どうした!それでしまいか!」
「ああ!これで終わりだ!」
ルフィはそう言うと、ひときわ大きくコブシを引いた。
バレットも受けて立とうとかまえを取る。
そんな彼のコブシは、黒く染まっていた。“武装色の覇気”をまとったのだ!
「ゴムゴムのぉ〜〜!!」
「とっておきで来い!麦わらァ!!貴様の“力”を見せてみろ!」
「“王蛇”!!」
ルフィのコブシが突進中に「ポシュッ!」とふくらんだ。
巨大化したコブシはうなりをあげ、バレットに向かっていく。
「「うおおおおおおお!」」
ルフィとバレット、たがいの叫び声が重なり、たがいのコブシが空中で交差した。
そして、たがいのコブシがそれぞれの顔面を同時にとらえた。
ドゴォォォォン!!
最初の衝撃に耐え、ルフィとバレットの顔はメキメキと音を立てている。
しかしそれも一瞬だった。
二人は「バチィン!」と弾かれたように吹き飛ばされた。
ルフィは口から煙を吐き、空気の抜けた風船のように飛んでいく。
「ティアナ!行かなきゃ!」
『うえっ!? え、ちょ、まっ!』
カナに言われて急いで水の翼を広げたティアナが高速でルフィの落下地点へとすべり込み、何とかキャッチした。
『ルフィ!大丈夫!?』
「ハァ······ハァ······あァ······ハァ······」
ルフィの息が荒い。
しかしティアナに抱き留められながらも、目はしっかり開いてバレットの飛ばされた方をギロリとにらんでいた。
バレットはガレキの中に突っこみ、姿は見えない。
「ハァ······ハァ······ハァ······悪ィ、ティアナ······もう大丈夫だ······ハァ······」
あいかわらず息が荒いルフィだったが、気力を振り絞って体を起こしていた。ティアナがその体を支える。すると───
「効いたぜ麦わらァ。強ェヤツは嫌いじゃねェ······」
すぐ起きあがったバレットが、土煙をかきわけるように、スタスタと歩いてくる。
あれだけのパンチを喰らっていながら、平気で動けるとは······。
その驚異的なタフさに、最悪の世代の海賊たちはおどろきを隠せずにいた。
「だが、貴様も、貴様の部下も······全員おれが殺す。おれの“最強”への野望のためだ!」
その言葉を聞いたルフィは、立ちあがってバレットをにらみつけた。ティアナを庇うように前に立ち後ろに下がらせる。
「最強なんて勝手にやってろ!これ以上おれの仲間に手ェだすな!」
「ヘドが出るぜ!この海は戦場だ!」
バレットはニヤリと不敵に笑うと、右腕をあげてコブシを地面にたたきつけた。
ドゴォォォ······ビシィ!
バレットを中心に、クモの巣のように地面に大きな亀裂が入った。
信じられないことに、島が割れたのだ。
地面が揺れ、ルフィたちはその場でよろけた。すぐさまルフィがティアナを抱きしめる。
「“強さ”こそがすべてだ······!」
確信をもってそう言うバレット。そんな彼の背後で「ボゴォ!」と地面が盛りあがり、不気味な振動をともなって“何か”が出てきた。
その“何か”はバレットを地面から持ちあげ、そのまま姿をあらわした。
「なんだっ!?」
ベッジがおどろきの声をあげた。地面から出てきたのは、超巨大な潜水艇だった。
分厚い鉄板で造られた無骨な船体は、バレット同様にとても頑丈そうだ。
「おれの船······このカタパルト号には、ありとあらゆる武器や鉄がしこまれている」
船首部分に乗ったバレットが、ルフィたちを見おろして語っている。
一体何をはじめようとしているのか。
ルフィたちはあ然とバレットを見上げた。
「ユニオンアルマード!!」
不意にバレットがそう言うと、船の手すりをつかんだ彼の両手が青白く光り輝きだした。
手すりがガシャガシャと不気味な音を出す······。
「まさか······」
「悪魔の実······!」
カナとボニーが思わずつぶやいた。
そう、バレットは悪魔の実の能力者だったのだ!
バレットのつかんだ手すりは、キューブ状のパズルのように分解されていく。
そしてその現象は、潜水艇全体に広がっていく。
「おれは“ガシャガシャの実”の合体人間!あらゆるものを合体させ、変形することができる!」
ガシャガシャとキューブ状のパーツになった潜水艇は、つぎつぎにバレットの体にくっついていく。
「自らの力と、最強の能力!」
ドレークとキッドがその様子をぼう然と見つめながら言う。
「あの強さに加えて能力者とは······」
「どうなっちまうんだ!?」
バレットの変化はつづく。
「弱ェヤツはこの海では生きていけねェ······さっきの長っ鼻のようにな」
ルフィとティアナとカナが「!」と反応する。
「使えねェ部下は切り捨てろ、麦わら······」
「何言ってんだお前!そしたら宴ができねェじゃねえか!バカか!!」
アドバイスを与えた相手にバカと言われ、バレットはイラついた表情を見せた。
「はっ······言うよねェ、ルフィは」
『ったく······』
自分たちの船長の言葉に、ティアナとカナはあきれながらも笑みを浮かべる。
「救いがてェバカはてめェだ!キサマらの言う仲間は“弱さ”だ!あのバケモノだった白ひげのじじいですら、てめェの部下のために死んじまった」
白ひげ······エドワード・ニューゲートは世界最強の男として“偉大なる航路”に君臨した大海賊だ。二年前に海軍本部で行われた“頂上戦争”で、命を落とした。
「ロジャーもそうだ······死んだヤツはみな敗北者だ!それが仲間などとほざいているヤツの限界だ。このおれの強さはおれ一人だけが勝つためにある!」
海賊王の名を口にして、怒りの形相で叫ぶバレット。
そんな彼の体には、ガシャガシャと分解された潜水艇のパーツが集まってきている。
ルフィはバレットをにらみつけながら、はっきりと言いきった。
「そんなもんに、おれは敗けねェ!」
どこまで行っても、両者の言い分は平行線をたどるばかりだ。
バレットはあきれたように笑った。
「ハッ!ほざくなら、こいつを奪いかえしてみろ小僧!」
バレットは右手に宝箱を持っていた。宝島でみんなが奪いあった。“海賊王の宝箱”だ。
「死にゆく貴様らに教えてやる。こいつは本物のロジャーの宝だ」
そこまで言うと、バレットはもったいをつけるようにみんなの顔を見まわした。
そして「ニッ」と笑うとその言葉を口にした。
「この中にゃあ······“ワンピース”が入っている!」
バレットがそう言った瞬間、ルフィをはじめ最悪の世代の海賊たちが絶句した。
「ワン······ピース······」
おどろきを隠せないルフィの目の前で、バレットの潜水艇が発していたガシャガシャという音が止んだ。
潜水艇のパーツをまとったバレットは、まるでロボットのような姿になっていた。
両腕が異様に発達した恐竜のようにも見える。
「最後だ······!せいぜいあがいてみせろ!!」
不敵に笑ったバレットは、ルフィたちに向かって叫んだのであった。
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