暁のヨナ | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

龍の爪


「白蛇様、お疲れでしょう、慣れない旅は。」

「もう一度白蛇と呼べばその喉掻き切るぞ。これきしで疲れるか。」

「やー、そろそろ里が恋しくなった頃かなーと。」

「何を言う、姫様方が私を望まれたのだ。

もしもの時はそなたを守れとな。」

「箱入り坊っちゃんが闘えますかねぇ。」


ランの頭上で繰り広げられる言い合いに、様子を見ていたアキが、いい加減にしろ。と止めに入ろうとすると、



ごんっ



『しずまれぃ。』


ランの両拳がハクとキジャの顎に激突した。
ヒリヒリと痛む顎を押さえる二人を見ていたアキが、言わんこっちゃない。とため息をつく。


『これから一緒に旅をするんだからモメないの。』

「申し訳ありません、姫様。」

『ハク!キジャは初めて外に出て不安でいっぱいなんだからいじめない!』

「私はそんなっ。」

『キジャ!ハクのいじめっ子は趣味だから気にしない!』

「しゅみ…?」


ランの言葉に呆けた顔をする二人を見ていたアキとヨナが顔を見合わせて苦笑すると、ユンが地図を持ちながらキジャに話しかけた。


「キジャ。あ、俺は天才美少年ユン、よろしく。
他の龍の気配わかるんだよね?一番近いヤツ教えて。」


その言葉にキジャは目を閉じる。


「───最も近く感じるのは…恐らく、青龍…」

「へぇ、誰がいるとかわかるんだ。どこ?」

「そうだな。向こうが、何かもやっとする。」

場所は見事に大ざっぱだね。


草木の方を指差すキジャに目を細めるユン。


「案ずるな。皆、私の後をついてまいれ。」

「案ずるよ!生まれて初めて外、出たヤツについてくのは案ずるよ!」


ユンの突っ込みにアキも思わず頷くと、キジャは「外に出ていなくも外の世界の事は知っている。」とむうっと頬を膨らませながら言った。


「我が一族は各地に飛んで国の情報を集めていたのだから。」

「あ、キジャ。そこは…」


歩みを進めるキジャにアキが声をかけたが、少し遅かったらしく、キジャは「わ!」と足を踏み外した。
落ちた先にいたのは大量の虫。


「ななななな何だ、この者達は。誰の許しを得てこんな所に居を構えているのだ!?ま、待てよせ、それ以上は……あっ

いやあああやめてこないでぇぇぇ!

白龍様は最後尾をのそっとついて来な。


呆れたように目を細めながら親指をくいっとするユン。
自力で穴の中から上ってきたキジャの傍にハクがしゃがみ込む。


「龍神様は虫より弱いんですねぇ。」

「ちっ違うっ。私はワサワサモサモサニュルニュルした物が嫌いなだけだっ。」

「表現の仕方悪い。」


涙目になりながらそう言うキジャに突っ込みを入れたアキは腕を組みながらハクの隣に立ってキジャを見下ろした。
自身を不思議そうに見上げてくるキジャに(そういえば自己紹介してなかった)と心の中で呟くとアキは軽く自己紹介する。
それに頷いたキジャは穴から完全に出ようと腕に力を加えながら口を開いた。


「我が力は誇り高き白き龍より賜りし神の力。常人のものと思うな。」

「まぁ、なんでもいいさ。埃かぶった古の力なんぞアテにしてねェんで。」

「何…っならばこの場で試してみるか!?」

「ほう…」

「ちょっとあんた達…」


また言い合いになりそうな二人を止めようとするアキにそれに気づいたランとヨナが駆け寄った時、三人は何かに気付いた。
ハクとアキがランとヨナを背中に隠す。


『ハク…?アキ…?』

「姫さん、隠れて。」

「誰か来る。」


アキの言葉にユンが「誰かって誰さ?」と訊き返すが三人は気配のする方をじっと見たままユンの言葉に返事をすることはなく。


「しかも結構な数だ。」

「あまり品のいい足音ではないな。」

「ヤバイよ。ここ、火の土地のご近所さんなんだから。」

「火の部族は敵か?」

「まぁ、ほぼ敵ね。」


顔に両手を当てて叫ぶユンにキジャがそう問いかけると槍を握り直したアキがそう答えた。


「はーい。アキ、弓を使っていい?」

「師匠は許しません。」

「師匠は姉様よ。」

『じゃあ、私は?ハク。』

「許しません。姫さんと一緒に隠れてなさい。」

「『はーい。』」


ランとヨナはハクとアキの荷物を持つとユンと一緒に草むらに隠れた。
そのとき「おい。」と呼ぶ声が聞こえてハクとキジャとアキが背中合わせに相手を見据えると、ザッと大勢の男が三人を囲んだ。


「こんな所にエモノがいたぞ。」

「なんだよ、大したモンは持ってなさそうだな。」

「…なんだ、山賊か。」

「期待したのに。」

「なんだとはなんだ?」


ハク、アキ、キジャがそう言うと山賊は草むらに隠れて此方を見ていたランとヨナとユンに視線を向けた。


「そうでもねぇぜ。あっちに女が3人。」


その言葉にユンが「美少年だよ。」と小さく返す。
すると山賊の一人がナイフの刃をぴしぴしとキジャの頬に押し当てた。


「この兄ちゃんなんか良い身なりだし、売れそうなツラしてやがる。そこの兄ちゃんもな。」


そう言って視線を向けるのはアキで。
当の本人は、だから男じゃないって。と呆れたようにため息をついてた。
動きやすいからこの服装選んだのに…とアキが落ち込むと。


「───おい。まだそなたらの詳しい事情を知らんのだが、とりあえず刻んで構わんのだろう?」

「「隠れてても構わんよ。」」

「誰が。」


アキとハクの言った言葉にキジャがそう返すと、その身を屈めた。
スウ…とキジャの周りの空気が変わり始める。


「ん?何だ、兄ちゃん、震えてんのか?
心配すんなって大人しくしてりゃ殺したりしねーから…」


と言って山賊がキジャの右手に触れると、バチッと手に焼かれるように痛みが走り座り込んだ。
そんな山賊に仲間が「どうした?」と声をかける。


「わかんねーけど、こいつの手沸騰してるみてェに熱い。」

「はあ?何バカ言って…」


包帯の巻かれている右手が脈打つとシュルシュルとそれに耐えれないというように包帯が取れていく。


「不用意に…触れぬほうがよいぞ。数千年…主を守る為に待ちつづけたこの力…私でさえ抑えがきかぬ。」


包帯が完全にとれると巨大化した龍の手が姿を現した。
山賊たちが「うわああ。何だあの腕!?」と声を上げて後ずさるとキジャは鋭くそいつらを睨みつける。


「待たせたな、白き龍の腕。」


逃げ惑う山賊たちをキジャは目にもとまらぬ速さで撃ち破る。
その姿に恐怖し逃げまくる山賊たちをキジャは冷淡な顔つきで見ると、山賊たちは「ば…化け物だああ!」と声を上げた。
キジャの戦いぶりをみていたハクとアキの体がぞくっと震える。


「「顔に似合わずエグイねぇ。」」


───あれが、龍の爪の力……!!

ハクとアキの武人としての本能を駆り立てるには十分で、強烈な衝撃を受けたアキとハクは歓喜に震えた。
一度手合わせしたいと二人が不敵な笑みを浮べていると右腕を抑え込んだキジャが、まだ足りないと呟く。


「───それで、ハクとやら。姫のご命令通り、そなたも守ろうか?」

「お構いなく。間に合ってるんで。」


シュル…と大刀と槍の刃に被せていた布をハクとアキは取るとスッと武器を構えて山賊たちの群れに飛び込んだ。
姿勢を低くして山賊たちの懐に入り込んだ二人が大刀と槍を一振りして周りの奴等を蹴散らしてゆく。
それを見ていたキジャも龍の爪を山賊たちに振るった。


「な…何だこいつら。」

「普通じゃねーーっ!!」

「失敬な。普通じゃねーのはそっちの白蛇だけだろ。」


すると前をヒュッと何かが通りすぎて、ハクは「っと。」と背中を逸らしてそれを避けた。
飛び退くとキジャに顔を向ける。


「どーこを狙ってますか白蛇様。」

「もう一度白蛇と呼べば喉を掻き切ると言ったはずだ。」

「気にすんなよ。趣味なんだから。
しっかしソレ、ちょっと興奮しすぎじゃねーの。」

「そうよ、目立ちすぎ。」

「お二人をお守りするのが至上の喜び。そなたたちこそ、その大槍邪魔だ。」

「四龍ってのは一途だねぇ。」

「では、そなたたちは何の為にお二人を守るのだ。」


戦闘中にも関わらず、余裕な表情のハクとアキとキジャは、立ちはだかる者を薙ぎ払う手を休めることはなく言葉を交わす。
一瞬、キジャの言葉にハクとアキは言葉に詰まった。


((何の為に守るのか…そんな事…))


考えたハクとアキは目を合わせると。


「「会ったばっかの他人に、話すかバカ。」」

「バッ、バカだと!?」


べっと舌を出してそう言った二人は怒号を飛ばすキジャに目もくれず走り出して槍と大刀を振るっていく。
キジャは二人のその姿に思わず息を呑んだ。


───こやつら、非力な人間と思っていたが、なんという力…
認めたくはないが、

龍の腕と互角に近い威力では…!?

prev / next
[ back to top ]