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「ほ〜れ、着いたぞ」


水族館の駐車場に阿笠博士のビートルが到着すると、子どもたちはすぐに飛び出した。


「行こうぜ!」
「わーい、やったあ!」
「待ってくださいよ、元太くーん」


元太たちに続いて走り出した光彦は、車を振り返った。


「灰原さん、花恋さん、コナン君も早く来てくださいよ〜!」


子どもたちは入場口の手前で立ち止まり、巨大な観覧車を見上げた。


「それで、水族館と観覧車、どっちに行くことにしたんじゃ?」


阿笠博士がたずねると、子どもたちは「え〜」と顔をしかめた。


「何言ってんだよ、博士」
「両方に決まってるじゃないですか」


子どもたちの要望を黙って聞いていた阿笠博士は、突然ニヤリと笑った。


「では勝負じゃ!これから出すクイズに答えられたら両方連れていってやろう」


やったぁ!と子どもたちは喜び、灰原とコナンと花恋はしらけた顔で阿笠博士を見た。


「結局それがやりたかったのね」
「まったく飽きもせず······」
『毎回毎回よくやるよ』
「それでは第一問!」


阿笠博士が得意げに人差し指を立てると、


「まさか何問も出すつもりじゃねぇだろーな」
「一問だけにしときなさいよ」
『何問も出すとか悪趣味』


コナンと灰原と花恋はちくりとクギを刺した。
とたんに阿笠博士が残念そうな顔をする。


「仕方ないのぉ······ではゆくぞ!その色をまじりっけなしに塗り込んでいくと、変身してしまうものは次の四つのど〜れじゃ」


阿笠博士は指を四本立ててニヤッと笑った。


「一、赤色。二、青色。三、茶色。四、黒色」


子どもたちはう〜ん···と考え始めた。


「まじりっけなし······」
「塗り込むと変身する色ですか······」
「あ〜全然わかんねぇよ〜!」


元太が頭を抱え込むと、阿笠博士はグッフフフフ······とほくそ笑んだ。
見かねた灰原が「博士!大人気ないわよっ」とにらむ。


「色を換えりゃ、少しはわかりやすくなるんじゃねーか?」


コナンがヒントを出すと、阿笠博士は慌てて止めた。


「これこれ、コナン君は参加しちゃいかん」
「言い換えるの〜?」
「う〜ん······」


ヒントを得ても子どもたちはピンと来ないようだった。
すると、花恋が「例えば」と口を開く。


『赤は『まっ赤』、青は『まっ青』······』
「花恋君!それを言っちゃ───」


阿笠博士が慌てて止めようとすると、光彦が「わかりました!」と手を上げた。


「茶色は『まっ茶』ってことですね!」


光彦の言葉に、歩美が「あ〜!変身した〜!!」と声を上げた。
答えがわかってすっきりした歩美の横で、元太は「何言ってんだよ······」と不可解そうな顔をした。


「赤が『まっ赤っか』、青が『まっ青』、茶が『まっ茶』で、黒が『まっ黒け』······」
「茶色に注目してみてください、元太君」
「茶色だけ抹茶になるでしょ?」


光彦と歩美が言うと、元太は「あ!」と目を見開いた。


「本当だ!お茶になったー!!」


見事に正解されてしまった阿笠博士はうらめしそうに花恋とコナンを振り返った。


「ズルイぞ、君らがヒントを出すなんて······」
「よ〜し!チケット買いに行こうぜー!」


オー!と拳を突き上げて子どもたちはチケット売り場へと走り出し、阿笠博士が「あ、コレ!」と追いかける。
が、すぐに息が上がり、その場に座り込んだ。


「両方はいかんぞ、両方は······待っちゃ(抹茶)くれ〜〜〜!!」


と手を伸ばす阿笠博士に、コナンは苦笑いし、花恋は呆れた顔をした。


「ダジャレでごまかしたってダメだっつーの!」
『体力なさすぎでしょ、博士』


そういって歩き出そうとしたとき───どこからかわずかにガソリンの臭いがした。
その臭いがする方向を振り返ると、ベンチに外国人女性が座っていた。
乱れた銀色の髪に、薄汚れたシャツとタイトスカートを身につけた女は、ベンチにもたれてうつろな目で宙を見ている。


「どうしたの?花恋、江戸川君」


灰原が声をかけたと同時に、コナンと花恋は女の元へ走り出した。


「ねぇねぇ、大丈夫?お姉さん」


女に近づくと、シャツの襟元が反射してキラッと光った。
声をかけられた女はゆっくりとコナンと花恋に視線を移した。
その瞳は右目が黒だが、左目は青い───。


『顔、汚れてるよ』
「······ああ······」


女は頬に手を当てた。


「うわぁ、お姉さんの目、左右で色が違うんだね」
「日本語がよくわからないんじゃない?」


歩み寄ってきた灰原が言うと、女は首を横に振った。


「わかるわ······わかるわ······」
『どうしたの?こんなところに一人で。お友達もいないみたいだし······』


キョロキョロと周囲を見回した花恋は、女のひざにかすり傷があるのを見つけた。
シャツから見える首や腕にもかすり傷がある。


『それにケガもしてるよ。ひざと手と······スマホも壊れてるみたいだし』


女の手元には画面にヒビが入ったボロボロのスマホがあった。
スマホの周りや女の服には小さなガラス片が付着していて、光に反射してキラキラと輝いた。


「これ、ちょっと見せて」


コナンが女のスマホを手に取ると、灰原は女に質問した。


「お姉さんはいつからここにいるの?」
「······えーと······」
「じゃあどこから来たの?」
「······わからない······」


女の反応に、灰原と花恋とコナンは顔を見合わせた。
この女性、もしかして───。


『お姉さん、名前は?』
「名前······」


花恋にたずねられた女はキョロキョロと不安げに目を泳がせた。
そしてまた首を横に振る。


「ごめんなさい。わからない······」
「自分が誰でどこから来たのかもわからない───これって······」


コナンと花恋が振り返ると、灰原は女に近づいた。


「ちょっと頭を見せて」
「え、ええ······」


髪を後ろに束ねた女は頭を下げた。
灰原が女の髪をかき分けると、小さな傷があった。


「たいした傷じゃないけど、最近のものね」


コナンはボロボロになったスマホの画面をタップしたが、やはり完全に壊れていて反応はなかった。
手首を返してスマホの裏を見ると、破片がパラパラと落ちる。


『たぶん車に乗ってて事故に遭い、頭をケガした······』


花恋の言葉に、灰原はあごに手を当てた。


「だとすると、外傷性の逆行性健忘───······」


そこまで口にして、ハッと気づく。


「え?何で車に乗ってたってわかるの?」


と目を丸くする灰原の横で、コナンは持っていたスマホをベンチに戻した。


「このスマートフォンが完全に壊れるほどの衝撃を受けてるし······これを見ろよ。車のフロントガラスの破片だ」


そういって、ベンチに落ちていたガラスの破片を手に取って見せた。


「運転中に頭をぶつけたってこと?」
『その車、わりと古い車種だろうね。最近の車はガラスが飛び散らないようにフィルムが挟んであるから······』


コナンが指を動かすと、粒状になったガラスの破片がキラリと光る。
花恋はハンカチを取り出し、コナンの手にあるガラスの破片を包んでポケットにしまった。


「それに、彼女の体から微かにガソリンの臭いもする」
「あ、ホントだ」


女に近づいてクンクンと臭いを嗅ぐ灰原の横で、コナンと花恋は考えに沈んだ。

───ガソリンの臭い、車のフロントガラスの破片、頭の傷、完全に壊れたスマホ······。


((もしかしたら、昨日の大規模停電と何か関係が······))

『お姉さん。他に何か持ってない?』


花恋がたずねると、女は「え?」と自分の両手を見た。


「他って言われても······」
「たとえばポケットの中とか」


女はタイトスカートにポケットがついてるのを確認すると、立ち上がって左右のポケットに手を入れた。


「これは······?」


左ポケットに入っていたカードの束を取り出し、不思議そうにまじまじとカードを見つめる。


『お姉さん、見せて』


花恋が受け取ったカードの束を見た灰原は「なあに?それ······」と首をかしげた。


『単語手帳みたいだけど······カードに半透明の色がついてる······』


手のひらサイズの単語帳の表紙をめくると、五色の透明カードを現れた。


「白、橙、青、緑、赤······何のカードだろう······」


女は花恋が持っている単語帳を不安そうに見つめた。
すると、


「お〜い!コナーン!花恋ー!灰原〜!」


チケットを持った子どもたちが走ってきた。
その後ろで息を切らしてフラフラと走る阿笠博士もいる。


「三人の分のチケットも買ってきたよ〜!」
「早く乗りに行きましょうよ〜!」


コナンと花恋は走ってくる子どもたちを見て顔をしかめる。


「ヤベッ、厄介なのが戻ってきた······」
『最悪······』

「何やってんだよ三人とも」


元太の後ろからやってきた光彦は「あれ?」とベンチに座っている女に気づいた。


「誰ですか?その女の人」


女を見た歩美が「うわ〜っ!」と声を上げた。


「お姉さんの目、右と左で色が違う!キレ〜イ······」
「偽物の目を入れてんのか?」


元太が珍しそうに女の顔をのぞき込むと、女は何やら考え込んだ。


「違いますよ、元太君。お姉さんはオッドアイだと思いますよ」
「オッドアイ······?」
「変な名前だなぁ、この姉ちゃん」


初めて聞く言葉に歩美と元太がきょとんとする。


「あ、いや、この人の名前じゃなくて······」


光彦が間違いを正そうとすると、歩美が「わかった〜!」と手を上げた。


「オットセイの目のことでしょ!」
「オットセイ······?」


元太はウォウォと鳴くオットセイを思い浮かべた。


「目のことなんだよね?花恋ちゃん」


歩美に言われた花恋が「う、うん······」と苦笑いを浮かべると、それまで暗い顔つきだった女がフフフ······と笑いだした。


「あ、ごめんなさい」


とすぐに謝る。


「お姉さん、やっと笑ったね」
「ああ」


子どもたちが喜んでいると、阿笠博士がハァハァと言いながらやってきた。


「君たちこんなところで何をしとるんじゃ?」
「ちょうどよかった。博士」
「このお姉さん、事故に遭って記憶喪失になってしまったみたいなの」


灰原の言葉に、阿笠博士や子どもたちが目を丸くした。


「本当か!?新───いやいや、コナン君、花恋君」


驚きのあまり思わず『新一』と呼びかけそうになった阿笠博士に、コナンと花恋は「ああ/うん」とうなずいた。


「もしかしたら、昨日の事故が原因かも······」
『すぐに警察に届けた方が───』
「やめてぇ───!!」


突然、女が身を乗り出して叫んだ。
チケット売り場に向かう人たちもその声に驚いて立ち止まる。


「お姉さん、警察に行けない理由でもあるの?」


灰原が訊くと、女は「······わ、わからない」とベンチに座り直した。


「じゃが警察に保護してもらわんと、病院でちゃんと検査してもらえんからのぉ······」


困った顔をする阿笠博士の前で、コナンはポケットからスマホを取り出し、写真を撮り始めた。
すると女はとっさに顔を手で隠し、逃げるように走り出した。


「ちょっとコナン君」
「これこれ、いきなり写真を撮るなんて失礼な───」


子どもたちや阿笠博士が非難する中、コナンは「待って、お姉さん」と呼び止めた。


「警察には通報しないよ」


立ち止まった女は、おそるおそるコナンを振り返った。


「お姉さんの知り合いを捜すために写真が必要だったんだ」
「私の知り合い······」


女は不安そうな表情でコナンの顔をうかがった。


『うん。記憶を取り戻す手伝いをさせてよ』


花恋が優しく微笑みかけると、子どもたちがしゃしゃり出てきた。


「マジかよ、コナン!花恋!」
「私たちも手伝わせて!」
「なんたってボクたちは少年探偵団ですから!」


三人でポーズを決めるのを見て、灰原がハァ······とため息をついた。


「私たちがお姉さんのお友達を捜して、それで記憶を取り戻してあげる」
「大船に乗ったつもりでいてください!」


子どもたちの助けたいという純粋な気持ちに触れた女は「あ、ありがとう······」と微笑んだ。


「じゃあまず、お姉ちゃんを知ってる人を捜そう!」
「はい!」


子どもたちがさっそく行動に出ようとすると、阿笠博士が慌てて身を乗り出した。

「君たち、観覧車はどうするんじゃ!?」
「何言ってんだよ、博士!そんなモンに乗ってる場合じゃねーだろ」
「博士ジャマー!」


子どもたちは阿笠博士を押しのけると、女の手を引いた。
そして近くで子どもたちに風船を配っているイルカの着ぐるみの元へ向かう。


「こら君たち、遊び半分でそんなことしちゃいかーん!」


子どもたちを追う阿笠博士を見送った灰原は、残ったコナンと花恋を振り返った。


「まさか、本当に警察に届けないつもり?」
「んなわけねーだろ。蓮華、花恋のスマホに写真送るからそれ、送ってくれ」
『はーい』


コナンはベンチに置きっぱなしになった女のスマホをハンカチで包み、胸ポケットに入れた。
そして花恋は自分のスマホを操作し、コナンから送られてきた先ほど撮った女の写真を添付したメールを送った。
_2/14
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