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9
しばらくして水尾邸を出たコナンたちは、角の十字路で立ち止まった。


「そしたらボクは、これで」
「私もちょっと、西条さんの店に寄っていきますさかい」
「おおきに、さいなら」


千賀鈴は十字路を右に曲がる竜円と西条に頭を下げた。
そして、コナンと花恋と平次と一緒にまっすぐ歩いていく。


「山能寺さんは六角通どしたな。ここは夷川通さかい······」


そう言うと、千賀鈴は指を折りながら歌い始めた。


「まるたけえびすにおしおいけ〜♪あねさんろっかく······やから、六つ目の筋どすな」


聞き覚えのある唄に、平次は「!」と目を見張った。
千賀鈴が親指を折りたたんだ手を見せてニッコリと微笑む。


「ねぇ、今の何て唄?」


コナンがたずねると、千賀鈴がしゃがんで「さぁ······」と答えた。


「うちらは手鞠唄言うてますけど、京都の東西の通りの名らを北から南へ歌てんのどす」


そう言うと、千賀鈴は体を起こして再び手鞠唄を歌い出した。


「まるたけえびすにおしおいけ〜♪あねさんろっかくたこにしき〜♪しあやぶったかまつまんごじょう〜♪せったちゃらちゃらうおのたな〜♪ろくじょうひっちょうとおりすぎ〜♪はっちょうこえればとうじみち〜♪くじょうおおじでとどめさす〜♪」
『······へぇ、面白いね』
「京都の子ォは、みんなこの唄で通りの名ァを覚えるんどす」
「ちゅうことは、自分も京都出身なん?」


平次がたずねると、千賀鈴は「へぇ、そうどす」と平次に目を向けた。


「歳は?」
「十九どす」
「十九······!?」


千賀鈴の歳を聞いて驚いた平次とコナンと花恋は顔を見合わせた。
千賀鈴の後をついて小川通をしばし歩いていると、やがて片側四車線の広い通りに出た。


「ここが御池通どす。ほな、うちはここで」


お辞儀をした千賀鈴は、御池通を左に曲がって歩いていった。


「『さよなら!』」


手を振って千賀鈴を見送ったコナンと花恋が振り返ると、平次は千賀鈴の後ろ姿をじっと見つめていた。


「オメー、まさか彼女が······」
「間違いない。京都出身で、歳もオレより二つ上やしな」


平次は千賀鈴が初恋の少女だと完全に思い込んでいるようだった。
花恋が「でもねぇ」と怪訝そうに千賀鈴を見る。


『京都の子はみんなあの唄を······』
「やっと会えたんや、やっと!!」
『聞け。人の話を聞け』


平次が拳を握りしめて喜びに打ち震えていると、胸ポケットの携帯電話が鳴った。
「はい、もしもし」と電話に出たとたん、


〈平ちゃん、何してんねん!勝手に病院抜け出したらあかんやろ!!〉


と、大滝の怒鳴り声が聞こえてきた。


〈まぁ、それはおいといて······血液鑑定の結果出たで。短刀の柄からちょっとやけど、桜さんと同じ血液型の血液が検出されたそうや。それと、刃型も桜さんの傷口と一致したっちゅう話や〉


そして少し間があったと思うと、すぐに声が聞こえてきた。


〈平ちゃん、念のために言うとくけど、無茶したらあかんで!平ちゃんの身ィに何かあったらワシ、オヤジさんに······〉
「ああ、わかってるて。ほなありがとな、大滝はん」


平次が電話を切ると、コナンと花恋と平次は御池通を横切り、町家が両側に並ぶ小川通を歩いていった。


「これで、オレを襲うた翁の面が、桜さん殺した犯人に間違いないっちゅうわけや」
「そうなると、凶器を処分する方法もなかったあの四人は、犯人じゃないってことになるな······」


やがて山能寺の裏門に着き、コナンと花恋が門をくぐろうとすると、平次が突然立ち止まった。
門の奥には───大きな枝垂桜の木があり、風に吹かれてひらひらと舞い散った花びらが足元に落ちる。
何かを確かめるように目を細めて枝垂桜を見ていた平次は、垂れ下がる枝の向こうに本堂の格子窓を見つけて、フッ······と微笑んだ。
コナンと花恋が不思議そうに平次を見上げていると、


「花恋ちゃん!コナン君!何してるのー!?」


道の向こうから歩美と光彦が駆け寄ってきた。
その後ろには阿笠博士と灰原の姿もある。


『あんたたち、どうして······!』
「クイズに答えたごほうびに博士に連れてきてもらったの」
「ところが元太君が迷子になっちゃって······」
「だったら探偵バッジで───」


コナンが言うと、光彦は胸の探偵バッジを指差した。


「もう呼びかけて連絡はとれてるんです」
「でも元太君、漢字が読めないから、今いる場所がいえないの」
「で、君のそのメガネで捜してもらおうと思ってな」


阿笠博士に指されたコナンは、「オッケー。任せとけって」とメガネを外した。
メガネのつるにあるスイッチを押すとアンテナが伸び、左のレンズにレーダー画面が表示される。
すると、平次が「へぇ〜」とメガネを奪った。


「お、おい!」
「こらおもろいな。あっちや!」


興味深そうにレーダー画面を見て平次が歩いていくと、光彦と歩美は後を追いかけた。


「······ったく」


コナンと花恋も仕方なく歩き出した。
阿笠博士と灰原も横に並ぶ。


「こっちでも事件があったようじゃな」
『うん······詳しいことは後で話すよ』


花恋が答えると、阿笠博士の腹がグ〜ッと鳴った。


「またじゃ······哀君、例の薬を」


灰原はショルダーバッグからピルケースを出すと、阿笠博士に薬を渡した。


「何だ、それ?」
「お腹が鳴るのを抑える薬······冠婚葬祭用に博士が開発したの」
「他にも酒が苦手な人用に飲むとすぐに顔が赤くなる薬や、仕事を休みたい人用に風邪と同じ症状を起こす薬も開発したんじゃ。どれも哀君に手伝ってもらってな」


得意げに話す阿笠博士に、コナンと花恋は((どれも使えねーな/ないね))と心の中でつぶやいた。


***


「お、ここや、ここや!ここの六角堂におんで」


しばらく六角通をまっすぐ歩いていって、平次は左手にある立派な山門を指差した。
歩美と光彦が真っ先に境内へ入っていく。
正面には六角の形をした本堂があり、その横に進んでいくと、元太がベンチに座ってうなだれていた。


「元太君いましたぁー!」
「あっ!助かった〜!!」


パッと顔を輝かせた元太はベンチを飛びおり、光彦たちに駆け寄ってきた。


「よかったね、元太君!」
「もう一生会えないかと思いました」
「オレもだ!」


コナンにメガネを返した平次は「それにしても便利なもんやな」と元太の胸につけられた探偵バッジをのぞき込んだ。


「ハ〜ン、発信機付きのバッジっちゅうわけか」
『うん、その発信機から出る周波数がこのコナンのメガネと同調して······』


と花恋がコナンのメガネを指差した瞬間───コナンの頭の中でパッと何かがひらめいた。


「花恋!!」
『はい!』
「さっきのもう一回、言ってくれ」
『え?······周波数がこのコナンのメガネと同調······あっ!!』
「そうか!!」


平次と花恋が元太を見る。


「な、何だよ!?」


思わずのけぞった元太の手には、ジュースのペットボトルが握られていて、


「く、工藤、蓮華、まさか······」


平次とコナンと花恋は真剣な表情で顔を見合わせた。


***


阿笠博士らと別れた三人は、鴨川の土手に来ていた。
昼間も夜ほどではないが、まばらにカップルが土手に座り、川の向こうの桜を仲むつまじく眺めている。


「間違いねーな」


桜屋の前で立ち止まったコナンは、ベランダの下にある地下の裏窓を見てつぶやいた。
平次と花恋が「ああ/うん」とうなずく。


「あの姉ちゃんが聞いた音は、やっぱり凶器を落とす音やったんや」
『となると、犯人はやはりあの四人の誰か───』


土手に座り込んだ平次は「いや、三人や」と花恋の頭をなでた。


「オレの初恋の人が殺人犯のはずないやろ」


と嬉しそうに微笑む平次に、コナンと花恋が((オイ、オイ······))と突っ込む。
すると、花恋の頭から手を離した平次は、「ただ······」と急に真剣な顔になった。


「ひとつだけ気になるんは、さっき聞いた唄と、オレが覚えてた唄の歌詞が一箇所違うんや」
「『はぁ?』」


コナンと花恋が眉を寄せると、平次は野球帽を取り、頭に巻いた包帯に触れた。


「オレの初恋の人は、“あねさん ろっかく”を“よめさん ろっかく”て歌てたんや。何でやろなぁ······」


空を見上げてぼんやりと考える平次に、コナンと花恋は「知るか!」と横を向いた。
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