男の名はZ
遭難者発見!
火山灰の帯を頼りに進んだ〈サウザンドサニー号〉が遭遇したのは、大量の漂流物と、丸太につかまっていた遭難者だった。
「ああっ!流れていっちゃうよ!」
「まかせろ!」
海流が速い。船とすれちがって、流されていきそうになった漂流者めがけて、ルフィがゴムの腕をのばした。
ところが───
漂流する男の腕についていた、金属の筒のようなものをつかんだとたん、ルフィの表情が変わった。
『ルフィ?どうしたの!?』
「なんだか······チカラが抜けるぅ〜〜······」
ヘロヘロになってしまった船長を見て、ウソップとサンジとカナがあわてて助けに入った。
「よいしょ、よいしょ······!」
「まだ手、放すなよ!」
「おっも······!」
ルフィが遭難者をつかんでいるあいだに、ゴムの腕をたぐって船にひきよせた。
「「「せェ〜のっ!」」」
チカラをあわせて船内に遭難者をひきあげる。
ルフィは、ゴムの腕をのばしたまま、ティアナに寄りかかってすっかりヘバってしまった。
***
船の医務室。
船医のチョッパーが、聴診器をあてて、救助した遭難者の容態を診ていた。
「しかし、でけェ爺さんだな」
「どうだ?生きてるか」
サンジとウソップがたずねた。
七十は越えていそうな老人だったが、身の丈は一味のだれよりも大きくて、足がベッドからはみだしてしまっている。
「気を失っているだけで命に別状はない、ただ、このお爺さん、ずいぶん心臓と肺が弱っている······」
「また、やっかいなもの拾ったんじゃないの?」
心配性のナミの顔には懸念があふれた。なにしろ老人といっても筋骨隆々。いかにも悪そうな、サングラスをかけたマッチョの大男だ。
『───キズだらけのゴツい体。それに右腕についている
義肢······見るからに、ただものじゃないわ』
義肢の先には砲口が見てとれた。機械の手というよりは武器だ。これは
鉄人───フランキーとおなじだ。
ロビンが、そっと指をのばして遭難者の男の義肢にふれた。
「んっ······」
円筒形の義肢についた大きな爪のパーツにふれたとき、ロビンは、ふいに立ちくらみを起こした。
自分の手のひらを見つめて、改めてティアナとナミに話しかける。
「やはり、これ海楼石でできているわね」
「『え······!』」
ロビンは自分の身体で、ためしたのだ。彼女も能力者だった。
悪魔の実の能力者には、共通した弱点がある。海に落ちると、自力では浮かぶことができず、溺れてしまうこと。海水に直接、体がふれていると能力を発揮できなくなること。指先を海水につけただけでも体に異変をきたしてしまうのだ。
ロビンがいった海楼石とは、海の性質を備えた貴重な鉱石だった。これに直接ふれた悪魔の実の能力者は、海に落ちたときとおなじように能力を失って、たやすくとりおさえられてしまう。
「だからルフィがさわったら、チカラが抜けちゃったのか」
能力者のチョッパーは、男の右腕の義肢にはふれないようにした。
『海楼石の武器を、腕に仕込んでいるなんて······』
「「「「かっこいいなァ!」」」」
ルフィ、ウソップ、チョッパー、カナが合唱した。
「ちがうでしょ!」
「ティアナちゃんとナミさんのいうとおりだ!海とおなじエネルギーを発する海楼石······それは、おまえら能力者をしとめるために作った武器だぞ!」
ナミとサンジが同調した。
敵かもしれない。
ナミの懸念は現実になった。少なくとも味方であるという保証はない。〈新世界〉では、油断は死への片道切符だった。
「これ······簡単に外れないや」
カナは男の義肢を腕から外すのを、あきらめた。
「悩むなら、捨てちまえ」
「そんなことできないよ!」
チョッパーが、非常なことをいうゾロを見かえした。
「治してやったとたん、おまえを殺すかもな」
「うっ······」ゾロがいったことが、海賊にとっては正論だったゆえに、チョッパーはビビってしまう。「······だけど!おれは船医だ!見捨てられない!」
仲間たちは迷った。
船の仲間は、海の上では一蓮托生だ。ひとりの判断ミスが、全員の命を危険にさらしてしまうことになりかねない。
「治してやれよ、チョッパー!」
船長がいった。
「ルフィ?」
「ほんで、もし敵だったら、おれがブッ飛ばしてやる。それでいいな······?」
「うん!」
頼もしい言葉に、チョッパーはうなずき、笑みをかえした。
「ま······勇敢な海の戦士なら、当然だな」
ウソップが尻馬に乗っかった。
「もう、能天気なんだから······」
『ほんとに。ったく、ほんと嫌な予感しかないわ』
ルフィのお気楽ぶりに、ナミとティアナが肩を落とした。
「ワクワクするだろ!」
「『こんなワクワク、いらんわ!』」
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