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- ナノ -
15
人混みの中を進んでいったウォッカはトイレの横の狭い道に逸れたかと思うと、さらにその奥の茂みの中へ入っていった。
新一と蓮華も後を追う。
草木の間をくぐり抜けてようやく茂みから出ると、そこは大観覧車の土台のすぐそばだった。
夜空に伸びた支柱の先には、巨大なホイールにぶら下がったゴンドラの底が見える。
しかし、そこにウォッカの姿ははなかった。


『いない······』
「クソ······見失ったか······」


二人がキョロキョロと周囲を見回していると、


「待たせたな、社長さんよぉ」


土台の向こうからウォッカの声がした。
新一と蓮華は土台の端に駆け寄り、声がした方をそっと覗き込んだ。


((いた······!!))


全身黒ずくめの男の前には、サングラスをした小太りの中年男が立っていた。


「や、約束どおり一人で来たぞ!!」


社長と呼ばれた中年男は大事そうにアタッシュケースを抱えながら、ウォッカに歩み寄る。


「ああ、一人で来たのは知ってるさ···コースターの上から確かめさせてもらったからな」


そうか、と二人は納得した。
黒ずくめの男二人がなぜ場違いな遊園地でジェットコースターに乗っていたのか、ずっと疑問に思っていたのだ。


「は、早く例の物を······」
「焦るなよ、金が先だ」


新一は二人の会話を聞きながら、上着のポケットからデジカメを取り出した。


「ほら!これで文句あるまい!!」


社長は持っていたアタッシュケースを開けて見せた。
中には札束がギッシリと詰まっている。


(スゴーイ、一億はあるわよ······)


ウォッカは札束を確認すると、受け取ったアタッシュケースを閉じた。


「よし、取り引き成立だ」
「さあ、早くフィルムを!」


社長がしびれを切らしたように手を差しだす。


((フィルム······?))


ウォッカはスーツの内ポケットから封筒を取り出し、「ほらよ!」と社長の胸に叩き付けた。


「オマエの会社の拳銃密輸の証拠のネガとプリントだ。悪いことはするもんじゃねーぜ」


と忠告して、歩き出す。
新一は土台の影からデジカメを持った手を伸ばし、パシャパシャとシャッターを切った。


「う、うるさい!オマエ等の組織がやってることに比べれば、ワシ等なんか───」


社長の言葉に、ウォッカが立ち止まって振り返る。


「おい、オマエが一体俺達の何を知ってるんだ。あん?」
「あ、いや······」


凄みを利かせたウォッカの声に、社長は思わず退いた。
きびすを返したウォッカがゆっくりと社長に近づいていく。


「こっちは一億ぽっちで命を取らねぇで済ませてやるって言ってんだ!わかったらとっとと会社たたんでよそに移るんだな!こっちはあの土地に新しいラボを造りてぇだけなんだからよ」


至近距離で凄まれた社長は足をガタガタ震わせながら、「は、はい······」と返事をした。


((おいおい、マジかよ······))


新一は二人の会話を聞きながらシャッターを切り続けた。
怪しい男達だとは思っていたけれど、まさか取り引き現場に出くわすとは───。
そのとき、背後から近づく足音がした。
一番に気付いた蓮華がハッと振り返ると───もう一人の黒ずくめの男が立っていた。


「探偵ゴッコはそこまでだ」


ジンが特殊警棒を振り上げた。
新一は素早く逃げようとしたが、ジンの動きの方が速かった。
後頭部を殴られ、その場に倒れ込む。


『新一!』


ジンは次に蓮華に殴りかかったが、足で弾き返された。
だが目の前の男に集中するあまりもう一つの警棒に気付かず蓮華も後頭部を殴られ、新一の隣に倒れ込む。


「ア、兄貴······」


二人の存在にようやく気付いたウォッカが駆け寄ると、ジンは警棒を折り畳んだ。


「バカ野郎。こんなガキにつけられやがって······」
「!!このガキども······さっきの探偵!!」


うつぶせに倒れている二人を見て、ウォッカはクソッと歯噛みした。


「殺しやすかい?」
「やめろ!」


ジンは懐から拳銃を抜きかけたウォッカを制した。


「さっきの騒ぎでサツがまだうろついてるんだ」


そう言うと、芝生に落ちていた新一のデジカメを拾い上げた。
撮られた画像を確認して、トレンチコートのポケットにしまう。


「じゃあ、どうするんで?」
「······コイツを使おう」


ニヤリと片頬を持ち上げたジンは、懐から銀色のピンケースを取り出した。


「組織が新たに開発した、この毒薬をな。何しろ遺体から毒が検出されないって触れ込みの、完全犯罪が可能なシロモノだ······」


倒れている新一の髪をつかんで無理やり顔を上げさせると、その口にカプセルをつまんだ指を押しこんだ。
カプセルと一緒にピルケースに入っていた円筒容器の液体を飲ませる。
蓮華も同様にカプセルを口に入れると液体を飲ませた。


「まだ人には試したことがない、試作品らしいがな······」


地面に倒れ込んだ二人は、ゴホゴホと咳き込んだ。
口元から液体が垂れる。


「兄貴、急がねーと」
「ああ」


二人の様子を見ていたジンは立ち上がり、黒い帽子のつばをクイッと上げた。


「······あばよ、名探偵!」


二人を見下ろしたジンはニヤリと笑い、ウォッカと共に茂みの奥へと走り去っていった。


***


残された新一は液体を口からこぼしながら、ゴホゴホ···と咳き込み続けた。
隣の蓮華は完全に意識を失っている。
やがて、その咳も呼吸も徐々に弱まっていく───。

ドクン───!!

突然、二人の心臓が大きく脈を打った。
強烈な衝撃がとめどなくうねり押し寄せてくる───!
大きく目を見開いた新一は、苦しそうに身をよじって蓮華へと身を寄せた。
すると今度は、体の芯がじわじわと燃えるように熱くなった。


(クソッ······か、体が熱い······!)


海老のように丸まり息を荒げる新一と意識を失ったまま苦しそうに顔を歪める蓮華の体から、シュウシュウと白い煙が立ち上った。
張り裂けそうな心臓の痛みと共に、体中の血液が煮えたぎるように熱くなる───。


(······骨が······骨が溶けるみてぇだ······)


激しい痛みに耐えようと、新一はギュッと蓮華の手を握りしめた。
が、

ドクン───!!

灼熱の体を食い破るほど凄まじい衝撃が走り、のけぞった新一はガクリと突っ伏した。


(······クソ······ダメだ······蓮華···っ)


動かなくなった新一の体から上っていた白煙は徐々に短くなり、やがて完全に消えた。
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