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翌日。
各局のニュース番組では、東都スタジアムの爆破事件がトップニュースで取り上げられた。
中でも日売テレビの番組は他局を出し抜いて、爆発の瞬間をおさめた映像を流した。
日売新聞の一面にも電光掲示板が爆破する瞬間の写真が大きく掲載されていた。
どのマスコミも小五郎が犯人からの暗号を見事解読し、迅速な避難で死傷者が出なかったことをほめたたえ、毛利探偵事務所の前には大勢のマスコミが集まっていた。


「どうも警部殿。わざわざお越しいただいて恐縮です。何しろ一歩でも外に出ればマスコミがうるさいもんで······」


小五郎は事務所を訪れた目暮、佐藤、高木に軽く頭を下げた。


「暗号を解読したの、いつの間にか毛利さんってことになっちゃいましたからね」


高木が言うと、小五郎はハハハ···と恥ずかしそうに頭に手をやった。
目暮が「うむ」とうなずく。


「まあ例によって、工藤君と黒瀬君が名前を出さんでくれと言ってきたんでな。にしても、彼らの姿がスタジアムになかったのだが······」
「あ、蓮華と新一はスタジアムにはいなかったそうです。花恋ちゃんとコナン君に頼んで、爆弾を見てきてもらって······」


蘭が答えながら横にいた二人を見ると、佐藤は「え?」と目を丸くした。


「そんな危ないことを二人に頼んだの!?」
『い、いや······私たちが勝手にやったんだよ』
「新一兄ちゃんと蓮華姉ちゃんには止められたんだけどね」


自分が非難されそうになって、二人は慌てて弁解した。


「ったく、あのボウズども······!」


小五郎も顔をしかめると、目暮が「まあまあ、毛利くん」となだめた。


「そのおかげで被害を最小限にすることができたんだから、今回は大目に」
「は、はぁ······」
「あの、立ち話も何ですからどうぞ座ってください」


蘭は目暮たちにソファを勧め、お茶を入れに台所へ向かった。
二人も目暮たちとテーブルをはさんだ席にちゃっかり座る。


「ところで毛利君。犯人について何か気づいたことがあると聞いたんだが······」
「あ、実は気づいたのは私ではなく、この小僧と花恋でして······」


小五郎はソファに腰掛け、隣の二人はチラリと見た。
「コナン君と花恋ちゃんが?」驚いた目暮も二人に目を向ける。


「こいつら、犯人からの電話について私と蘭にしつこく尋ねてきまして······」
「新一兄ちゃんと蓮華姉ちゃんに教えてあげようと思ってたんだ。すごく気にしてたみたいだから」


コナンはエヘヘと子どもっぽく笑って見せた。
蘭がお茶をテーブルに置くと、目暮は会釈した。


「ところで、その気づいたことは何だね?」
『犯人がおじさんに言った『絵じゃない、手だ。ハンドリングのハンドだ!』っていう言葉なんだけど、それと同じ言葉を前にも聞いたんだ』


コナンと花恋はサッカー教室で阿笠博士のクイズに答えた遠藤のことを説明した。
あのとき、遠藤は『二番!ハンドリングのハンド!』と答えたのだ。


「確かに引っかかりますね」
「普通は手の事を言うのに『ハンドリングのハンド』なんて言わないわよね」


高木と佐藤がうなずく。


「でしょ?犯人はおじさんの聞き返しに苛立って、思わず言っちゃったんだよ。耳に覚えのある言い回しを」
「だとすれば、犯人のミスだな」


目暮もコナンの推理に納得した。


「それで、そのとき遠藤選手の言葉を聞いたのは?」


高木の質問に花恋が答えようとすると、小五郎が自分の出番だとばかりに「ううんっ」と咳払いをした。


「東都スタジアムで試合に出ていたJリーガーと我々を除くと、容疑者は四人!日売テレビスポーツ・情報局部長の山森慎三、日売新聞カメラマンの香田薫、杯戸少年サッカークラブ監督の榊良輔、そして杯戸少年サッカークラブのスポンサー、本浦圭一郎!以上四人が私の捜査線上に浮上した容疑者であります!」


小五郎が自信満々に答えると、コナンが「もう一人いるよ」と言った。
小五郎が「!?」と顔をしかめてコナンを見る。


「あのとき、近くのベンチにもう一人······中岡一雅さんがいたんだ!」


阿笠博士がクイズを出したとき、確かに中岡もコナンたちの方を見て、クイズを聞いていたのだ。


「え?中岡一雅って、あの雪の国立の?」
「高木君、知ってるの?」


佐藤が訊くと、高木は「ええ」とうなずいた。


「三年前、甥っ子に誘われて見に行ったんです。大雪のために二時五分開始の予定が大幅に遅れて、確か三時四十分にキックオフになって······。試合はゼロ対ゼロのまま延長に突入。あわやPK戦かっていう残り四分に、中岡が決勝ゴールを決めて、終わったのは何と六時十分前!おかげで夕食をご馳走するはめになったんですけど、そのとき食べた中華が辛くて辛くて······」


思い出し笑いする高木に、目暮が「そこまで詳しく言わんでもいいよ」と指摘した。
隣の佐藤が顎に手を当てて考え込む。


「その中岡を入れると、容疑者は五人···」
「まあ、偶然同じ言葉を言った可能性もなくはありませんが、犯人の動機が私への挑戦だったとしたら······」


小五郎は前かがみになり組んだ両手に顎をのせると、正面に座った目暮を見た。


「最近変わった出来事と出会った人物は、あのサッカー教室しかないんです」
「わかった。その五人について早急に調べてみよう」


目暮はそう言うと立ち上がり、佐藤と高木と共に事務所を後にした。

その夜。
目暮は白鳥と千葉を連れて再び毛利探偵事務所を訪れた。
ソファセットのテーブルに電話と録音装置を置くと、目暮と白鳥はソファに腰かけ、千葉は容疑者の名前と顔写真の貼られたホワイトボードの前に立った。
小五郎、蘭、花恋、コナンもソファに座る。


「花恋ちゃんとコナン君が指摘してくれた五人について、さっそく調べてみた。───白鳥君」


目暮に言われて白鳥は手帳を取り出した。


「まず、山森さん。今回の爆破事件をネットで流したことにより、番組の視聴率が跳ね上がり、とりあえず部長降格のピンチを免れたようです」
「正に事件様々というわけだ」


目暮はホワイドボードに貼られた山森の写真を鋭い眼差しで見つめた。


「次に香田さんですが、彼女も昨日の一面を飾ったスクープ写真で、希望している社会部への復帰に一歩近づいたようです」
「これも事件のおかげというわけですな······」


小五郎は薫の写真の下に貼られた新聞記事に目を向けた。


「次に榊さん。現時点では、特に東都スタジアムを爆破する動機が見つかっていません。ただ、犯人の動機が毛利さんへの挑発的行動から始まったと考えると······」


白鳥は手帳から顔を上げ、正面の小五郎を見つめた。


「榊さんは大学時代のオウンゴールを毛利さんに冷やかされたそうですね」
「あっ······!」


小五郎はサッカー教室での出来事を思い出した。
榊を見るなり「オウンゴールの榊だ!」と指差したのだ。


「べ、別に冷やかしたわけじゃ······それにヤツは笑ってたぞ!」
「まあ、顔で笑っていても内心は······ということはままありますから」


白鳥がそう言って手帳に目を移すと、小五郎は不服そうに眉をひそめた。


「次に本浦さん。一人息子の知史君は今年の八月、東都スタジアムで行われたJリーグのオールター戦をテレビで観戦した後に、心臓発作を起こし、救急車でかかりつけの東都病院に運ばれましたが、治療の甲斐なく亡くなったことがわかりました」

((東都スタジアム······!?))


白鳥の説明にすばやく反応したコナンと花恋はホワイドボードの知史の写真を見つめた。


「さらに、知史君の後を追うように、夫人も一か月後に······」
「え!?亡くなったんですか?」


蘭が驚いて尋ねると、白鳥は静かにうなずいた。


「杯戸駅のホームから線路に落ちて······事故か自殺かは不明です」


あまりにも悲しい事実に、蘭はうつむいた。
すると隣に座った小五郎が顎に手を当てて目を閉じ、「うーん······」と顔を上げた。


「東都スタジアム······救急車か······」
「ン?どうした毛利君」


目暮が訊くと、小五郎は首をひねった。


「いえ······何か覚えがあるような······」
「本当ですか!?」


千葉と白鳥が身を乗り出す。


「うーん······あったようでなかったかも······まっ気のせいだな!」


小五郎がガハハと笑うと、皆が一斉にあきれた顔をした。


「もお!真面目に考えてよ、お父さん!」

((ったく。紛らわしいリアクションしやがって······))


コナンと花恋も隣の小五郎を軽くにらみ、白鳥が仕切り直しの咳払いをした。


「最後に中岡さん。三年前の二月にバイクで事故を起こした後すぐに手術を受け、半年間リハビリを続けましたが、左足は元のようにはならず、スピリッツから内定を取り消されました」
「スピリッツにですか!?」


小五郎が訊き返すと、千葉が「ええ」とうなずいた。


「その後、サッカーをあきらめて単身南米へ。去年八月に帰国。群馬の実家に戻り、バイクで暴走行為を繰り返すなど、荒んだ生活を送っていたようです」


千葉の報告を聞いたコナンと花恋は険しい顔でうつむいた。
五人の調査報告を終えると、目暮はホワイトボードの前に立った。


「結論として、山森さんと香田さんは東都スタジアムを爆破する一応の動機はあり、爆弾を仕掛けやすい立場にいるが、自作自演というのは考えにくい」


そう言うと、目暮はホワイトボードに貼られた山森と薫の写真を取り外した。


「榊さんも、オウンゴールを冷やかされたことが即、毛利さんへの恨みや挑戦に繋がるとは考えにくいですね」
「だから冷やかしてねーって!」


小五郎はムッとした顔で白鳥に言うと、腕を組んで考えこんだ。


「それよりオレが引っ掛かるのは、本浦さんの息子が心臓発作を起こしたのが東都スタジアムで行われたJリーグの試合を見た後ってのが······」
「ええ、それは私も同感です」


白鳥がうなずく。
目暮は本浦の写真を見つめて「しかし······」と言った。


「それだけでJリーグを恨んだというのは無理があるだろう。息子さんの死と直接関係はないんだからな」
「え、ええ······」


と答える白鳥を、コナンと花恋はチラッと見た。
白鳥は完全には納得していないようだった。


「で、問題は最後の中岡さんだ」


目暮は本浦の写真を外し、残った中岡の写真に近づいた。


「群馬県警の山村警部の証言によると、まるで死に場所を求めているかのように、かなり無茶苦茶な暴走をしていたらしい。Jリーガーになれなかったのは、自分がバイクで事故を起こしたため。それで、内定を取り消した東京スピリッツを逆恨みしている可能性は十分ある」
「彼が南米にいた一年間の行動は不明ですが、爆弾の入手に繋がる何かがそこにあるのかもしれません」


千葉が付け足すと、小五郎はうなずいた。
手帳を持ち直した白鳥が小五郎を見つめる。


「以上の理由から、中岡一雅を徹底マークすることになりました」
「まぁ、本浦さんの件はちょっと気になりますが······一番クサイのはやはり中岡でしょうな」


目暮たちの捜査方針に小五郎も納得した。
二人も隣でうなずく。


((確かに······今までの話を聞いた限りでは、怪しいのは中岡さんだな······))

「中岡は今年の九月から杯戸町のアパートを借り、都内のバイク店でアルバイト中です」


千葉の報告が終わり、目暮は中岡の写真を指で示した。


「今も佐藤君と高木君が張り付いている。中岡がホシなら、必ず動き出すはずだ!」


翌日の夜。
目暮たちは再び毛利探偵事務所を訪れた。


「え!?中岡さんを逮捕したの!?」


高木の報告に驚いたコナンは思わず聞き返した。


「あ、ああ。ゆうべ、彼に張り付いていたとき、興奮して殴りかかってきたんでね」
「それで今朝、落ち着いたところで話を聞いてきたんですが、どうやらスピリッツへの恨みという線はなさそうです」


佐藤が報告すると「なにぃ?」「どういうことだ?」とソファに座っていた目暮と小五郎が身を乗り出した。


「それが······スピリッツが内定を取り消したのではなく、中岡の方から申し出たらしいんです。しかも、中岡がバイクで事故を起こした後、スピリッツは手術代もリハビリの費用も出して、左足が完全に元に戻らなかった中岡を契約したいとまで言ってきたそうです。たとえ十五分でもいいから、フォワードの切り札として使いたいと······」


佐藤の報告に、その場にいた皆が驚いた。
「そうだったのか······でも、それならどうして中岡は契約しなかったんだ?」と目暮が尋ねる。


「中岡のプライドが許さなかったそうです。九十分間ピッチに立ち続けられない人間に、サッカーをやる資格はない、ましてプロのJリーガーとしてはと······」
「スピリッツに確認したところ、中岡さんの話は事実だとわかりました」


高木が告げると、佐藤は内ポケットから手帳を取り出して、はさんであった写真をテーブルの上に置いた。


「バイト先の店長からこれを預かってきました。彼が南米から送ってきた写真だそうです」


目暮は写真を取り上げた。
隣の小五郎が写真をのぞき込む。
その写真には、サッカーボールを持った現地の子どもたちに囲まれ、楽しそうに笑っている中岡の姿が写っていた。


「うーむ······山村警部の話とはだいぶイメージが違うな······」
「裏にメッセージがあります」


佐藤に言われ、目暮は写真を裏返した。
そこには『店長 やっぱオレ、サッカーやめられねぇや』とやや乱雑な字で書かれていた。


「なるほど······」
「人は見かけによらず······案外、子ども好き、サッカー好きのいいヤツなのかもしれませんな」


目暮と小五郎は写真を見つめながらつぶやいた。


((だけど······))


ソファの横で今までの話を聞いていたコナンと花恋には疑問が残った。


((中岡さんが犯人じゃないとしたら、いったい誰が······))


二人の頭の中には他の四人の顔が浮かぶ。
山森、榊、本浦、薫───······。
薫の顔を思い浮かべたとき、二人はサッカー教室で薫が後ろ手に隠した手帳を思い出した。
ちょうど開いたページが二人の目の前に来て、書かれていた文字を読むことができたのだ。
手帳には『S VS A』と書きかけたその上に、『杉並運動公園 AM六時〜 K・K』と書かれていた。


((K・Kって誰なんだ······?杉並運動公園、午前六時か······))


事件とは関係ないメモなのかもしれないが、二人は何となく気になった。
_9/16
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