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フェスタの思惑

海軍がやってきたとわかった後も、ダグラス・バレットは微動だにせず立っていた。
周囲には逃げまどう海賊たちの声が飛びかっているが、彼はじっと、ルフィやキッドをはじめとする、最悪の世代の海賊たちを見ていた。


「隙がねぇ······」


ベッジがいまいましげにつぶやく。


「狙いは宝だけじゃねぇのか······?」


ボニーは緊張感をただよわせている。
キッドは今にも爆発しそうな怒りの表情だ。
そんなキッド以上に怒っていたのが、他ならぬルフィだ。


「おいお前······おれの仲間に手ェ出して······覚悟できてんだろうな······!」
「仲間?宝一つも守れねェこのカスのことか?」


バレットの言葉に、ルフィの怒りがより大きくなる。


「最悪の世代ってのが強ェらしいな······宝が欲しけりゃ、全員かかってこい」


そして目をかっと見開き、周囲を威圧するように体に力を入れた。
するとバレットの体から、波動のようなものが「ズゥゥゥン!」と放出され、ドーム状にあたりに広がっていった。
その波動にあてられた海賊たちが、白目をむいてバタバタと倒れていく。


「! “覇王色の覇気”······」


波動に耐えながら、ドレークがつぶやく。


「まさに修羅······」
「とんでもねェな······!」
「上等だ!」
「あいつも使えんの!?」
『みたいだな』


覇気に耐えながら、ウルージとアプーとキッドとカナとティアナもつぶやく。

“覇王色の覇気”は相手を威圧する力だ。

選ばれし人間しかあつかうことのできない特別な“覇気”で、精神の弱いものはその身に受けるだけで、たちまち意識を失ってしまう。

ルフィも“覇王色の覇気”に耐え、じっとバレットをにらみつけている。
するとルフィが、その眼を大きくカッと見開いた。
ルフィの体から、波動が「ボゥゥゥン!」とドーム状に広がる。


“覇王色の覇気”だ。


そう、ルフィも“覇王色の覇気”を使える、選ばれし人間なのだ!

ルフィとバレットの覇気がぶつかり合い、「バリバリバリバリ!」と耳障りな音が鳴っていた。
たがいに一歩も引かない覇気のぶつけ合いだ。

バレットはどこか余裕の表情で、その勝負を楽しんでいるようだった。

そして───


バシィィィン!


ひときわ大きな音を出して、ルフィとバレットの“覇気”が消え去った。
するとバレットがおもむろに口を開いた。


「······どうした?最悪の世代。ビビって動けねェか?」


その挑発にまっ先に反応したのが、最悪の世代の中で最も血の気の多いキッドだ。


「!!」


額に血管をピキピキ浮かびあがらせながら、バレットをにらみつけている。
アプーはポリポリ頭をかき、やれやれといった表情だ。
ボニーとベッジは顔をしかめ、ドレークは覚悟を決めたようにその場に立っている。
ホーキンスはまったくの無表情だ。自身に死相が出ていないので、死ぬことはないと考えているのだ。
ウルージだけがニカッと笑っている。これも運命と悟り、目の前の事態を受け止めている。
そんな中、バレットと覇気をぶつけ合ったルフィが、コブシをボキボキ鳴らしながらティアナを庇うように一歩前へ歩みでた。


「お前の相手は······おれだ!!」
「フ······」


ルフィの発言を受け、バレットがニヤリと笑った。

ゾロは一歩引いてルフィを見ている。船長が自分でやると宣言したのだ。ここはルフィに任せて、自分は身を引くのが正解だ。
そんなゾロの耳に、ナミの声が聞こえてきた。


「ティアナ〜〜〜!ゾロ〜〜〜!カナ〜〜〜!」


ナミはサニー号の上から身を乗りだし、ゾロとティアナとカナに呼びかけていた。
サニー号は落下の衝撃に耐えたようで、なんの問題もなく水に浮かんでいた。多少の傷はあるだろうが、それはクルーを守った証し。海賊船にとっては勲章のようなものだ。


「私たちはサンジくんたちと連絡とって、脱出の準備をするわ!あの軍艦の数は簡単には抜けられない!何か考えないと!」


ナミの言葉をティアナたちとともに聞いていたルフィは、即座に決断をくだした。


「ウソップは任せろ!サニーを頼んだ!」
「わかった!ティアナ、カナ!ルフィのこと頼んだぞ!」
「『任せて!』」


ゾロも即座に返事をしてティアナとカナに声をかけるとサニー号に向かう。
するとそんなサニー号に近づく船が一隻······。
船には巨大なルフィの形をした船首がついている。あんな船は世界に一つしかない。麦わらの一味の大ファン、バルトロメオの船だ。


「先輩方〜!おらたづにも何か手伝わせてほしいべ〜!」
「ゲ!何あれ」
「! お前ら!」


ナミはギョッと顔をしかめていたが、ゾロはニヤリと笑った。


「よし!ついてこい!」


勇ましく指示すると、しっかりした足取りで左に向かうゾロ。


「ゾローー!逆逆ーー!」
「い゛っ!?」
「奇跡!?」


まったくの逆に向かうという奇跡的なまちがいをしたゾロに、ナミが正しい道を教えた。


「ゾロ先輩!さすがだべ〜!」


バルトロメオとその仲間たちは感激している。
麦わらの一味の大ファンの彼らは、ゾロが極度の方向音痴であることは当然知っていた。


「ぼくもやってきたんだぞ!ちゃんと感謝しろ!」


バルトロメオの後方から叫んだのは、キャベンディッシュだった。
自分以外の人間が目立ちすぎて、ちょっとくやしそうだ。


「巻き込まれないうちに逃げろォ!」


数多の海賊たちは自身の海賊船に乗り込み逃げていく。
ゾロたちが去ると、その場に残ったのはティアナとカナとルフィたち最悪の世代と、バレットだけになった。


「ティアナ、無茶すんなよ」
『わかってる』
「ま、あいつ相手じゃ難しいかもね」


ルフィの言葉に応えたティアナが片方のピアスを外して魔力を高める。カナもニヤリと笑って魔力を高めた。冷たい冷気がティアナの体から溢れ、熱い熱気がカナの体から溢れる。シャランッと二人のブレスレットが音をたてた。


「オールドルーキーが!シャバに出てきてはしゃいでんじゃねェよ!」


キッドが悪態をつくと、バレットが静かに口を開いた。


「······来い。手はじめは貴様らからだ」


ルフィはバレットの視線を受け止め、戦闘態勢に入った。

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