計略の海へ
『カナ!翼!翼広げろって!!』
「できたらやってるよバカァ!!」
島で追いかけられていたティアナとカナはこんな言い合いをしながら逃げていたため、島の端にまで来ているとは知らず、ふたりはそのまま岸壁から───落下した。
「『うわああァァーー!!』」
下に見えたのは火口のカルデラ湖だった。山裾には熱帯性のジャングルが広がっている。どうやら夏島のようだ。
時は同じくして火口のカルデラ湖にいたナミは眼下を見下ろして声を上げた。
「〈サウザンドサニー号〉······!」
ナミは、山麓に着地した〈サウザンドサニー号〉を発見した。
すぐにエレキ鳥をむかわせる。
宝樹アダムで造られた船は、さいわいにも落下の衝撃に耐えたようだ。
ナミが船に乗り込もうとしたとき、森の片隅で地響きが轟いた。
藪をわけて、だしぬけに現れたのは───
「あっ!〈サニー号〉!」
「ルフィ!?」
なんと、麦わら帽子の船長ではないか。
「あ〜〜〜!ナミ!」
探しものをいっぺんに二つも見つけて、ルフィはニカッと笑った。
ところがナミは、顔をひきつらせて、くるっと背中をむけて逃げ出した。
首をひねったルフィの背後で、ヤシの木がメキメキと音を立てて倒された。
現れたのは毒針と鋏を備えたサソリ。生物界の戦闘マシーン・
兄弟黒蠍だ。
「よかった、無事で!よく逃げ出せたな、シキたちから!」
「こっちに来るなぁ〜〜〜!」
怪物たちをひきつれて追いかけてくる船長に、ナミは叫びかえした。
そのとき、翼が、ルフィとブラックブラザーズめがけて突っ込んだ。
バリバリッ───と空気がふるえて放電攻撃が走った。
ナミがふりかえると、そこには、ひっくりかえって痙攣する三匹の蠍の姿があった。
「おおおおおおおおおっ〜!」
いっしょに電撃をくらったはずのルフィは、ぴんぴんして、エレキ鳥の放電攻撃に目を輝かせた。この無邪気少年は、秘密兵器っぽいものに目がないのだった。
その時、ジャングルの中から
大芋虫が現れた。
「イ〜ヤァ〜〜〜!!」
オオイモムシにナミが悲鳴を上げてルフィが身がまえたその時───
「うわああぁぁァァーー!!」
上空からカナが降ってきて、オオイモムシの背中にすごい勢いで激突した。土煙が晴れたそのすぐあとに、続いて上空からもう一人が降ってくる。それと同時にバサッと翼がひらく音が聞こえた。
『よっとっ!』
ティアナはオオイモムシに当たる寸前で水の翼を広げて速度を落とすと、ズドンッと派手な音を立ててオオイモムシの頭に両脚で着地した。
「うわっ!?何コレ!?」
『イモムシってところじゃない?』
のんきに会話しながらふたりにKOされたオオイモムシの上から退くと、その姿を見たルフィとナミが声を上げた。
「「ティアナ!!」」
『ん?』
呼ばれた方に顔を向けると、そこにはこちらに駆け寄ってくるルフィとナミとその後ろでこちらを見ているエレキ鳥の姿があり、ティアナはやっと会えた親友と最愛の彼にパアアッと顔を輝かせた。
『ルフィ!!ナミ!!無事だったんだね』
「ティアナ〜〜〜!!」
飛びついてきたルフィを受け止めきれずに、ティアナはそのまま地面に倒れ込んだ。ガンッと頭を打った音が響く。
上から覆いかぶさるようにルフィがティアナを強く抱きしめた。
「大丈夫だったか!?ケガねェか!?」
『う、うん······今ちょっと頭打ったけど大丈夫······』
「頭打ったのか!?くっそォ、今すぐおれがぶっ飛ばしてきてやる!!」
「あんたのせいよ!!」
頭を擦るティアナの姿にルフィが身を起してジャングルに戻ろうとすると、ナミの鉄拳がルフィの頭に落とされた。
ナミはティアナに駆け寄って思い切り抱き着く。
「ティアナ!」
『ナミ!よかった······あいつに何もされてない?』
「ええ、大丈夫よ」
とりあえず感動の再会が終わった所で、静かに成り行きを見ていたカナがルフィとナミに声をかける。
「あの〜カナは?」
「あ、カナいたのか。よかった、無事だったんだな!」
「カナ、いたのね。無事で何よりだわ」
ティアナの時よりも反応が薄いルフィとナミにカナはピクリと眉を動かした。
「そんなにおまえらの目にはティアナしか映ってなかったのか?」
「当たり前だろ!!」
「当たり前じゃない!!」
「わかってたよ、チクショウ!!」
いつも通りのやりとりにティアナはナミに抱き着かれながらクスクスと楽しそうに笑ったのだった。