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6
屋上のサンデッキに集まったコナン、花恋、歩美、光彦、元太、灰原は、壁の時計を見ていた。
時計はもうすぐ十時二十分になろうとしている。


「秒読みいきます!五秒前!」


光彦が腕時計を見ながら開いた右手を上げた。
歩美と元太も声をそろえてカウントダウンを始める。


「「「四!三!二!一!ゼロー!!」」」
「かくれんぼ、オレたちの勝ち〜!」
「「「やった〜!!」」」


三人がガッツポーズで大喜びし、コナンと花恋も顔を見合わせてエへへッと笑うと、灰原がハァ···とため息をついた。


「忍者・蘭さんのおかげですね!」
「だな!だな!」
「あ!蘭お姉さん!」


歩美が階段を上ってくる蘭を見つけて、子どもたちは拍手で迎えた。


「ね!やっぱりわたしたちの勝ちでしょ」
「蘭姉ちゃん、どこに隠れてたの?」


コナンがたずねると、蘭はフフッと笑った。


「コナン君、ずっとサッカーボール蹴ってたでしょう。花恋ちゃんはバスケしてたかな。ちゃんと知ってんだから」


かがんでコナンと花恋の鼻をちょこんと突く蘭の後ろで、子どもたちは蘭のウインドブレイカーを見た。
どうやらまだプレゼントはポケットに入ったままのようだ。


「蘭お姉さん、まだ気がついてないみたい」
「おかしいですね」
「ニブいんじゃねーのか?」


ひそひそと話す子どもたちの前で、灰原はポケットから探偵バッジを取り出した。


「あの人、まだ捜してるのかしら」
〈誰か助けてー!!〉


灰原の探偵バッジから園子の叫び声が聞こえてきて、蘭たちはハッと振り返った。


「どうしたの!?園子姉ちゃん!!」


コナンはすばやく自分の探偵バッジを取り出して呼び出した。


〈早く!早く助けて!〉


ノイズまじりに園子の切羽詰まった声が聴こえてきて、蘭はコナンの手を取って探偵バッジを口元に寄せた。


「落ち着いて、園子!どこにいるの!?」
〈わから······どこか······箱の······〉
「ちょっと園子!聞こえない!もう一度言って!!」


蘭はコナンから探偵バッジを取り、耳に当てた。
コナンも蘭に背を向けて隠れるように追跡メガネのスイッチを押した。
フレームの左側からアンテナが伸び、左レンズにレーダーが映ると、園子が持っている探偵バッジの位置が点滅した。
しかし、すぐにレーダーごと消えてしまった······!


(おい、電池切れか!?)


と思った瞬間、コナンの脳裏に昨夜のディナーパーティーが浮かんだ。
メインダイニングルームの入り口で日下に後ろからぶつかられて、メガネを床に落としてしまったのだ。


(しまった······あのとき······!!)


コナンはすぐにメガネをチェックしなかったことに悔やんだ。


『どうしたの?』
「レーダーが消えちまった」
『まさか······あの時!?』
「ああ」


その後ろで蘭が必死に園子の声を聞いている。


「寒いの、園子!?えっ······冷たい?」

((凍えている······?))


コナンと花恋は園子の言葉を元に考えをめぐらせた。
冷たくて、凍えそうな場所といえば───······。


「『冷凍庫だ!』」


コナンと花恋は顔を見合わせ叫ぶと同時に走り出した。
灰原もダッシュして後を追い、蘭と子どもたちも遅れて追いかけた。


***


メインダイニングの奥にある厨房は、昼食の準備に追われたコックたちが慌ただしく調理をしていた。


「コラッ!何だお前ら!」


厨房の扉を開けたコナンと花恋は、構わず飛び込んだ。


「ねぇ!冷凍庫はどこ!?」
「冷凍庫?」


コナンに続いてコックに駆け寄った蘭は、コックの胸ぐらにしがみついた。


「お願いします!友達が大変なんです!」
「ち、地下二階だけど······」


蘭の勢いに圧倒されたコックは、苦しそうに下を指差した。

地下二階にある冷凍庫の厚い扉を開けたコナンと花恋は、電気がつくと同時に中へと飛び込んだ。
蘭や子どもたちも後に続くと、室内にはさらにたくさんの扉があった。


「おい、いっぱいあるじゃん!」
「どうしましょう!?」
『手分けして捜そう!』


***


コナンと花恋はコックと一緒に『FISH』と書かれた扉の中に入った。
部屋の中央には冷凍された大きな魚がいくつも置かれ、周りにはたくさんの段ボール箱や発泡スチロールの箱が積まれている。


「『園子姉ちゃーん!』」


コナンと花恋は寒さに震えながら呼びかけた。
他の部屋も元太と光彦、蘭、灰原と歩美にわかれて捜したが、どこにも園子はいなかった。
これ以上いると危険なので、コナンたちはいったん冷凍庫から出た。


「う〜、寒かったぁ······」


元太たちが寒さで身を縮こまらせている中、蘭は探偵バッジで必死に呼びかけた。


「園子!お願い、返事して園子······!!」


しかし、園子からの返答はない。
冷たくて凍えそうな場所といえば冷凍庫しかないと思ったのに、園子の姿はどこにもなかった───。


((クソッ!どこだ?どこにいる······!?))


コナンと花恋が必死に考えをめぐらせていると、元太は「なぁ」と光彦に顔を寄せた。


「もしかして、もう死んじゃってるんじゃ······」
「なに縁起でもないこと言ってるんですか!?」


光彦が声を荒らげ、コナンと花恋は驚いて振り返った。


((······死んでる······))


元太の言葉に、コナンと花恋は顔を見合わせハッと目を見開いた。


「『あそこだ!!』」


***


コナンたちから事情を聞いたチーフパーサーの岬直也は、船内にある霊安室へ案内した。
中に入った元太と光彦は、怯えた目でがらんとした室内を見回した。


「船の中にこんなとこがあるんだ······」
「驚きですね······」


岬は部屋の奥にある扉の鍵を開け、ジュラルミン製の遺体安置ケースの取っ手を引っ張った。


「重いぞ!」
「「「「え······」」」」


一同が驚く中、岬は緊張した面持ちでケースの留め金を外した。
すると、


「園子!!」


ケースの中には寒さに身を縮めた園子が横たわっていた。
目を閉じて動かない園子に、一同がまさかと息をのむ。
すると、園子の眉がピクリと動いた。


「う······うう······」
「園子!」


安堵した蘭が園子に寄り添い、一同もホッと表情を緩めた。


***


診療室に運ばれた園子は船医に応急処置をされると、ベットの上でマグカップに入ったホットミルクをゴクゴクと一気に飲み干した。


「かぁ〜っ、生き返った〜〜」


ベットのまわりにはコナンや花恋、蘭、灰原、子どもたちの他に小五郎や阿笠博士も駆けつけて園子を見守っていた。


「もう心配はない。このまま体を温めて安静にしてれば、じきに動けるようになるでしょう」
「ありがとうございます」


蘭は船医にお礼を言うと、園子を振り返った。


「よかったね、園子」
「うん」


ベットの横にたっていたコナンと花恋は、元気そうな園子を見てホッと息をついた。


((それにしても······))


園子が探偵バッジを持っていたから見つかったものの、あのまま放置されていれば確実に命を失っていた───。


「誰がこんなイタズラを······」


船医の近くに立っていた岬がつぶやくと、小五郎が険しい表情で振り返った。


「イタズラ?これはイタズラなんかじゃない。れっきとした殺人未遂だ。すぐに警察を呼んでください!」
「わ、わかりました!」


岬が慌てて診療室を出ていくと、小五郎は園子に歩み寄った。


「一応、話を聞かせてくれ。───襲われた場所は?」
「マリーナよ。蘭を捜しに行って、いきなり棒か何かで肩をぶたれて、そのまま気を失っちゃったみたい······」
「じゃあ、犯人の顔は?」


コナンがたずねると、園子は「う〜ん」とあごに人差し指を当てた。


「見たような気もするけど······覚えてないの」
「時間は?」


小五郎の質問に、園子はマリーナでみた時計を思い出した。


「あっ、それは覚えてる。十時十一分だった」

((十時十一分······))


コナンと花恋はその時間を胸に刻みつけた。


***


「花恋ちゃん、大丈夫?」
『う、うん······』
「船酔いね。あんなところでバスケなんてするからよ。あなたもともと乗り物に強くないでしょ」
『すみません······ウップ······』
「車に長時間乗っただけで酔うのに船に乗ってしかもバスケして頭使えば酔うのは当たり前でしょ」
「長時間車乗るとすごいですもんね、花恋さん」
「ずっとコナンに寄りかかってるよな」
『車······ウッ······』
「想像しただけで酔うのやめなさいよ」


花恋はコナンと小五郎とマリーナに向かおうとすると激しい吐き気に襲われた。
もともと乗り物酔いが激しい花恋はバスケと園子の件で体に負担がかかったらしい。
コナンに激しく心配されたがなんとか説得し、小五郎と一緒にマリーナに向かわせた後、蘭と園子に心配され、診療室で横になるかと聞かれたが部屋で休むといい歩美と灰原に支えられながら部屋に向かっていた。
花恋の片耳にはイヤホンがささっている。
そのイヤホンの先には小型通信機。


「本当に一人で大丈夫?」
『だいじょう······ぶ······』
「はぁ······寝かしときましょ」
「う、うん······」


部屋まで送ってもらった花恋はポニーテールの髪をほどきベットに横になる。
灰原が気づかい子どもたちを外に出してくれたおかげで今は部屋に一人だ。
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