Zの行方
Z艦隊から逃走した〈サウザンドサニー号〉は、たどりついた名も知れぬ島の
船渠に入って、修理をおこなっていた。
「アウッ!ルフィ!サニーは、おれが完璧になおしてやる!」
傷ついた船を見つめる船長を、船大工が元気づけた。
宝樹アダム材で造られた船は、Z艦隊の集中砲撃にも耐え抜いた。ほかの船であれば、海の藻屑となっていただろう。とはいえ艤装や甲板上のデッキハウスなどは、かなりの被害を受けていた。
「───ちょっとだけ時間がかかるが······そのあいだに、おまえはZを追うんだろ?」
「ああ!サニーを頼む!」
ルフィは鼻息を荒くした。
船渠近くの堤防の上では、ナミが金勘定をしていた。
「これは
船渠の使用料、これは宿賃で······」
「ごめんな〜、おれが、あの爺さんを助けるっていったばっかりに······」
そういったチョッパーも、ナミも、どちらも、ちびっこになってしまった。
『モドモドの実』の能力者、女提督アインの言葉を信じれば、ワンタッチでマイナス十二歳。
二十歳だった航海士は八歳に。
船医は、わずか五歳相当だ。
記憶や知識はそのままのようだが、自分の年齢以上、まきもどされてしまうと、存在そのものを消されてしまうらしい。
『あやまらないの』
しょぼくれていたチョッパーに、今までいなかったティアナが声をかけた。
「ティアナ!あんた、起きてて大丈夫なの?」
『うん、まあね』
Zとの戦闘でぐったりとしていたティアナは今さっきまで
船渠の人の家で少しばかり休んでいたのだ。休んでいる間ルフィもカナもナミも傍から離れなかったが、ゆっくり休ませた方がいいという意見にしぶしぶ離れた。
それが今、両腕に包帯を巻いた格好でカナと一緒にナミたちの元へとやって来た。
Zに力一杯握りしめられてしまったために、細いティアナの腕には青い痣ができてしまった。それを悔しそうに見つめるルフィを横目に、ティアナが休んでいる間にチョッパーが手当てをしたのだ。
心配そうにティアナを見つめる仲間に〈麦わらの一味〉の癒しの歌姫はいつものように可愛らしい笑みを向けて、チョッパーの頭を優しく撫でる。そしてナミの隣に腰掛けた。
「チョッパーは悪くない。カナたちは、わかってるよ」
カナが声をそえる。
海賊たるもの、信念に従ってやったことを後悔するものじゃない。
チョッパーは仲間たちに「ありがとう」とかえした。
「ネオ海軍······Zって、何者なんだ?」
ウソップが、
義手の男を思い出して、また冷や汗をかいた。
あの爺さんは、とにかく、ケタちがいだった。
「おれたちが海賊だってわかったら、いきなり襲いかかってきたんだ!」
チョッパーが説明した。
「出会い頭で、こっちが立ちなおる前に、やられちまった······チッ!あの忍者野郎の能力も、やっかいだぜ!」
サンジは悔しそうにした。
忍者ビンズは『モサモサの実』の能力者だ。そのチカラは植物を自在にあやつるもので、何人がかりであろうと、みな捕まってしまった。
「つぎは、きっちりカタをつけてやる!根性だしたサニーのかたきも、討たねェとな」
ゾロは決意をあらたにした。
「ティアナを傷つけたお礼もしっかりしないとね。まぁ、それはルフィがするだろうけど」
カナもぐっと拳を握りながらうなずいた。
「サニーのがんばりとティアナの水の盾がなかったら、わたしたちネオ海軍の総攻撃で、全員、海に沈んでいた······!」
「ネオ海軍を捜しだして、ちゃんとお礼しなきゃね」
ロビンが、ちびナミとティアナにいった。
『ああ』
ティアナもぐっと拳を握り締めて、目を細めながら〈サニー号〉を見つめた。その手をちびナミが握る。
ハッとしたティアナがちびナミを見ると、心配そうにこちらを見上げていた。その顔に微笑み返していつもよりだいぶ小さいちびナミの手をティアナは優しく握り返した。
「え?マジかよ!あんな危ない連中に近づきたくねェよ!」
〈サニー号〉の修理が終わるまで、この島でおとなしくしていよう、とウソップが提案した。
「なにいってるの?あいつら見つけないと、わたしの体、もとにもどらないじゃない!」
「おれだって、このままじゃ嫌だぞ!」
ちびになったナミとチョッパーが主張する。
こどもの体じゃ、なにもできない。
〈新世界〉の航海は、これまで以上に過酷だ。航海士として船医として働くためには、ぜったいに、もとの年齢の体にもどらねばならない。
「わたしも、もどしてもらわないと困るわ」
「ロビン······おめェはピチピチ十八歳になって、実は、よろこんでるだろ」
口が軽い狙撃手が下品なジョークをむけたが、そういうのが嫌いなロビンは、ウソップの全身に無数の手を咲かせた。その場で押さえつけられたウソップは、悲鳴をあげながら謝罪する。
「バカじゃん、ウソップ······」
カナはウソップを哀れそうな目で見つめた。
「ったく、レディたちが困っているのに······ふざけたこといってんじゃねェよ!······ん?でも待てよ······」
タバコをふかしながら、サンジは重大なことに気がついた。
ナミは今、八歳の子供。
ステキ眉毛の視線にさらされると、ちびナミは、きょとんとした愛らしい仕草で、ツインテールにしたオレンジ髪をゆらした。
「───これから、ナミさんの体が大人に成長していく貴重な日々を、ともに、すごすことができる······!蛹が蝶になる瞬間を見られるってのも······すげェ〜ことだ!」
サンジの脳内で、八歳から二十歳までの乙女の成長が、たくましい妄想力で自動再生された。
ちびナミはサンジの言葉に「えっ!?」と頬を赤くしてティアナの後ろにすぐさま隠れる。ティアナはそんな彼女の頭を撫でてやりながら相変わらずなサンジに苦笑いした。
「キモい。」
「あァ!オロすぞ、マリモ野郎!」
サンジは妄想のジャマをしたゾロに、くってかかった。
「てめェがガキにもどってりゃ、おれが踏んづけてやったのになっ!」
「バーカ。おまえを倒すのに、おれはガキで充分だ」
「なんだと!じゃあおれは、もっとガキの三歳児で、おまえをブチのめしてやる!ブゥァ〜〜〜カ!」
「あ〜······?それなら、おれは赤ん坊で充分だ!」
「あ〜?だったら······!」
『はいはい、ケンカしてる場合じゃないでしょ』
つまらない意地のはりあいをしている剣士とコックのあいだに、ティアナが割って入った。
「ほんとにすぐケンカするんだから······」
カナは呆れかえった。
「あの······実は、わたしも年齢、もどされてしまったんですが······」
ブルックがいうと、一同は「え?」と音楽家をふりかえった。
「なにも······」
『変わってないように』
「見えるゾ」
いぶかる仲間たちに、ブルックは説明した。
「わたしも、あのネオ海軍の女提督さん······アインという方に、ふれられたのです。死んで骨だけブルック。わたし五十年以上、
死体やってますが······今までにない大変化です!」
「なにか変わってるか?」
「十二年ぶん若がえって······」ブルックは両手でアフロヘアーをなでると、ファサッ、とかきあげた。「ほら!髪の毛に七十代のつやと、うるおいがもどりました······ハイッ!」
「「「「『わからねェ!』」」」」
全員がツッコミを入れた。
ブルックは九十歳だったから、今は七十八歳。どっちみちガイコツなのは変わらない。
「じゃあ
ブルック、若がえってうれしいんだな?もどらなくていいんだな」
サンジがたずねた。
「あ······そういうことになりますね。······いえいえ!ダメですよ!わたしも、もとに······もどりたいんですか?わたしは」
「知らねェよ!」
ガイコツ男が自問自答をはじめると、みんな、どうでもよくなった。
『ナミたちをもとに戻すには、Zとネオ海軍の情報を、いちから集めるしかないのか······』
「こりゃ、時間がかかるね······」
ティアナとカナは顔を見合わせて途方に暮れた。
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